【台北ゲームショウ2015】ドット絵はPhotoshop、プログラミングはフルスクラッチ。兄弟ユニットだから完成した『Hero Emblems』

 2015年1月にリリースされるや否や、瞬く間に人気アプリとなった『Hero Emblems』(HeatPot Games)。 3マッチとアクションRPGという異色の組み合わせや、ドット絵ベースの昔懐かしい美麗なグラフィック、ボケとツッコミが楽しいストーリーなど、さまざまな評価ポイントがある本作だが、なんといっても注目は「兄弟二人で開発している(らしい)」という点だろう。台北ゲームショウのBtoBエリアに出展していた同社に特別インタビューを行った。

Heat Pot Games 公式サイトhttp://www.heatpotgames.com/

『Hero Emblems(ヒーローエンブレム』トレーラームービー

――はじめまして。自分の周りでは多くの業界人が『Hero Emblems』を遊んでいますよ。お会いできて光栄です。

ジノジュリアン ありがとうございます。兄のジノ・カクと弟のジュリアン・カクです。

ヒーローエンブレム1
▲兄弟で開発をしているHeat Pot Games。左が兄のジノ・カクさん、右が弟のジュリアン・カクさんだ。

――それでは、簡単に自己紹介をお願いします。

ジノ もともとソフトワールドをはじめ、台湾の大手企業で10年以上プログラマーとしてMMOゲームの開発に携わってきました。

ジュリアン 自分はガマニアなどで10年以上アーティストとしてMMOゲームの開発に携わってきました。

――独立はいつごろですか?

ジノ 自分の方が早くて2012年4月に退職しました。そろそろ自分のゲームが作りたくなったんです。

ジノさん

ジュリアン 自分がそこから半年くらいたって会社をやめて、兄のプロジェクトに加わりました。

――兄弟で一緒にゲームを作ってみて、どうでしたか?

ジノ よかったですね。やっぱり同じような経験をしながら成長してきているので、お互いのことがよくわかっています。良いことも悪いことも、なんでもフランクに話し合えますしね。問題が発生した時でも、1−2日ほどじっくり腰をすえて考えてから、ちゃんと腹を割って話せます。そこは兄弟ですから。

ジュリアン おすすめですね。大手で働いていた時って、よそで問題があっても、あまりカバーしあわないんです。でも兄弟だとカバーしあうのが普通です。最初は「自分では能力不足かも」と思いましたが、結果的には大丈夫でした。

ジノ 小さい頃から遊んできたゲームが同じなので、コミュニケーションがしやすいのも良かったですね。実は弟が退職すると聞いて、一緒にやらないかと誘ったんです。二人とも実家ぐらしですし、退職金や貯金などでこれまで開発を続けられました。

ジュリアンさん

――ゲームのアイディアはどこから出てきたんですか?

ジノ もともと自分の方で「3マッチ+アクションゲーム」というアイディアを暖めていて、半年以上かけて一人で作っていました。そこから弟がジョインしてきて、「各々の登場人物に『紋章』という要素を当てはめて、そこからストーリーを膨らませていったら、ゲームとしてもおもしろくなるんじゃないか」とアイディアを出してきたんです。それでアクションRPGになりました。

ジュリアン もともと『FF』『ドラクエ』などが好きで、そういったテイストを入れたかったんです。

――開発期間はどれくらいですか?

ジノ 弟が入ってきてから2年以上かかりました。最初から合算すると3年くらいになります。二人の貯金の問題もあり、他に人を雇えなかったというのが正直なところです。

ゲーム画面

――今、有料アプリはたいへん厳しいと言われますが、あえて有料で出した理由はなんですか?

ジノ はじめから有料アプリにすると決めていました。途中でストーリーも追加されましたし、そこから無料アプリに切り替えたら、いろいろと大変すぎるので、そのまま押し通しました。

――わかります。でも、なんで最初から有料アプリにこだわったのですか?

ジノ 有料アプリというビジネスモデルが好きだからですね。F2Pのアプリも遊びますが、あまり好きではありません。というのも、F2Pにするならガチャなどのマネタイズ手段を入れる必要が出てきます。そうなると「終わりのないゲーム」を作ることになります。エンディングを設定するためにも、有料アプリである必要があったんです。

――自分が好きなゲームを作る、まさにインディゲームですね。

ジノ そのとおりですね(笑)。

――ちなみにドット絵は全部お一人で?

ドット絵

ジュリアン そうですね。1つのキャラクターは256☓256ピクセルで描かれていて、けっこう使い回しもしています。モンスターやNPCなどをあわせて、全部で100キャラクターくらい描いていました。主人公キャラクターで言えば、基本の剣をふるモーションで6フレーム(6パターンのパラパラアニメ)ほど使っています。ただ、頭だけすげかえたり、剣など細かいパーツの組み合わせで、一人でもなんとかなると思いました。

――いやいや、これが初めての2Dゲームですよね?

ジュリアン もともと3Dモデリングデザイナーで、ドット絵を描くのはこれが初めてでした。独学で勉強しながらドットを打ちましたね。

――とてもグラフィックが美しいので驚きました。ちなみにゲームエンジンなどの活用は?

ジノ 使っていません。プログラムはすべてC++で書いていて、iOS限定になっているのもそのためです。

――いやいや、それもおかしいでしょう(笑)

ジノ それまで使ったことがなくて、習得コストを考えればすべてC++で書く方が早かったんです。正確にはiOS向けなので、Objective-CとC++を混在させるObjective-C++を使用して、C++で書かれたライブラリを活用しています。ゲーム以外にパーティクルやシーンを切り替える上で必要になるプレビューツールなども自作しましたた。

――うーん、逆にいろいろと新鮮です。ちなみにC++であればAndroidの方が向いていたのでは?

ジノ 機種チェックが大変すぎるので最初から考えていませんでした。移植についても検討はしていますが、少し時間がかかると思います。

――ちなみにドット絵のエディタは何を使われましたか?

ジュリアン Photoshopです。

――なんだか、ここだけ時間の流れが20年くらい遅い気がします。

ジノ そうかもしれません(笑)

――かなりド派手にアニメーションやエフェクトが行われますが、メモリ不足や処理落ちなどの問題は起きませんでしたか?

ゲーム画面2

ジノ 実は現在のバージョンでは、ゲーム中に電話がかかってくるとアプリがシャットダウンしてしまうんです。これはアップデートで早急に対応したいですね。

――そこから対応ですか! いや、いろいろとすごいですね。

ジノ そこはアプリを作った側の責任ではないかと思っています。

――ちなみに、序盤のストーリーについて教えて下さい。

ジュリアン 「魔王の復活を阻止するために、異なる紋章をさずかる四英雄が立ち上がる」というのが大まかな設定です。魔物(レッドデビル)に眠らされ、連れ去られた姫をおいかけて冒険を続けていくうちに、より大きな事件や陰謀が明らかになっていき……という。

ストーリー画面

――そこまではわかります。でも「水晶の洞窟」(かなり序盤のダンジョン)で、レッドデビルに勝てないんです……。

ジノ 難しすぎるとよく言われます。たしかにバリアをきちんとはらないと勝てないかもしれません。

ジュリアン 雑魚敵と戦って、装備を充実させることで、勝ちやすくなりますよ。

――有料アプリだと完全にバランス調整がとれる一方で、ユーザーもそれを期待すると思うんですよ。人数が少ないと大変なのでは?

ジノ コアゲーマー向けにすることは最初から決めていました。ただ、最後は自分の感覚で難易度を決めてしまったかもしれないですね。 

――何か参考になったゲームはありますか?

ジュリアン 個々の要素というよりも、全体的なゲーム体験という意味で『ドラゴンクエスト』シリーズの影響を受けています。たとえば最初はパーティが一人で、ストーリーが進むにつれて、だんだん増えていくとか。はじめて毒攻撃をするモンスターが登場するダンジョンでは、宝箱に毒消しのアイテムが入っているとか。あとキャラクターが死んだら棺桶アイコンになってしまうような、ちょっとしたユーモアも、おもしろいと思いました。

――連続技やコンボなど、さまざまなテクニックがありますね。

ジノ ベースは3マッチなので、いかに連鎖で消していくかがポイントです。そこから「4つ消し」「5つ消し」で何をするか考えて、紋章が出現するようにして、さらに技を派生させていきました。

――3マッチなので普通のコマンド選択式よりも運の要素が強くなりますよね。自分のようにバトルが下手な人、いいかえれば「勝つも負けると連鎖次第」という人向けのコツはありますか?

ジュリアン 相手のパラメータをよく見て、行動を予測することでしょうか。死にそうになる前に、事前にHPを回復させておくとか・・・。

マップ画面

――サウンドは誰が作られたのですか?

ジノ フリーの音楽素材を公開する「音楽の卵」(おんたま)というサイトがあり、ここから作者にコンタクトを取って使わせてもらいました。他にも知り合いに手伝ってもらっています。

音楽の卵http://ontama-m.com/

――多くの人が協力していると伺いました。何人くらいが手伝われたのでしょうか?

ジノ うーん・・・数えきれないかも?

ジュリアン 細かいところでは、自分が書いたストーリーの原案について感想をもらったりもした。なんだかんだで、合計10数人には手伝ってもらったと思います。

――さすが、人徳ですね。ただ、ローカライズは業者に発注していると思いますが?

ジノ 中国語(繁体字)以外に、英語と日本語へのローカライズは最初から決めていました。そのほうがビジネスが広がると思ったからです。どちらも台湾のローカライズベンダーで、特にこちらから指示を出してはいません。キャラクターごとの個性の表現なども、ゲーム翻訳者が自身の経験で行っていると思います。翻訳のクオリティについてはベンダーを信じるしかありません。実際どうですか?

――いやいや、日本語についてはかなり高いと思いますよ。ラノベ的というか、日本人好みというか。

ジノ それを聞いて安心しました。

――それでは最後に一言、日本のユーザーにメッセージをお願いします。

ジノ 無料で遊べるゲームはたくさんありますが、一人で楽しめて、ストーリーのある有料ゲームは、今となっては珍しいのではないかと思います。ぜひ楽しんでほしいですね。

ジュリアン もともと二人とも日本のRPGを遊んで成長したので、もし自分たちのゲームで日本のプレイヤーが喜んでもらえれば、とても嬉しいです。

――ありがとうございました。

Heat Pot Games