趣味が高じて始めた古本屋。この商売を継続していくためには、本が売れたら売れた分だけまた補充しなければならない。普通は、組合が開催する競りに参加して仕入れたり、お客様からの持ち込みを買い取ったりすることで在庫を補充する。けれど、うちの店(マニタ書房)は組合に加盟していないので競りには参加できないし、お客様からの買取りも基本的にしていない。
なぜ買取りをしないかというと、マニタ書房は店主とみさわがおもしろいと思った本しか置かない、特殊古書店というスタイルを守っているからだ。したがって店頭に並ぶのは、ぼくが全国の古本屋さん(主にブックオフ)をまわって「これだ!」と思う本ばかり。お客さんからの買取りをしちゃうと、それが“薄まっちゃう”のよね。
そうした、よくわからない店主のこだわりで成り立っているマニタ書房の経済活動だが、ここにきて危機が訪れている。なぜなら、本来は古本屋めぐりに使わなければいけない貴重な時間が、店主が道楽で始めたDJ活動によって浸食されつつあるからだ。古本屋めぐりをするかわりに、中古盤屋めぐりばかりしている日々。いいのか? これでいいのか? まあいいんじゃないかね~。
◆春日部~越谷ルートで2軒のレコ屋をまわる
そろそろ古本を補充しなきゃな~という懸案事項は一旦横へ置いて、今日は春日部あたりでレコード掘るか! と心に決めた6月のある日。もうね、レコ屋に行く日は朝からルンルンなんスよ。だらしない顔してツアーのスケジュールを立てたりしちゃう。
目的地を決めたら、スマホアプリの乗り換え案内でルートを導き出す。一軒めの開店時間から逆算して、家を出る時間を割り出す。今回の目的地である春日部に向かうためには、我が家の最寄り駅のひとつである新松戸から武蔵野線と東武スカイツリーラインを乗り継いで行くのがベスト。
そうそう、東武スカイツリーラインは名前が長いので、個人的にはスカ塔線と呼んでいる。これ、呼びやすくていいので皆さんにもバンバン使っていただきたい。
ま、そんなことはいいとして、春日部に着いたところから話を続けよう。今回、最初に訪問するのは「A-1ミュージック」という中古盤屋さん。もう、すぐにでも店に向かいたいところだが、この連載のことを忘れちゃいけない。駅前に降り立ったら、まずはひと呼吸入れてから『Ingress』を立ち上げて周囲をスキャンする。
で、最初に見つけたのがこの像だ。
▲地面にどすんと突き刺さる「穴空きのキットカット像」。
この像を作った芸術家の方は絶対そんな作品名を付けていないはずなので、いわゆる“勝手に見立てました系”である。こういうの大好き。あくまでも『Ingress』の中だけの話なんだから、どんどんやってほしい。
このキットカット像は駅前から少し離れたところにあったので、もう少し駅の近くに何かないだろうかと周囲を入念にサーチしてみると、次はこんなのがあった。
▲写真が暗くて見づらいが「シメジ像」。
よく鍋に入れたりする細身のブナシメジではなくて、ぷっくり丸いホンシメジだ。ふうむ、春日部の珍ポータルは「食べ物しばり」でいくか? なんて気持ちがちょっと出てきたぞ。そして、中古盤屋さんに向かって歩みを進めていくと、また変なポータルを見つけた。
▲不発弾のような形のオブジェだが、ポータル名は「Aki」となっている。
「Aki」とはなんだろう。あき、アキ、秋……? ひょっとして、ポータル申請者はこれをタケノコに見立てて、秋の味覚という連想から「Aki」と名付けたのでは!
なーんてことを友達にLINEで話したのね。そしたら「タケノコの旬は春だよ!」とはげしく笑われてしまった。マジかー。ぼくは53年間そんなことも知らずに生きてきた。キノコなんかと一緒で樹の根本に生えたりするから、てっきり秋なんだと思ってたよ。それに茶色いしね。茶色いものは秋の味覚ってイメージない? あるでしょ? なんなら、とんかつの旬も秋でいいよ!
◆シーサーと狛犬と世界のライオン
ほとんどやけくそみたいなことを言ってるうちに目的地に到着。
▲中古レコード店「A-1ミュージック」さんの店頭。
来るたんびに1階のシャッターが閉まっていて、一瞬「今日は休みだったか!」と驚いてしまうんだけど、店は2階なので大丈夫。ここは在庫量がとても多く、1時間ぐらいでは到底見きれない。とはいえ、昨年の10月に訪問したときにひと通り見ているので、掘るべきポイントは把握している。
効率よくチェックを済ませて、洋楽のディスコものと映画のサウンドトラックからよさそうな盤を4枚ほど購入した。写真でお見せするほどの珍盤ではないけど、それなりに足を運んだ甲斐はあったな。
さて、買い物を済ませたら春日部駅に引き返して、先ほどはとくに調べなかった駅の西側をスキャン。すると今度は動物のポータルを3体見つけた。
▲どこかの公園にある「コアラ」の手洗い場。
カワイイ~! けど、これ、股間が蛇口になってない? コアラの小便で手を洗うのイヤだよ? 目の錯覚であることを願う。
続いて、それぞれは別の店のようだけど、シーサーのポータルがふたつあった。
▲「シーサー」オリオンビールの提灯があるところを見ると沖縄料理店。
▲「わんこ」には中華料理酔香園新館の入り口に設置と書いてある。
それにしても、わんこって(笑)。狛犬だと言いたいのかな。でも、設置されているのは中華料理屋なんだよね。
そういえば、シーサーと狛犬って、そっくりだけど何が違うんだろうか? ふと疑問に思ったので調べてみた。
結論としては「同じもの」だった。その起源は古代オリエントのライオンで、それが中国から沖縄へと伝わったのがシーサー、朝鮮半島から日本に伝わったのが狛犬、ということのようだ。エジプトのスフィンクスも、タイのシンハーも同類らしい。で、そういうことを知ってからあらためて「わんこ」を見ると、ひざカックンと脱力できてなかなかよろしい。
◆エネルギー補給は灼熱のラーメン
さあ、ここらで腹が減ってきた。今回は旅のシメではなく、途中でラーメンをキメることにしよう。春日部から東京方面へひと駅の一ノ割で下車。ここから徒歩10分ほどのところにある「石焼きらーめん火山」に行くのだ。
写真を見ておわかりのように、ここは灼熱のラーメンが名物の店。「火山」という店名もすごいが、出てきたラーメンのインパクトもすごい。ぼくは熱い料理が大好きで、いつも携帯用温度計を持ち歩いてるから測ってみたけど、このラーメン90.4℃もあったよ。普通のラーメンがだいたい60℃前後だから、どれほど常軌を逸してるかわかるでしょ。でも、これをぼくは取り皿とか使わないでダイレクトに食べちゃうの。常軌を逸してるのはぼくの方か。
いい汗をかいたので、ふたたびレコードを掘りにいく。一ノ割からまたスカ塔線に乗って、今度は越谷で下車。目的地の中古盤屋は徒歩で行ける距離ではないので、駅前から路線バスに乗る。クルマ移動と違って、バスなら自分がハンドル握ってるわけじゃないから珍ポータルも探し放題だ。
バスで移動しながらスキャナーをぐるぐるまわし、これはと思うポータルを拡大して見る。そうこうするうちに、いい感じのパンダを発見した。
▲バーバーの三色ポールと並ぶ「パンダ」。
あらためて見直してもやっぱりいいなこれ。まったくパンダ的なフォルムをしていないところがいい。おまけにモミアゲまである。アゴも割れてるし。
さて、珍エージェント活動をしているうちに、バスは目的地に着いた。降車して少し歩いたところにあるのが、今回の最終目的地である中古盤屋さん「セカンドマーケットプレイス」だ。ここには初めて来たけど、ガレージスタイルの中古レコ屋だった! こういうのアメリカっぽくていいなあ。
シャッターが半開きだったので顔を突っ込み、作業中の店主に営業中か尋ねてみたところ、OKとのこと。中に入ってみると、床のあちこちにレコードの詰まった箱が置いてある。こういうの最高。ホコリっぽい感じもむしろ好ましい。
なんだかんだで30分ほど格闘した末、洋楽ロックの箱からこれを500円で掘り出した。
▲クラフトワーク「ショールームダミー」のドーナツ盤!
たいへん満足して、帰りのバスを待つぼくなのだった。