映画『冷たい熱帯魚』『ヤッターマン』『片腕マシンガール』『凶悪』『極道大戦争』など、プロデューサーとして数々の話題作を手がけた鬼才・千葉善紀は、実は日本映画界有数のゲームファンだった!
家庭用ゲームを中心にプレイする千葉Pと、ゲーム雑談をしてみよう、というこのコーナー。あくまでもひとりのゲームファンとして、千葉Pが言いたい放題!
千葉善紀
日活株式会社 プロデューサー
(敬称略)
◆千葉Pの知られざる洋画買い付け歴
千葉 今日は、本題からずれますが、映画がゲームと本当に融合した、そんな話をします!
――なんと。千葉さんは先日、トロントに出張されていたそうですね。
千葉 そうなんですよ。実は僕、本業は映画の仕事をやっておりまして(笑)。プロデューサーとして日本映画を作る一方で、映画祭に行って洋画を買う仕事もしているんです。僕はもともとギャガで洋画の買い付けや宣伝からスタートしているので、ずっとやっている仕事でもあるんです。
――そうすると、制作よりも、むしろ買い付けのほうが早くからのお仕事なんですね。
千葉 当時のギャガは、『悪魔の毒々モンスター』(1984年の映画)などのトロマ映画を全部買ってきたり、ゴミみたいなニンジャ映画(笑)を買ってきて、いろいろなメーカーに売り付けていました。なので、映画の買い付けのほうが、僕の映画史の中では古いですね。
――千葉さんのキャリアとしては、案外世の中に知られていない気がしますね。
千葉 洋画のヒット作も結構出しているんですよ。ミニシアターで大ヒットした『ホテル・ルワンダ』(2004年の映画)も、実は僕が買ったんです。公開署名運動もありましたけど、映画を観て「すごいな」と思ったので、社内の反対を押し切って買ったんですよ。ホラー映画の買い付けもたくさんやってるんですけど、実はいい映画も買っているんです、というのをここで言っておきたい(笑)。
――血まみれ映画ばっかりじゃないぞと(笑)。
千葉 VHSが出始めの頃から洋画の権利を買って、邦題付けて、解説書いて、営業までやってました。映画会社のヘラルドが『ランボー者』(1987年の映画)という有名な便乗映画を出していたので、更に真似して僕は『コマンドー者』(1987年の映画)というのを出しました(笑)。
――ダジャレでも何でもないじゃないですか!(笑)
千葉 全然引っかかってない(笑)。それがまた意外に売れちゃったりして。
――ビデオ全盛期の、いい時代ですねぇ。
千葉 あの頃は適当な邦題付けても何でも売れましたから、楽しかったですよ(笑)。江戸木純さん(編注:映画評論家。外国映画の配給も手掛ける)や、いまは監督の鶴田法男さん(編注:映画監督、脚本家。配給会社を経て映画監督となり、『ほんとにあった怖い話』でJホラーの先駆けとなった)が僕の上司だったんです。
◆トロント映画祭で逸品を発見!
――千葉さんは、そういう買い付け仕事もたくさんしていると。
千葉 そう。で、買い付けは、5月のカンヌ映画祭、11月のアメリカン・フィルムマーケットと、年に二回大きいマーケットがあるんです。それに加えて、いまはトロント映画祭やベネチア映画祭といった映画祭に買付のマーケットが併設されて、映画の売り買いが一緒に行なわれています。アメリカには大きな映画祭がない関係で、いまではカナダのトロント映画祭も売り買いの一大マーケットになっているので、そこに行ったわけです。
――そういったマーケットでは、何か見つけられたりはするんですか?
千葉 トロントはすごく特徴があって、ミッドナイト・マッドネスという、ジャンル映画の部門があるんです。たぶん一般の映画祭でジャンル映画を公式プログラムに組み込んだのは、トロントが初めてだと思います。今回その部門に、僕がプロデュースした『極道大戦争』(2015年の映画)が招待されたので、三池監督と行ってきました。去年は『TOKYO TRIBE』(2014年の映画。園子温監督)も招待されたので、二年連続になります。
で、ミッドナイト上映だから、夜中の12時にノリノリの奴らがどこからともなく集まってくるんです。
――ジャンル映画を愛する人たちが(笑)。
千葉 とにかく騒ぎに来るんです。ミッドナイト・マッドネスの会場は映画祭の上映劇場でも一番デカい会場で、1200人くらい集客あるのに、「しょせんジャンル映画でしょ?」という扱いでもあって、映画祭の中ではメインのカテゴリーに比べると斜めの目線で見られてたりします。
でも、今回そこで、ものすごいことが起きたんです! それが『HARDCORE』という映画なんですよ。
◆インディー映画、発掘のされ方
――ほー。それが今日の本題ですね。
千葉 今回この映画が、ミッドナイト・マッドネスで上映されるということで、ものすごく注目されていたんです。ただ、ロシア映画なので、まだ世界配給が決まってなかったんですよ。となると、サンダンス映画祭などでもそうなんですけど、インディーズで作った映画を世界中のバイヤーの前で初披露して、最高に盛り上がっている中で一番高い値段をつけた人が競り落とす、マーケットの一番正しいあり方が発生することになります。
『HARDCORE』に関しては、そのワールドプレミアが、今回のトロントで行なわれたんです。
――映画買い付けとしては、実にストレートな商売の形なわけですね。
千葉 その形で一躍有名になったのが、多分『マッドマックス』(1979年の第一作)だと思います。あれはオーストラリアのインディー映画だったのが、すごいということでマーケットに出て、話題になってワーナー・ブラザースが世界配給を買った、インディーズからメジャーになった例なんですよ。
――そういう奇跡が起こることもあるんですね。
千葉 それが映画のマジック。インディーズで作った映画が一夜にして世界に出て行く、夢の瞬間なんです。
『HARDCORE』は、仕上げのお金がなくて、Kickstarterで募集してたくらいの映画だったんですよ。本当にどインディーで、苦労して苦労して作り上げて、ようやくミッドナイト・マッドネスに持ってきたんです。
――そんなにどインディーだったんですか。
千葉 それでも話題になっていたので、僕もその日、一番で観に行きました。雨も降ったんですけど、2時間くらい前からものすごい行列になっていて、異様な熱気があったんですよ。アメリカのメジャースタジオから何から、世界中のバイヤー連中もみんな来ていたらしくて。
――そんな風に、ヨーイドンで品定めがされることは、あまりないことなんですか?
千葉 いま、これだけ情報戦が盛んになっていると、実はもうある程度の人は観ていたり、既に買われていたりすることがほとんどです。だからこそ、今回の『HARDCORE』は、本当に珍しかったんですよ。プログラムを組んでいる友人も「本当に今日はスペシャルな日だ。この映画は完成したばかりで、今日この瞬間から歴史が始まる」と言っていたんです。その雰囲気も、ビンビン伝わるものがありました。
◆『HARDCORE』は世界初のFPS映画だった!
――それだけ特別な状況で上映された『HARDCORE』は、一体何がすごかったんですか?
千葉 何と、この映画は、ゲームと融合した世界初のFPS映画だったんです! まずは、ぜひYoutubeにあるトレーラーを観て欲しいんですよね。
――すごいですね……。
千葉 似たようなものにPOV映画(編注:Point of Viewの略で、ビデオカメラなどを媒介とした、主観視点を中心に作られた映画)というのがあって、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年の映画)がキッカケになって流行ったスタイルですね。安く作れるので、映画祭に買い付けに行くと、同じようなクソつまらないPOV映画がたくさん観られます(笑)。なので、POVももう食傷気味かな、となっていたところに、コレですよ。とんでもない! しかもロシアから!
――傍観者としてのPOVじゃなくて、主人公自身の視点なんですね。
千葉 この連載でお話ししたゲーム『ダイイングライト』(PS4/Xbox One用、ワーナー・エンターテインメント・ジャパン)と同じですよ。主人公の視界で、手だけが見えている状態。観客は映画をすべて体感していくんです。
この連載で取り上げてきた映画ゲームは「映画をゲームで体験する」ものでしたけれど、『HARDCORE』を作った連中は、「ゲームを映画で体感する」ものを作っちゃったんですよ!
――POVがそうなったように、『HARDCORE』から、FPS映画と言うべきものがフォーマットになり得ますね。
千葉 そうなり得ちゃいましたね。とはいえ、これは、ちょっとやそっとじゃ真似できないです。一度観ただけだと、どうやって撮っているのかも分からないと思います。
――スコープで狙撃するシーンまであって、完全にFPSそのものですね。
千葉 主人公が飛び降りると、そのまま視点も降ります。それが全部ワンカット。まさに『ダイイングライト』でやっていたパルクールと同じ動きですよ。ほとんどコントローラを握りしめている感じで観られますからね(笑)。
この映画のクレジットも面白くて、「主演:観客」って書かれてるんですよ。主演俳優は、観ている観客自身なんです。主人公の彼は人造人間で、というストーリーもありますが、とりあえずお話しなんかどうでもいいです!
で、何がそんなに凄いのかというと……
(次回に続く)
映画『HARDCORE』公式サイト
http://hardcorethemovie.com/
(2015年10月収録)