勇者といえば、魔王と戦う力強いヒーロー。勇者の血を引く少年が、剣を手に取り冒険に旅立つ……そんなストーリーに憧れた人も多いはずだ。だが、実際に自分が勇者の子孫だったらどうだろう? 王様、父親、周りの人々から注がれる期待のまなざし。そのプレッシャーたるや、どれほどのものか……。
今回紹介する『仮面の勇者 ~心の迷宮RPG~』の主人公アレクサンダーは、そんな重圧に押し潰され、心を閉ざし、ついには引きこもりになってしまった。プレイヤーは「指南役」となって、自分の部屋に閉じこもったアレクサンダーを、遥かな冒険の旅へ導くのだ。
◆心の迷宮を探索し、勇者に戦う力を与えよ!
『仮面の勇者 ~心の迷宮RPG~』は、ステージクリア型のRPG。プレイヤーは、アレクサンダーの「心の迷宮」に入って、彼の旅路を助けるのだ。「心の迷宮」では、一筆書きの要領で次の部屋を目指す。一度に歩けるのは10歩まで。プレイヤーが1部屋突破するごとに、アレクサンダーの旅も進むという仕組みだ。
「心の迷宮」には、「剣」や「弓」などの潜在能力アイコンが落ちていて、これを拾うとアレクサンダーの能力が上がっていく。敵キャラクターには、剣に弱い、弓に弱いなどの弱点があるので、ステージに登場する敵の属性を見極めて効率よくアイコンを集めるのがコツだ。
同じ種類のアイコンを連続して取ると「コンボ」になり、能力が通常より多く増える。さらに、同じアイテムを9個連続で取ると「パーフェクト」で、次の部屋が「ボーナスフロア」になる。「ボーナスフロア」では歩数制限なしで歩けるうえに、部屋中が1種類のアイコンで埋め尽くされているので、大量にアイコンを拾うことが可能だ。
◆引きこもり勇者アレクサンダーを襲う試練……これは愛と勇気の物語だ
このゲームを語るうえで見逃せないのは、アレクサンダーを巡るストーリー。彼の引きこもりっぷりは堂に入ったもので、最初のクエストは「廊下を歩いてみる」ところから始めなければならないほどだ。しかし彼は勇気を振りしぼり、廊下から庭へ、ついには広大な外の世界へ旅立つのである。
アレクサンダーを取り巻く状況は、ディフォルメされたかわいらしい絵柄に反して、かなり過酷だ。この世界は平和そのもので勇者の存在意義が失われており、アレクサンダーに課せられた「勇者の塔を目指す」という使命も、形骸化した儀式に過ぎない。王様から使命を与えられるシーンは台本どおりの演技。町の人々はアレクサンダーを「アレ」などと呼んで軽んじている。その一方で、息子を立派に育てようと焦る父親は過剰に厳しく叱責してくる。
唯一の味方だった祖母は他界しており、アレクサンダーを守ってくれる者は誰もいない……そしてついには、心のよりどころにしていた祖母の形見を捨てられてしまい、アレクサンダーはふたたび引きこもってしまうのである。
だが、こんなときこそ指南役の出番。アレクサンダーの心の迷宮にもぐり、彼を励ますために「記憶のかけら」を集めるのだ。すべての記憶のかけらを揃えると、アレクサンダーは立ち直り、ふたたびクエストに挑めるようになる。
アレクサンダーは自分の存在意義を見出せず、そのくせプレッシャーだけはかかる立場に追い込まれている。しかし彼は決して弱くはない。心の迷宮で勇気を少し引き出してやれば、アレクサンダーはちゃんと自分の足で歩き出すのである。たびたび傷つきながらも自分の使命に立ち向かう彼を見ていると、心から応援したくなってくる。じわりと胸に響く静かな感動。これは、愛と勇気の物語なのだ。
◆決して派手さはないが、じわじわと胸を打つRPG
肉(行動力)を消費してクエストに挑み、ドロップやガチャで集めたアイテムを合成してレベルアップ、というゲームシステムは、確かに平凡なものだ。露出度の高い女性キャラクターや、派手な画面演出もない。
しかし、それらを補って余りあるほど本作はストーリーが魅力的だ。こちらのシナリオ、『弟切草』や『かまいたちの夜』、『街』といったサウンドノベル黎明期の傑作に深く関わっている麻野一哉さんが手がけていると知って納得。シリアスなテーマを扱っているのに深刻にはならず、プレイヤーに静かな感動を与えてくれる。隠していた内心を少しずつ見せてくれるアレクサンダー、心やさしい指南役、とぼけていてどこか憎めない町の人々など、キャラクターたちの会話を追うだけでも楽しい。
本作はさながら、深みある児童文学のような作品である。物語の味をじっくりと楽しむのが好きな人におすすめだ。ぜひ、迷える勇者アレクサンダーとともに、人生という冒険の旅に挑んでほしい。