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【ジュピター開発者インタビュー 後編】京都の家庭用ゲーム開発が作るとスマートフォンゲームはこうなる!

『マリオのピクロス』をはじめ、任天堂ゲームハード向けに名作を提供してきた開発会社、株式会社ジュピター。いわば“家庭用ゲームの名裏方役”だったジュピターが、スマートフォンゲームでいよいよ自社タイトルをリリースしはじめた。
 今回は、京都のジュピター本社にお邪魔して、家庭用とスマートフォンゲーム開発の内情を伺った。

<インタビュー前編はこちら>

 後編は、最新リリースのスマートフォン向けタイトル『スマピク』『ドキドキ!コスプレキューピッド』について。それぞれの開発メンバーに集まってもらい、開発現場の実際を聞いた。

株式会社ジュピター

 目黒徳親: 開発部 マネージャー (中央)
『スマピク』開発メンバー
 古川: 開発部 ディレクター兼プログラマ (一番右)
 古村: 開発部 デザイナー (右ふたり目)

『ドキドキ!コスプレキューピッド』開発メンバー
 佐々木: 開発部 デザイナー(本作ディレクター) (左ふたり目)
 藤田:開発部 プログラミングディレクター (一番左)

 (敬称略)

◆20年の経験が詰まった『スマピク』

――ジュピターのスマートフォン初の自社タイトル『罠、はじめました。』に続くスマートフォンタイトルが、今年10月にリリースした『スマピク』ですね。ここからは『スマピク』を開発された、古川さんと古村さんにも入っていただきましょう。改めて『スマピク』をご紹介いただくと、どんなゲームでしょうか。

古川 イラストロジックパズルのゲームです。問題を販売していく形で追加していくほか、無料で遊べる問題もかなりの量を収録しています。

――イラストロジックパズルということで、ジュピターとしてはごく自然な流れにあると思いますが、もともとはどんなきっかけで始まったんでしょうか。

古川 一番最初は、他社に提案する企画のたたき台として始まったんです。その期間を含めると、かなり長い期間をかけていますね。そこから、これは自社で出したほうがいいという判断になってから、正式にスタートしました。
 当初はコンパクトに作る予定だったので、フォーマットもニンテンドー3DSのダウンロードソフトとして発売した『ピクロスe』シリーズで実績のある形を踏襲して、スタミナ消費でプレイする形ではなく、買い切りの形で問題を解いていけるようにしています。開発期間を短くする狙いもあったんですが、スマートフォン自体は僕も初めてだったので、半年以上かかって、ちょっと長引いてしまいましたね。


▲『スマピク』

――開発は、何人体制くらいでしょうか。

目黒 メインは、ディレクターでプログラマーの古川と、グラフィック全般の古村のふたりです。それに加えて、イラストロジックは問題作成が大変なんです。ウチが出すからにはある程度のクオリティを保ったものにしたいので、ウチのデザイナー全員に参加してもらって、総出で問題を作り、監修を僕がしています。

――ゲーム部分は、ジュピターが20年作ってきたイラストロジックですから、一番の得意手ではないかと思いますが、『スマピク』でも活かされましたか?

古川 それはかなり強かったです。競合他社のイラストロジックパズルもありますが、操作にストレスを感じることがあったので、かなり気を使ってチューニングしました。

――確かに、イラストロジックの電子化は、操作がひとつのポイントですね。スマートフォンのタッチパネルとは相性の良い操作系だとは思いますが。

目黒 タッチパネルで、画面が大きくなればなるほど相性が良いんですけれど、一般的なスマートフォンだとまだ少し小さいかもしれませんね(笑)。

古川 イラストロジックでは、ユーザーさんから、パズルのサイズが大きなものをやりたい、という希望もあるんです。ただ、そうするとマス目が増えて、タッチパネルだと辛くなる。小さい問題だと、タッチしやすいけれど、問題としては簡単すぎてつまらない。その辺で、他社もインターフェースには苦労されていると思います。いい落とし所を見つけるために、けっこう時間をかけました。

――同じスマートフォンのイラストロジックゲームでは、ジュピターは『ピクトロジカ ファイナルファンタジー』(iOS、Android用 スクウェア・エニックス)の開発もされていますね。『ピクロス』シリーズ、『ピクトロジカ ファイナルファンタジー』、そして『スマピク』と、どれも操作系が異なりますが、今回『スマピク』でスライド式の操作を採用したのはなぜですか?

古川 今回のインターフェースは、初期の段階で目黒がひらめいたもので、そこから揉んで作ったんです。

古村 片手で遊べることにこだわった、と言っていましたね。

目黒 片手にはこだわったんですけれど、時代がどんどん進んで、スマートフォンの画面が大きくなっちゃって、僕もすでに片手では無理だったりします(笑)。


▲左:デザイナー古村氏、右:ディレクター古川氏

◆イラストロジックは問題作りが重要

――古村さんにもお話を伺いたいんですが、イラストロジックのビジュアルや問題作成には長く関わっていらっしゃるんですか?

古村 僕自身は、ジュピターでは中堅ではあるんですけれど、入った頃にあまり『ピクロス』シリーズが活発ではなかったので、結果的にイラストロジックに関わってきた時期は短いんです。そのことで、逆に新鮮にイラストロジックを捉えられる、ということで『スマピク』に関わるようになりました。

古川 僕のほうはイラストロジックのファンで、難しい問題を喜ぶパズルマニアなんです。難しいのが好きな僕と、あまり触っていなくて簡単なほうから入る古村とで、意見をすり合わせる形で開発を進めることができました。

――いまの『スマピク』くらいの問題の難易度は、古村さんとしてはちょうどいいところに落ち着いている印象ですか?

古村 作っている身で言うのも何なんですが、難しい問題はけっこう難しいですね。

目黒 難易度の調整は難しいところです。単純に黒いドットを打てば問題として成立するわけではないので。絵を成立させることが先にあって、解ける状態に持っていけるまでが、開発としてのテクニックが必要なところなんです。

――イラストロジックの問題作成は絵から入るわけですか。

古村 やはりネックとなるのは、絵です。絵で表現できたうえで、それが問題として成立していて、連続する問題の中でバランスが取れている難易度に落とし込めるかどうか。そこまでできれば、一番綺麗な問題ということになります。実際は、その精度まで上げるのはなかなか難しいこともあるので、一番苦労している点でもあります。


▲『スマピク』開発風景。問題はこうして作られている。

――『スマピク』は、いまも定期的に問題が増えているわけですものね。問題が追加される頻度は、どのくらいのペースですか?

古村 1ヶ月に30問の追加パックを制作しています。11月までは70問ずつくらいを追加していて、トータルでは、12月現在で300問くらいあります。

――一本のゲームとしては、実はかなり多めの問題数ですね。300問は、何枚ものパズルをつなげて完成させる「デカピク」の問題数も含めての数ですか?

古川 いや、カウントしていないですね。なので、実質的にはもっと多いことになります。

古村 あれを含めると問題数としてはかなりの量があることになるんですが、大きな絵の1問という考えかたですね。なので、300問というボリュームよりもずっと多く遊べることになります。

――今後のアップデートについて、予定されているのはどんな流れでしょうか。

古川 主なのは、問題パックの追加です。他の部分で何かを追加できるかは、いろいろな状況を鑑みながら、という感じですね。

目黒 ゲームの性質としては、長くダウンロードしてもらえるものかな、と思っています。人の目に触れるのは大事ですので、露出の機会は増やしていかないといけませんが、『スマピク』は長い目で見て行きたいなと思っています。


▲絵として完成され、問題として成立させるには独自のノウハウが。

◆会社のイメージを壊すための『ドキコス』

――続くタイトルとしてリリースされたのが、12月3日(水)にAndroid向けに配信開始された『ドキドキ!コスプレキューピッド』ですね。ここからは、開発された佐々木さんと藤田さんに入っていただきましょう。

佐々木 ディレクションの佐々木です。中心となるのは、私と藤田のふたりです。

藤田 プログラムと、企画を一緒にやっている藤田です。

▲左:ディレクター佐々木氏、右:プログラマ藤田氏

――これは、ここまで伺ってきたジュピターのイメージからすると、だいぶ毛色の違うタイトルですね。正直、ちょっと驚きました(笑)。

佐々木 そこを狙って、なんですよ(笑)。パズル系や学習ソフト系が得意という、ちょっとお固いイメージを、なんとか壊してみたいな、と思ったんです。もうちょっと、企画を考える幅を持たせたかったし、「こんなことをやってもいいんかな」とみんなで盛り上がっていきたいな、ということで、先駆けてチャレンジさせていただきました。

――まさにチャレンジですね(笑)。企画スタートからリリースまでは、どのくらいかかりましたか?

佐々木 プロトタイプを作り始めたのは春くらいです。内容はいろいろ変わって、いまの形に落ち着いたのが夏から秋の初めくらい。そのくらいの時期から、しっかりと開発を始めました。

――秋からだとすると、実際の開発は早かったんですね。

佐々木 プロトタイプのときに、UI(ユーザーインターフェース)などについてはだいぶ進んでいたので、開発を始めてからは、それほどかかりませんでした。

――チャレンジとは言っても、女の子とコミュニケーションしながら進めるカジュアルゲームとなると、おそらく企業風土とはものすごく違うと思うんですが(笑)、社内にとまどいのようなものはなかったんですか?

佐々木 私自身にはとまどいはないんですけれど、承認してもらえたことにはとまどいました(笑)。あ、やっていいんや、大丈夫なんか、と(笑)。

――自分で言っておいて(笑)。

佐々木 いいんやったらやろう、と思いましたね(笑)。


▲『ドキドキ!コスプレキューピッド』

――最初の企画の段階から、おふたりでスタートしたんですか?

佐々木 始めは私ひとりで考えて、周りに相談しつつ、プログラマーをどうしようかという段で、藤田とふたりになった、という流れです。

――藤田さんは、さすがにビックリしませんでしたか?

藤田 ビックリしましたねぇ(笑)。

――制作には、すんなり入っていけたんですか?

藤田 そこはすんなり入れましたね。ビックリはしましたけれど、コンセプトは固まっていたので、こう作ると決めたら、とことんこれで行こう、という感じで作っていけました。

佐々木 とにかくやりたかったのは、弊社に一切関わっている要素がない、その一点なんです。不純とも言える動機ですけれど、堅い感じを壊していきたかったんです。

――ちなみにヒロインのキャラクターは、藤田さんが描かれていたり……?

藤田 いや、僕じゃないです(笑)。別のデザイナーがいて、社内で描いています。


▲開発室に貼られているキャラクタースケッチ。ラフ段階のイラストも見える。

◆『ドキコス』はすべてが実験

――ベースになる主人公のデザインを見ると、ちょっとSF風だったりしますが、これはおふたりで決めたんですか?

佐々木 そうですね。初めはまったく決まらなかったんですけれど、とりあえず世界観から考えて、よくある未来から来た女の子というのは分かりやすいし楽しそうだ、ということで、アンドロイドに落ち着きました。そんな可愛い女の子を着せかえられたら楽しいよね!という感じですね(笑)。

――そこで、女の子のコスプレ着せ替えゲーム、ということになったんですね。用意されているコスプレは、現状では何種類ですか?

佐々木 デフォルトのアンドロイドを含めると、8種類です。これからも増やしていきたいな、と思って進めています。

――ゲームとしては、時間をかけて育てたハートが行動力の代わりになる、一種の放置ゲームのテイストがあると思いますが、ガッツリとプレイさせるのではなく、そうしたスタイルを選ばれた理由はありますか?

佐々木 ガッツリとプレイするゲームは、私にはとても企画できそうにない、というのはあるんですが(笑)。そういうゲームを遊んでいる人でも、気を抜くときに、気楽に癒やし感覚でできるゲームが欲しいな、と自分でも思ったので、『罠、はじめました。』から引き続き、放置ゲームとして企画しました。

――どうしても急いでプレイしたいときには、時短アイテムを使ってもらいつつ、という感じですね。

佐々木 もしくはタッチしまくってもらうか、ですね。何度もタッチすればハートの数は出るので、少量ずつならば入手できます。

――最近のゲームの傾向に比べると、比較的露出も控えめで、ほどよい萌え感に落ち着いていると思いますが、思い切り狙っていくのではなく、あえてほどよくしたのはなぜでしょうか。

佐々木 完全に私の好みですね(笑)。エロはイヤだ、でも少しは入れないと、ということで、その際どい線を狙って、いまの感じに落ち着いています。


▲主人公ドキコ。親しみやすさはディレクター佐々木氏のカラー。

――リリースからはまだ間もないですが、周りの評判はいかがですか。

佐々木 両極端な評判を聞きますね。全然面白くないと言う人もいるし、こういうの面白いなと言ってくれる人もいるし。好みでハッキリ分かれている印象です。

――ジュピターのゲームでは、過去にはない傾向ですね。

佐々木 ないですね。全部が実験という感じです。

――藤田さんとしては、開発で苦労したポイントというと。

藤田 実は、いまです(笑)。リリース予定のiOS版の調整に、相当苦労しています。なかなか難しいところがありますね。

――次のステップとしてはiOS版ということになるわけですね。その先のアップデートについて、考えていることはありますか。

藤田 衣装の追加はしたいですね。今後の動向次第、というところもありますが。

佐々木 いい評価をしてくださっているユーザーさんのためにも、追加はどんどんしていきたいと思います。


▲本作の開発現場。『スマピク』チームとは隣り合わせ。

◆スマホと家庭用、どちらも続けていく

――では、最後に目黒さんにお聞きしますが、いまリリースされている『スマピク』『ドキドキ!コスプレキューピッド』とも比較的カジュアルゲームに近いテイストですが、今後もジュピターではカジュアルなゲームを展開していく方向性でしょうか。

目黒 そうなるかと思います。大きなタイトルも、作ればできるとは思いますが、いまのところはまだまだ、ですね。

――スマートフォンの開発自体は、活発にしていかれるわけですか。

目黒 そのつもりです。もちろん一方では、コンシューマゲームも作りつつ、これまでのお付き合いも続けさせていただきつつ、ですね。

――今後、スマートフォン向けに、もう考えられている企画はありますか。

目黒 水面下で動いているものはあります。現状お伝えできるのは、何か作っているよ、という程度のことまでですね。

――『スマピク』はノウハウの踏襲、『ドキドキ!コスプレキューピッド』は挑戦という感じでしたが、次の作品はどういった方向性になりそうですか。

目黒 このふたつとは、また全然違うものですね。2015年に出せたら、というくらいのイメージです。

――では、次回作にも期待、という感じですね。

目黒 そうですね。せっかく足がかりができたので、これからもスマートフォンでは続けてやっていきたいと思っています。
 <インタビュー前編はこちら>

(2014年12月収録)

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