『プリティーリズム』は、プリズムスターと呼ばれる少女達を中心にさまざまなドラマを展開し、熱狂的なファンを数多く獲得した幼女向けアニメシリーズ。2014年3月に3年続いたシリーズは一旦終了し、現在は『プリパラ』という後継シリーズが放送されている。また原作となるアーケードゲームも同様に、現在は『プリパラ』にほぼ完全に移行し、絶賛稼働中だ。
▲ゲームの基本は、音楽に合わせて画面上部から降ってくるノートをタップするというシンプルなものだ。
そんな『プリシェイ』だが、プレイしてみると過去の『シェイク』シリーズとは別物。シンプルなリズムゲームだった過去作から、なぜこのような進化を果たしたのか、またシリーズ終了から1年経った今のリリースとなったのか、そして今後の展望は――制作を行なった韓国のゲームメーカー、dooub(ドゥーブ)の日本支社長である“ベリーさん”ことキム・ソンフン氏、そして『プリティーリズム』シリーズをおもに音楽面で支えたエイベックス・ピクチャーズ担当者(アニメ宣伝・柴田理紗さん、商品化担当・鰐川裕輔氏、デジタルコンテンツ担当・八鍬俊一氏)に話を伺った。
▲dooub日本支社長のキム・ソンフン氏こと“ベリーさん”。同社では名前ではなく、愛称を使うことにしているという。
『プリティーリズムシェイク』公式サイト
http://www.prshake.jp/
◆『プリティーリズム』と『シェイク』、ふたつの幸せな出会い
――『プリシェイ』が作られた経緯を教えてください。
エイベックス・ピクチャーズ担当者(以下、担):元々、弊社ではアイドルを使った『シェイク』をリリースしていました。私は先入観で、ゲームを作るのは難しいと思っていましたが、「音楽と絵素材があれば社内のツールを使ってゲームを作ることができる」と聞いて、「自分が担当している『プリティーリズム』でもやってみたい!」と思ったのがきっかけです。
――それはいつごろの話ですか?
担:ちょうど1年前くらい、去年の春に『プリティーリズム・オールスターセレクション』が放送されているころです。3年間『プリティーリズム』シリーズを続けてきて曲はたくさんありましたし、放送終了後も『プリティーリズム・レインボーライブ プリズム☆ミュージックコレクションDX』や『プリティーリズム・レインボーライブ DVD BOX-2』などの商品の発売が控えていました。
ただ、『プリパラ』へ移行するため『プリティーリズム』のアーケード用筐体が減っていくことも見えていました。でも私は『レインボーライブ』の後半くらいから担当になりましたが、キャラクターソングの曲数、バリエーションが豊富で、アニメもドラマチックな展開の連続で「大人にも観てもらいたい!」と思っていましたし、何よりも放送が終わったからという理由で、制作スタッフやキャストの皆さんが3年間かけて作ってきた作品や音楽が気付かれないまま終わっていくのはもったいないな……と思っているときに、ちょうど『シェイク』の話を聞いたんです。
――そもそも『シェイク』シリーズはエイベックスアーティストのものだけなのでしょうか?
ベリー:いえ、そうではないですね。まず2011年11月のSuper Juniorのものが最初で、その後少女時代、BIGBANG、東方神起などの韓流アーティストのシリーズが先にありました。その後、日本アーティストの第1弾として2013年10月にiDOL Streetをリリースし、続いてDream5、鈴木亜美とエイベックスアーティストが続きました。ただし、その後はフジテレビさんのアイドリング!!! や、韓国のアーティストなどのものも作っています。
――なるほど。そして企画開始から1年弱の時間を経て『プリシェイ』が先日リリースされました。
担:当初、『プリティーリズム』関連商品として最後になるはずだった『劇場版プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン』のBlu-ray&DVDリリースが2014年7月だったので、それに合わせて夏くらいにゲームをリリースできれば……と考えていましたが、まず権利関係の調整などに時間を要してしまいました。また、これはありがたいことなのですが、ファンの皆様の声援のおかげで『プリティーリズム・スペシャルコンプリートCD BOX』や『プリティーリズム・オーロラドリーム Blu-ray BOX-1&2』などの発売が決定し、それらの『プリティーリズム』の商品と『プリティーリズムシェイク』の双方にとっていいタイミングを考え直す必要が生まれてきました。
そうこうしているうちに次の劇場版にも『プリティーリズム』のワンシーンが出てくることが決定、などありまして……結果的には3月7日(土)公開の『劇場版プリパラ』公開近辺にリリースすることに落ち着きました。
ベリー:あとは、当初の話より仕様を大幅にアップしたのもあります。弊社としては日本のIP(Intellectual Property=知的財産、ここでは“原作もの”という意味)の力はものすごいと認識していて、『プリティーリズム』はマニアも十分にいるため、1年経ってから出しても大丈夫だろうと思っていました。
また1、2年くらい前から『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』を中心に、スマートフォンでの音楽ゲームのありかたが変わってきていました。具体的には楽曲を販売するスタイルから、カードなどのソーシャルRPG的なシステムを搭載して、そちら方面でもマネタイズするスタイルへの変化です。そうした要素をこの機会に『シェイク』にも取り入れようと思い、開発期間を大きく延長しました。
▲『プリシェイ』ではジェムを販売し、これを使って楽曲やゲーム内通貨のコインを得たり、ガチャ(ゲーム内では「採用」)をしたりできる。
――ということは『プリシェイ』によって『シェイク』シリーズを進化させたと?
ベリー:そうですね。『プリティーリズム』というIPの魅力をより高めるために、また『シェイク』のブランディングをするためにも挑戦しました。
――なるほど。過去の『シェイク』シリーズと遊び比べると内容がまるっきり変わっていますが、そういった理由でしたか。
担:私達も過去の『シェイク』シリーズの見た目と音楽が変わるくらいだと思っていたので、初めてゲームを見せてもらった時に驚きました。
ベリー:デザインもシステムも新しいゲームになるため、仕様書や写真だけで説明しても理解しづらいかと思い、一気に開発してから見せました(笑)
担:冒頭に『プリティーリズム・レインボーライブ』1話の話を彷彿させるシーンを入れてくださって……そこまでのリクエストはしていなかったので、とてもありがたかったですね。ファンのみなさんにも、よろこんでもらえているとうれしいです。
▲冒頭のストーリー以外にも、ロード画面がアニメのエンディングでおなじみのキュートなダンスであるなど、とにかく“わかってる”感がファンにはタマらない。
――ああいったストーリー的な要素はさすがにエイベックス・ピクチャーズサイドからのリクエストだと思っていました。ベリーさんは『プリティーリズム』シリーズをご覧になっていかがでしたか?
ベリー:『プリティーリズム』は韓国でも放送されていて、つい先日『プリティーリズム・レインボーライブ』が終わったばかりですが、私は今回の話を頂いてから一気に観ました。元々日本のものは好きで、小さなころからゲーム、音楽で影響を受けて、大学時代はドラマばかり観ていました。韓国のドラマは全体を通じてストーリーが語られる一方、日本のドラマは1話のなかでもストーリーがあるのが特徴だと感じています。しかも『プリティーリズム』は、フィギュアスケートや音楽など女の子が好きなものがたくさん詰まっていて、「これはきちんとゲームを作れば、本当に魅力的なものになる」と観終えて確信しました。
◆今後も進化を続ける『プリシェイ』、その進化は今後の『シェイク』にも――?
――開発にかかった人数や期間は?
ベリー:弊社の社員数は全18人で、エンジニアが12人います。ほかの『シェイク』の運用もしなければなりませんが、今回、こちらから仕様を高めたいという要望を出したので、全社員でこのプロジェクトに取り組み、3か月ほどで作りました。
――リリースまでを振り返ると、事前登録とおみくじのミニゲーム企画も好評でした。
担:あれもベリーさんからの提案でしたね。
ベリー:単純な事前登録だけでなく、自前で独自にサイトを作ればああいった面白いことができるのでは、と思い提案しました。
――おみくじの通算回数は、最終的には30万回を超えていました。これは想定内でしたか?
ベリー:今回初めて試みるサービスだったので事前の想定はなかなかしづらかったですが、『プリティーリズム』のIPとしての力が出たかな、という数字でうれしかったです。
担:ゲーム発表時の反響もすごくありましたしね。ただ、おみくじの台詞については色々と苦労がありました。どうしても日本語の壁があって、“てにをは”が違ったり、漢字のフォントが中国語だったり……笑
ベリー:その辺りはわかってはいたつもりでしたが、エンジニアのPCが日本語のフォントに対応していないなど、細かなトラブルが多かったですね。
――リリース時点で盛り込めなかった要素はありますか?
ベリー:ストーリー面ですね。チュートリアルの充実やゲーム内での説明、あとはゲーム本編でのストーリーが実現できませんでした。弊社は韓国のメーカーなので、100%どころか130%『プリティーリズム』を知ったつもりで無理にテキストを作っても、逆に制作サイドやユーザーさんの作品イメージと離れる可能性があると思って止めました。もしリリース後の調子がよければ、そういったこともやってみたいですし、それ以上にユーザーからのフィードバックにも素早く対応したいです。
▲ゲーム中にキャラクターのボイスなどもあるとうれしいところだが……!
――当初は『プリティーリズム・レインボーライブ』のキャラクターだけのようでしたが、すぐに『プリティーリズム・オーロラドリーム』のキャラクターも登場しました。今後もどんどん増えると考えてよいですか?
ベリー:もちろん期待していてください。「運用も開発に匹敵するほど大切」という言葉もありますし、『Tokyo 7th シスターズ』のように配信後に調子を上げるゲームもあります。キャラクターだけでなく、楽曲や難しいノートを使ったイベントなどで、まずは3か月を区切りに活発に運用していきます。
また私自身の話をすると、開発中は3週間韓国にいて、1週間日本にいるという生活をしていました。ただ運用に入ったこれからは半々くらいになる予定です。『プリシェイ』に関しては弊社のIPではなく他社のIPなので、特に密に連絡を取って、大切に運営したいですしね。
――リリース後も注力されるということで安心しました。ちなみに『プリシェイ』は韓国でもリリースされますか?
ベリー:それは改めて韓国での権利関係の確認が必要になります。ただ日本で結果を出せばそういった話もしやすくなるでしょうし、まずは日本での運営を頑張ります。
――最後に『シェイク』シリーズでアニメを扱うのは初めてですが、今後も同様の展開をする可能性はありますか?
ベリー:韓国では過去にドラマの『シェイク』もリリースしたくらいなので十分にあります。
そもそも『シェイク』を始めた理由に、音楽の魅力をゲームに落とし込んで、ゲームファンにも広めたいというのがありました。かつて音楽は聴くだけのものでしたが、MTVの登場でPVなどで視覚的にも楽しめるようになりました。そしてその次の段階として音楽を体験する、遊ぶという楽しみかたもあると思っています。アーティストやアニメ、ドラマに関わらず、音楽の魅力があるものならどんどん挑戦したいので、その可能性を広げるためにも、まずは『プリシェイ』を多くの人にプレイしてもらい、色んな意見を頂いて一緒にいいものにしていきたいですね。