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【開発者インタビュー】『ドラゴンファング』は、なぜ100万人に遊ばれたのか?【トイディア 松田崇志氏 後編】

インディーの小規模開発会社であるトイディアがリリースしたRPG『ドラゴンファング』。「ローグライク」と呼ばれるジャンルのこの作品が、なんと100万ダウンロードを突破した、という報には、驚かされた人もいるのではないだろうか。
この『ドラゴンファング』が大きく羽ばたいた理由について、トイディアの松田崇志社長にインタビュー。ハードメーカーから自分の会社を立ち上げ、アプリを100万ダウンロードにまで導いた秘訣とは?

<インタビュー前編はこちら>

後編となる今回は、『ドラゴンファング』の成り立ちと、なぜ100万ダウンロードを達成できたのかについて聞いた。松田社長が覚悟を決めて話してくれた貴重なインタビュー、最後までお見逃しなく!


松田崇志
 株式会社トイディア
 代表取締役 CEO
 『ドラゴンファング』プロデューサー
 (敬称略)

 

◆横画面と縦画面の決定的な違い

――『ドラゴンファング』は、その4人(トイディア立ち上げメンバー)で作り始めたんですか?

松田 4人からですね。とはいえ、『ドラゴンファング』は2回配信延期をしていまして。最後の最後に、どうしても4人では作れない、と自分たちでも諦めざるをえなくなって、リリース一ヶ月半前にようやく6人にしました。

――といっても、時間は半年伸びたとはいえ、あのクラスのゲームを6人で作ったわけですか。

松田 そうですね。リリース一ヶ月半前に仕上げで入ってもらうまで、ほぼ8割がたは4人で作りました。ただ、最後に入ってくれたふたりが超強力で、このふたりなくしては『ドラゴンファング』は出ていませんけれど(笑)。

――いま現在のトイディアは何人くらいですか?

松田 ありがたいことに新卒で「どうしてもトイディアがいい」と入ってくれたふたりも含めて、人数は10人になりました。

――ということは、『ドラゴンファング』が100万ダウンロードを達成した時点では事実上8人。これは、多くの人が目指すけれどなかなか達成できない、ちょっとしたスマートフォンゲームドリームではないかと思うんですよ。

松田 そうですね……。100万というと、言い方を変えればミリオンですから、達成したときは本当に嬉しかったですね。

――100万というのは、自分たちの目標として、目指そうと思っていましたか?

松田 思っていました。それを信じるしかなかったというか。クリエイターの可能性はどこまでなのか、自分でも分からないので自分自身に聞いているところがあって。インディーズの会社はどこまで夢を見ていいのか、と思ったんですよ。
 スマートフォン市場はものすごくて、国民のほとんどが持っていて常に電源を入れている、そんな市場が突然現れたわけです。ならば自社のオリジナルIPで100万ダウンロードくらい行ってもいいだろう、そのくらいの夢を見せてくれよ、という気持ちがありました。絵だけを載せ替えた模倣やパクリだけならこの夢もどうかと思いますが、需要があるジャンルで、自社オリジナルで、いまの時代にマッチして進化したものなら、そのくらいの夢があってもいいんじゃないか、という勝手な願望です。

――確かに『ドラゴンファング』は、30年以上前からある『ローグ』のスタイルを継承する「ローグライク」と呼ばれるジャンルですが、スマートフォン向けに改変がなされている点で、充分にオリジナル性があると思います。松田さんご自身では『ドラゴンファング』の長所はどこにあると思いますか?

松田 やはり、UI(ユーザーインターフェース)部分でしょうか。『ドラゴンファング』はもともと横画面で作っていたんですが、いま思えば、いずれコンシューマに移植したい、という願望が全員の心のどこかにあったので、その呪縛かもしれません。
 もうひとつ、私が『ローグ』の喜びを知ったのはPC版のオリジナルではなくて、コンシューマの『トルネコの大冒険』や『風来のシレン』(いずれもチュンソフト、『不思議のダンジョン』シリーズ)なんです。それが染み付いているので、横画面での戦略性やゲームバランスなら目をつぶれば想像できます。でも縦画面になると、戦略ゲームとしてのキャラクターの強さが根幹から崩れる。それもあって、横画面でずっと作っていたんです。

――目指す方向性が分かりやすかったわけですね。

松田 ですが、2回の配信延期をしてユーザーさんに申し訳ないし、取り上げてくれたメディアにも迷惑をかけていたので、自分たちの起爆剤としても、いっそのことスマホ向けに縦画面に全部変えてしまおう、となったんです。片手で遊べる『ローグ』に切り込んで答えを出せたら、ダメな俺たちだけど、新しいものを作ったから見てください、と言えそうだなと。
 そうして変えてみたら、大きく違ったのが、横画面なら両手が使えたのでふたつ同時入力可能だし、左右に情報を逃がすことができるので、結構甘えた考え方でもゲームが作れたのが、一箇所しかタッチできず、甘えが許されない形になったことです。それを最後の最後にやったので、これはみんなよく頑張ってくれたな、と思いました。この最後のワンチャンスで意地を見せたかったんですよ。


▲親指一本で問題なく操作できる設計の『ドラゴンファング』のUI。

◆『ドラゴンファング』はまだ半分しかない

――そのあがきの結果として、『ドラゴンファング』のUIは成功しているかと思います。現状においては、片手操作のローグライクとして、かなり使い勝手の良いUIに洗練されているのではないでしょうか。

松田 とはいえ、何が正解かを決めるのはユーザーさんなので。「トイディアは人数が少ないからしかたない」と言ってもらえたりもするんですけれど(笑)、ここまでユーザーさんとの距離が近いなら、まだ何か頑張れるんじゃないかと思うんですよね。いまは現場の人間がそれぞれ頭脳になっていて、ユーザーさんからの意見をそれぞれの角度で仕入れてくるんですけれど、その結果こうすべきだ、と思えば、口はばかることなくバンバン言い合って、それが可能なら次のバージョンアップで貪欲に入れていきます。なので、まだまだできることはあると思いますね。

――それは『ドラゴンファング』というタイトルにとっても、先がありそうでいい形ですね。

松田 『ドラゴンファング』は、いまはひとり用のゲームとして磨いていますが、トイディアは慢性的な開発リソース不足でして……この選択しかできないからそうしています。ただ、スマートフォン時代のゲームのパッケージングではそれだと半分で、もう半分はソーシャル要素、つまり他人と関わりあうことの喜びやメリットが求められているんです。この部分は『ドラゴンファング』では、まだ未着手なんですよ。
 だからこれから先にやるべきは、『ローグ』らしいゲーム部分をある程度まで完成させたら、ソーシャル部分をちゃんと入れてパッケージングとして完成させることです。そこには新しい要素が必ず入ります。現時点で100万ダウンロードまで行かせていただいて、もしソーシャル部分があればもう100万、ひょっとしたらもっと大きいチャンスがあるかもしれないな、という勝手な想像をしています。

――しかも現時点で125万だとすれば、倍になれば250万、ならば300万ダウンロードもあり得ない数字ではないように思えますね。

松田 そういう夢はありますね。あまり社員には言えないんですけれど(笑)。でも、自分で『ドラゴンファング』はひとり用ゲームとしても60点くらいはあると思っていて、その先があることになりますから。ひとり用の部分だけでも、自分で入れたい機能はまだ40個くらいあります。トイディアでは、いまのところ『ドラゴンファング』以外で戦おうという気はあまりないので、可能性はまだあるな、と感じています。

――『ドラゴンファング』一本に注力していくわけですね。

松田 人数がそんなにいないので、戦力を分散して半端になってしまうと、誰にも響かなくなってしまうのが怖いんですよね。

――ソーシャル性、ネットワーク性が強くなると、それだけマネタイズの可能性も広がりますね。

松田 そうですね。マネタイズが強いのは、やはりソーシャル性の部分です。他人に勝つのか、他人と協力するのかは分かりませんが、ひとりでやっていただけでは感じない程の没入感、もっともっと強くなりたいという気持ちを盛り上げていけるはずなので。ここで『ローグ』らしさとマッチしたものをいかに提案できるかで、トイディアの質をまた見ていただきたいと思います。


▲現在のトイディア社内の様子。社員同士のコミュニケーションも活発とのこと。

◆なぜ100万ダウンロードを達成できたのか

――最後に、多くの人が一番聞きたいのではないかと思うことをお聞きします。少人数のインディーズメーカーであるトイディアの『ドラゴンファング』は、なぜ100万ダウンロードを達成できたのか、です。ストレートにお聞きすると、どうやったんでしょうか。メディアと交渉したのか、AppleやGoogleと何かを話したのか。

松田 そうですね……。おっしゃっていただいたようなこと、あるいは想像がつくようなことは、全部やりました。
 まず、100万ダウンロードまで行った理由は、最初から市場にないものに注力することを選んだからです。何をもって『ローグ』かは派閥がいろいろあるんですが(笑)、それだけ懐が深いものでもあるので、『ドラゴンファング』が目指すような流派であれ、『ローグ』である以上、すごく作るのが難しいものではあるんです。ダンジョンの自動生成、破綻しないモンスターのバランス、アイテムの出方。作るだけで難易度が高いものです。これは、ローグライクと呼ばれるジャンルがスマートフォンに出てこなかった理由でもあります。

――そもそも「作りづらいけれど、市場にないものを作った」わけですね。

松田 ゲーム業界の中でも、『ドラゴンファング』は、出すまでに全否定されたタイトルでした。2回の配信延期の時点で、実は会社のキャッシュも尽きて、本当に苦しかった時期には、このタイトルを持って「御社の名前で構わないので、出して欲しい」とドサ回りまでしました。自分たちはバックボーンも何もないので、出ないくらいなら、他人の名前でも出たほうがまだいい、と追い込まれましたので。そのときの皆さんの答えが、「『ローグ』なんて金になるわけがない」「経営者として間違っている」「社員を巻き込んだお前は馬鹿だ」と、全否定でした。
 でも自分としては、絶対に需要があるはずだから、どれだけ掘り下げられるかはクリエイターとしての勝負だと思ったので、最終的には個人資産をすべて溶かして出すことができました。ドサ回りで全否定されながらも、やりきった、突っ切ったことが、ひとつの評価ポイントだったと思います。

――そこまでの苦労がありましたか……。

松田 次にやったことは、お金は本当にないので、広告は打てない。それでも人のつながりだけはあったので、4Gamer、ファミ通に紹介してくださる方がいて、モックアップを持っていろいろなお話をしました。そこでプレゼンさせていただいたことで、メディアに載せていただくことができました。
 さらに、多くの方々に知ってもらえるメディアは何があるかと考えて、ニコニコ動画と東京ゲームショウだと。そこで、東京ゲームショウ2014に絶対に間に合わせる、というのを目標にしました。出展に申し込んだ時点では、ゲームが出来上がる予測すらできない時点でしたけれど(笑)。

――申し込みのタイミングで言うと、最初の配信延期の後、ということになりますね。

松田 毎日頭をかきむしっていた頃ですね。でも申し込んだ以上、そこでしか人に伝える手段がないので、徹底的に自分を追い込みました。そうして東京ゲームショウ2014に出展したことでいろいろな人に知ってもらえて、ダウンロード数も伸ばすことができました。
 日本のゲーム業界におけるインディーの波というのもあって、去年の東京ゲームショウが大きな節目だったとも思っているんです。一昨年の東京ゲームショウから、ソニーが日本のインディーに興味を持ち始めていて、去年の東京ゲームショウでは、インディーのブースはすべて自分たちが支援する、出展料をすべて持つと後から言ってくれたんです。その波になるタイミングに乗れたのが大きかった。インディーで突っ張った作り方をしている日本中の方々や、海外のメディアと知り合えたことでの伸びも凄かったですね。東京ゲームショウではニコニコ動画での中継に呼んでいただいて、インディーズの注目作としてステージにも出していただきました。

◆売り上げが立たないゲームからの脱却

――インディーズゲームであることが、逆に魅力にもなり得たわけですね。

松田 さらに正直なところをお話ししますと、去年の12月まで、『ドラゴンファング』は全然売り上げが立たないゲームだったんですよ。知見が全然なかったので、サービスの課金ポイントの設定も駄目だし、特にガチャのバランスが甘すぎだったそうです。他のゲームを作っている人から見れば「そんなんで会社が保つわけがない」というレベルでした。そんなに多くのキャラが必要になるゲーム的深みも無いくせに、ガチャでは良い物が出やすい。すぐ満足できてしまうんですよね。これでは餓死コースでサービスは閉じるしかないという現実が突きつけられました。なので、広告なんかをやっても、ザルのようにお金が出てしまうだけだったので、全然打っていませんでした。
 スマートフォンのゲームはどういうものが正解かという知見もなく、広告チームもおらず、KPIチームがいるわけでもないので、どう数字をいじればビジネスとしてユーザーさんからお金をもらえるのか、全部自分たちで体当たりするしかなかったんです。

――面白いゲームを作るのとは、ちょっと違う部分ですからね。

松田 かなり違いますね。自分でもスマートフォンゲームが好きで、『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』も結構なレベルまでやっていて、他のゲームのガチャを体感で知っているにも関わらず、やっぱり自分の『ドラゴンファング』にはそれを入れられなかった、だから全然ダメだったんです。なので、9月くらいまでは、下手をすると年内でクローズしてしまうのではないか、というくらいの気持ちでした。
 でも、コアなユーザーさんの継続率はすさまじかったので、それだけを自分たちの心の支えにして、この人たちに喜んでもらえるゲームにしようと、ゲームの荒い部分を整えて、ちゃんと機能を開発して、喜んでいただけるようチャレンジしました。そうして新機能の拡充などが受け入れていただけて、12月末までに、自分たちが設定した目標数値にギリギリ届いたんです。

――約3ヶ月の運営の中でそこを改修できたのは、これもなかなかすごいですね。

松田 いろいろなところにいる元セガの同僚たちが、俺たちがあまりにも不器用すぎるということで、考え方を教えてくれたんです。経営、運営。そういう部分です。彼らの支えと、ウチの社員全員の頑張りもあって、12月までにそこまで行けました。
 なので、1月くらいから、TwitterとFacebookでの広告を始めました。Twitter上の方々は、バグがあっても「死ね!」と言うのではなく、丁寧に教えてくれたりするので、社内的にTwitter上の皆さんへの感謝があるんです。なので、そこに向けて広告として届けられないかというのと、それの対としてのFacebookに広告を打ってみたわけです。さらに3月くらいからは、いわゆるオーガニックと呼ばれる方々(編注:自然流入の客層を指す)にも露出しようということで、現在に向けてはそちら向けの広告もしています。
 ということで、主に去年の年内は足でメディアを回り、今年からは自分たちなりに広告、という感じですね。

――流れを総合すると、ちゃんとやってきたからいまがある、という感じがしますね。

松田 ただ、何が正解かには自信がないんですよ。いまでも怖いんですけれど、いまやったことの成果がどうだったのかは、ちょっとズレた後でないと分からないので。それでも、自分たちの『ドラゴンファング』をユーザーさんに遊んでいただいて、市場価値をもっと広げたいと思ったら、ローグライクであることで興味を持っていただける方にはすでに届いているという認識を持っていますので、その先に行くしかない、と思っています。

――『ドラゴンファング』には先がある、ということですね。

松田 とはいえ、トイディアという会社が生存していくためには、下手に人数を増やさないことだと思っています。会社の維持費のためにガチャを絞って収益を上げる、という文法を出さないといけなくなってしまうのだけは、避けるべきなんです。
 実は、私がいまリスペクトしている会社はアソビズムで、社長さんとお会いしたこともないので人聞きでしかありませんが、そういうビジネスをしなくていい会社の組み立て、人員の配置をしていると思っているので、それに近しい考え方をしたいと思っています。それは、とにかくタイトルドリブンであること。自分たちが本当に面白いと思うものを、スマートフォンという広大な母数に、ちゃんと届けていけたらな、と願っています。母数がとにかくデカいですから、『ドラゴンファング』もまだまだ頑張っていける気はしていますね。

――前向きなお話ですね。

松田 松田 まあ、前向きにしていかないと、すぐにツラくなっちゃいますしね(笑)。

(2015年4月収録)

<インタビュー前編はこちら>

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