「チート行為に関わるのはリスクばかり」……『パズドラ』事件から2か月、情報セキュリティの専門家が訴える

 2015年6月30日(火)、『パズル&ドラゴンズ』(以下『パズドラ』)の不正プログラムであるチートツールを販売したとして、埼玉県さいたま市の男が逮捕された。

 ここで言うチートとは、ゲームを有利に進めるためにプログラムを改変するなど不正行為をすること。今回の『パズドラ』の事件であれば、販売されていたツールを使うことで、モンスターのステータスを自由に改変できた。

 こうしたチート行為を助長するツールの販売は、事件が起きてから2か月経った今もインターネット上で行なわれている。そうした現状に警鐘を鳴らすため、情報セキュリティの専門会社、サイファー・テックから「ぜひこの問題を取り上げてほしい」という訴えが編集部にあった。ここではそんな彼らの元に訪ねて伺った、『パズドラ』事件やスマートフォンゲームにおけるチート行為の現状について報告する。


▲インタビューに答えてくれたサイファー・テック広報担当の成田直翔さん。

◆「チート行為自体は違法とは言えないが、無視できない状況になってきた」

――御社はどういう会社か教えてください。

成田 元々は電子書籍や動画といったデジタルコンテンツのコピーを防止するためのソフトを売っていました。その際に培った技術を利用して、現在はゲームのチートに対するサービスも行なっています。

――御社としてはチート行為によって「ほかのユーザーに迷惑をかける」点を問題視をしていると伺っています。これは具体的にはどういったことでしょうか?

成田 わかりやすい例だと、オンラインゲームでPvP(Player versus Player=対人戦)でしょうか。対戦相手がチートで強くなっていたら、どう考えても理不尽ですよね。プレイヤーだけで完結していた家庭用ゲーム機の場合は、チートしても自己満足で終わっていましたが、オンラインゲームだとほかのユーザーに不快感を与えます。

またユーザー間だけでなく、運営側も迷惑をこうむります。チート対策に投資する必要があり、なかには月に数百万使っているメーカーもあります。想定していた売り上げを上げられないということは、そのぶんをゲームに還元することもできず、結果としてユーザーも被害を受けてしまいます。


▲スマートフォンゲーム界で初のチート行為による逮捕者が出た『パズドラ』。現在3700万ダウンロードを突破したヒットゲームだけに、不正を行なうユーザーも多いようだ。


――チート行為自体は違法なのでしょうか?

成田 いえ、グレーゾーンです。法律で罰せられる行為かどうかは警察が決めることですが、現在は運営側のアカウントBANでは済まないほどの被害を被ることも増えてきて、警察が動くようになりました。

たとえばスマートフォンゲームではありませんが、過去には『サドンアタック』(ネクソンのPC用オンラインFPS)や『Alliance of Valiant Arms』(RedduckのPC用オンラインFPS)で似た事例があります(※)。そして今回の『パズドラ』の場合は著作権違反です。このようにチート行為自体を取り締まる法律はないものの、その行為の内容によって警察が罪状を判断をしているという状況です。

――先の話ですと、オフラインゲームであれば見逃す余地はあるということでしょうか?

成田 そういうわけでもありません。過去にはプレイステーション版『ときめきメモリアル』(KONAMIの恋愛シミュレーションゲーム)でも、チートツールを作っていた会社が訴えられました。

※編注 2014年6月には『サドンアタック』ではチートツールを使用した少年3人が業務妨害で書類送検され、2015年5月には『Alliance of Valiant Arms』ではチートツールの販売を行なった男が不正競争防止法違反で逮捕された。また1996年には『ときめきメモリアル』の改変セーブデータが収録されたメモリーカードを販売した会社が、著作権違反で訴えられている。

(参照)【重要】サドンアタックにおけるチートツール使用者の業務妨害容疑による書類送検について
http://sa.nexon.co.jp/information/notice.aspx?no=4505

(参照)不正プログラム(チートツール)の販売者の逮捕に関するお知らせ
http://ava.pmang.jp/new_notices/928?kind_index=6

――現在、2ちゃんねるにもチートに関するスレッドが溢れています。ゲーム運営側も把握はしているでしょうが、取り締まる動きはないのでしょうか。

成田 取り締まるのは難しいでしょう。そういったスレッドの内容を見てセキュリティ対策をしているところ運営側もあるようです。そのことは2ちゃんねるのユーザーもわかっていて、お互いに持ちつ持たれつ……というわけではないですが、決してマイナス面だけではないようですから。もちろん今後どうなるかはわかりません。

◆「チートに関わるのは、とてもリスクが高い行為」

――今回捕まった『パズドラ』のツールですが、これを使えばどんなことができたのでしょうか?

成田 あのツールはメモリを改ざんし、モンスターのステータスを異常な値にするものでした。たとえば最初に手に入るモンスターで、相当あとまでプレイできるような状態になります。

――罰金が50万でしたが、この金額の根拠は?

成田 前例を見て決めているようです。この場合は、過去の著作権違反の事例を参考にしての金額でしょう。

――お話を伺うなかで、チートツールの販売をすると罪状はさておき捕まる可能性があることがわかりました。では、チートツールを使ったユーザーにリスクはあるでしょうか?

成田 もちろんあります。ガンホー・オンライン・エンターテイメントも事件が起きてからすぐ、「不正ツールを実際に使う行為も、ゲーム内のみの措置にとどまらず、本件同様、「著作権法違反」の罪に問われる可能性があります」という旨を発表しました。また先の話で出た『サドンアタック』では3人のユーザーが逮捕されています。数こそ減ったものの、まだチートツールは販売されていますが、そういったものに関わることはとてもリスクが高いと認識して頂きたいです。


▲現在、『パズドラ』運営サイトでは不正行為を行なったユーザーに措置を取ると、その案内を行なっている。


――御社がチート防止に力を入れる理由は?

成田 ゲーム業界全体にチート対策への危機感を持ってほしいというのが一番です。運営側はまずゲームをリリースすることに注力して、セキュリティ対策は後回し。リリース後に対策をしようとしたころには被害が大きくなっていることも多いです。これは事前にチート対策をしていれば防げることで、つまりよりよい環境をユーザーに提供できる機会を逃しています。

こうした状況を失くすため、現在はゲームメディアを中心にお話していますが、今後は一般メディアで、特にユーザーの親の層に啓発したいですね。自分の子供が何をどう遊んでいるか、犯罪に手を染めていないか、きちんと把握して頂きたいです。