中国3億オタク時代①~日本で働く中国人オタクからみた中国進出~

化け物のような市場規模と成長率の中国オタク産業。しかし、容易く進出できるわけではない?

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中国最大級のゲームイベントChinajoy2016は年々大盛況に。(C)Chinajoy2016

ニーハオ、私の名前はTKJ.と申します。
中国人。20代。早慶卒。ゲーム開発会社の新入社員。そしてサブカル中毒者です。(笑)

昨今は日本企業が中国市場に進出というニュースをよく目にします。特に人気がある日本のマンガやアニメ、ゲームといったオタク産業ともいえる分野の動きは活発化していると思います。

でも、そこで目にする中国のオタク産業に関する様々な市場情報は、私が知っている中国とだいぶ違うように感じます。具体的には「政治問題に敏感し、市場を打開することが難しい」、「当局のライセンスをとるのが難しい」、「提携相手と協力しづらい」、「文化が違うので、人事管理が難しい」等々といった課題があげられていることに対してです。

このような課題は確かに存在し、中国市場に進出する際の支障になりえると思いますが、個人的には表面上の問題に過ぎないと思っています。これはローカルの情報ソースが少ないため、中国本来の姿を着眼点として捉えられないのが原因だと考えます。

また最近中国では、ゲームが趣味や遊びの場以外でも活用されるようになっています。例えば、2016年秋学期に北京大学の中国語文学系で「ゲームと文化理論」という授業を開設しました。この授業ではゲームプレイの経験談やディスカッション、レポートなど、あらゆるジャンルを研究し、ゲームを学問として教育に関連させるようになりました。

このような中国人だからこそみえる生身の中国オタク市場の情報を紹介できればと思います。よろしくお願いします!

Part1.中国の3億「汎オタク」民衆 -- ACGからACGNへ

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大勢のコンパニオンを使ったプロモーションには人だかりが。Chinajoy2016でよく見られる風景だ。(C)Chinajoy2016

現在の中国は、オタク文化が広がり続けて止まらない「汎オタク」の時代だと思います。というのも、これまではオタク文化の主流はAnime(アニメ)、Comic(コミック)、Game(ゲーム)の頭文字を並べた「ACG」といわれていましたが、現在はその枠にはおさまらずNovel(ノベル)にまで広げ「ACGN」と表現されることが多いです。

さらにはACGNに関連する音楽、話題(ネタ)、映画、周辺グッズ、テーマパークなどが、様々な角度から民衆に浸透して、いままで少数派と思われていたオタク層が目立たなくなりつつあります。

どういうことかというと「萌え」、「〇〇コン」、「www」等々、これまでオタク世界しか使わなかった言葉が、日常会話やSNSでたびたび目にするようになったことです。
また、アニメで使われていたBGMも、近年は普段のテレビ番組やドラマ、ニュースで聞かれるようになりました。2008年四川大震災の時、最初に流れたニュースのBGMにはパイレーツ・オブ・カリビアンの曲です。映画に関しても「君の名は。」は中国で上映してから興行収入95億円と大人気です。 

このように「萌え」などの言葉を使う人や、ドラマの制作者やニュースの放送者、「君の名は。」を見る人は、100%オタクかというと、そうではないといえます。これらの現象から「誰でもオタクになる可能性がある」や「意識してないがすでにオタクになった」を意味する「汎OTAKU」という概念が誕生しました。

この概念は2015年に提唱され、諸説ありますが、2016年には「汎OTAKU」人数が3億に達したともいわれます。アクティブユーザーは6000万人にのぼり、一人当たりのオタク産業に消費する金額は年間平均3万円(1700元)というデータもあります。そして、このままいくと2020年の中国のオタク産業規模は10兆円(6000億元)を突破すると予想もでました。
(参照ソース:.iresearch http://www.iresearchchina.com/ 易観 http://www.eguan.jp/ ※海外サイト)

一方、中国国家統計局によると、2016年中国の国民平均年収は39万円(23821元)という調査結果があり、先ほどの数字を考えると「汎OTAKU」たちは、年収のおおよそ7%をオタク産業に使っている計算になるのです。趣味に費やすお金と考えると「わずか7%!?」しか使わないの? という人も多いと思います。

しかし、中国では昔から現在に至っても超学歴社会で、オタク産業にお金をかけるどころか、ゲームをやる人やアニメ、マンガをみる人は「邪道(悪)」だと思われていました。

2000年代にe-Sportsが登場して、中国で発展する前は、夢中になってゲームにハマった人は、「邪道な网瘾少年(廃人)」とよばれ、更生するために非公式な施設に連れていかれて、電撃を受けて「治療」されることが普通でした。

それが今はOTAKUが一定の認知を受け、さらに汎OTAKUへと広がり、「邪道」から「膨大な市場=ビジネス」になってきています

そしてそれは拡大をし続けているのです。次回はこういった変化の背後に、一体どんな要因があったかをお話しします。