7月の初旬に、急に思い立って仙台へ行くことにした。まあ「思い立った」なんていうと傷心旅行のようで、なんだかカッコよく思われてしまうけれど、ぼくの場合、旅の目的はだいたい古本か中古レコードかラーメンなので、カッコよくもなんともない。今回は、仙台で開催される「全国レコード・CDサマーカーニバル」が目的だ。こいつのために仙台まで日帰り旅行をすることにした。
自宅の最寄り駅である新松戸から、武蔵野線で南浦和へ出て、京浜東北線に乗り換えて大宮へ出る。そこから東北新幹線で一路、仙台へ。トータル片道2時間36分。現地に着いたらラーメン食って、レコード買って、あとブックオフも覗いてみよう。そのついでに珍ポータルを探す。なかなか愉快な日帰り旅行になりそうだ。しかし、都内にいても地方へ行っても、ぼくはいつもやってることが同じだなー。
◆郷土の誇りのイーグルス自販機
というわけで仙台に到着した。話が早いね。新幹線の改札を抜けたところで、Ingressのスキャナーを起動。周囲をサーチしてみる。すると、なんだか可愛いらしい、こけしのポータルがあった。
▲「ようこそ仙台へ」と、珍ポータルが歓迎してくれた。
といっても、ここはまだ駅の構内地下なので、こけしのポータルがどこにあるのかはよくわからない。それでもいいのだ。何度も言うが、この遊びはスキャナーで発見した珍ポータルをスクリーンショットして集めることだけが目的だ。実際にそのポータルがある現場まで行って、ポータルの正体を解明したりはしない。
さて、引き続きスキャナーをクリクリ回していると、なんだか見覚えのあるマークのポータルが目についた。エロ動画を求めて……じゃなかった、ミュージッククリップなどを見るためにYoutubeにアクセスしていると、頻繁に見かけるあの再生ボタン。
▲レンタカー屋のドアに貼られた「再生ボタン」ステッカー。
レンタルビデオ屋さんのドアがこうなっているならシャレが効いてると思うんだけど、レンタルはレンタルでもカーの方だった。なんなんでしょう。
さて、中古レコード市が開かれている「イベントホール松栄」までは、仙台駅からほんの200メートルほど。だから徒歩でもぜんぜん楽勝で行けるのだが、その前にちょっと寄り道をしていきたい。お腹へっちゃったんだよね。
そこで、JR仙石線に乗って東方面へひとつ行ったところの榴ヶ岡(つつじがおか)駅へ向かう。JRといっても仙石線は地下鉄なので、電波の届きが悪くてIngressはできない。かわりに『スバラシティ』を1プレイしているあいだに榴ヶ岡駅へと到着した。
仙台に着てから初めての地上。すると、すぐ近くにはこんなポータルがあった。
▲「イーグルスヘルメット型の自販機」
仙台では、東北楽天ゴールデンイーグルスのユニフォームを身に着けていたり、球団のロゴ入りタオルを持っている人を見かける機会が多かったように思う。それだけ「オラが土地の球団」が待ち望まれていたということなのだろう。そう思うと、こんな自販機が微笑ましく思えてくる。
◆夏に爽やかレモン中華そば
さて、榴ヶ岡駅を出て少し歩いたところに「一休」というラーメン屋がある。最初の目的地はここだ。「仙台/ラーメン」でネット検索して、出てきた店を片っ端から見ていってピンときたのがここだった。今日の麺はこんなのである。
▲見た目のインパクトは十分な「レモン中華そば」。
ぼくは酸っぱい料理が苦手だけど、ラーメンに酢を入れたりするのは嫌いじゃない。店の一番人気だという「レモン中華そば」も、きっとスープの塩気とレモンの爽やかさが合うんだろうな。どう考えてもこれはうまい予感がする。
で、実際に食べてみたら、これがちょっと感動的なうまさだったな。あっさり醤油スープとレモンの酸味が絶妙なバランスだし、コシのある細麺との相性もいい。2時間36分もかけてここまで来た苦労が、全部すっ飛んでしまった。
大変充実した気持ちになって、今度は地下鉄に乗らずに来た道を徒歩で戻る。せっかくなので、さらに珍ポータルを探してみようというわけだ。
仙石線の地上を走る道路はイーグルロードという。なるほど、ヘルメット型の自販機があったわけだ。ならば、他にもイーグルス物件が見つかるかもなあ、と思ったのだが、ぜんぜん見つからない。ポータルはたくさんあるので、次々タッチしてみるが、願行寺、久近寺、金勝寺、徳泉寺、榴岡天満宮、栄明寺、林番院、妙音院……と、どれもこれもお寺や歌碑ばかり。まったく珍ポがない!
そうこうするうちに、「イベントホール松栄」に着いた。さっそく6階のハイスクエアーホールへ向かう。いやあ、こういう中古レコード市や古本市の会場は何度来てもドキドキするなあ。
▲すでに何人ものコレクターがエサ箱を漁っている。
実際にはこの写真にうつっている様子の3倍くらいの規模だろうか。北は盛岡から南は広島まで、全国15軒の中古レコード店が集まって出店している。中古レコード市の何がうれしいって、なかなか行けない土地の店の在庫を見られることだろう。
▲これが今回の収穫。
およそ2時間ほど段ボール箱と格闘して、これぞというドーナツ盤を12枚掘り出した。宝田明の『静かの海のブルース』は、あの月面の静かの海を唄った曲ね。宝田顔面月蝕なジャケットデザインも非常にナイスである。
ラーメンは美味で、レコードもいい収穫があった。しかし、珍ポータルはまだこれといった名品に出会えていないまま、仙台駅まで戻って来てしまった。そんなこともある。
とりあえず帰りの新幹線に乗車する前に、一杯ひっかけていこう。そのためのよさそうな酒場も当たりをつけてある。でも、まだちょっと先ほど食べたラーメンが消化しきれていない。そこで、西口側へ出て「ブックオフSUPERBAZAAR 仙台さくら野」をチェックすることにする。
あ、いまなんか成りゆきで腹ごなしのために仕方なくブックオフに行くような書き方をしたけど、ブックオフならぼくは誰に頼まれなくたって行く。腹が減っていても、満腹でも行くよね。ウソを書いちゃいけないなあ。
と、誰も気にしてないことを勝手に心の中で謝りながらブックオフの108円コーナーを物色し、4冊ほど購入した。写真で紹介するような珍本ではないが、わりと足の速い本が補充できたのがうれしい(たとえ安い本でも回転のいい商品は古本屋にとってありがたいものなのだ)。
◆魔女からサイボーグまでの仙台旅
さて、西口に来たのにはもうひとつワケがある。先ほど書いた「よさそうな酒場」。それがこの店だ。
▲この様子を見たら入らずにはおれない「もつ焼き丸昌」。
入り口の雰囲気からして“ザ・いい店”の匂いがビンビンに漂ってくる。そーっと暖簾をくぐってみると、席が空くのを待ってるお客さんが1人。この時点でまだ夕方の4時前なのにもう満席。それぐらいの人気店ってことだね。
それほど待たされることなく、すぐにカウンターの席が空いた。まずはもつ焼きと、酎ハイ。ぼくはどこの店に行ってもだいたいこの組み合わせだ。
壁に貼られたメニューや、他のお客さんの注文をきいた感じでは、ここはおでんも名物らしい。さらにおでんの出汁で作ったおじやもうまいとか。それから、耳馴染みのない「しねえ肉」というものも。解説によると、戦後の闇市でも名物で、“しねえ”とは“しなやか”の秋田弁だそう。まあ、そんなに食べきれないので、これらはまたの機会に。
今回注文したなかで、いちばん感動的だったのはこれだなー。
▲「生セット(3本)」
生とは言っても、もちろん軽く湯通ししたシロ、コブクロ、ガツを1本ずつ薄味のタレに浸して盛ってあって190円。なんとも安くてうまくて、この感じが実にちょうどいい! 何にちょうどいいのかはわかんないけど、とにかく「ちょうどいい」のだ。思わずお代わりして、日本酒も頼んじゃった。
さあ、ほどよく酔っぱらったところでそろそろ帰ることにする。勘定を済ませて仙台駅へ行き、新幹線の切符を買う。発車までの待ち時間に念のためまたスキャナーを起動させたら、こんなコインロッカーの珍ポータルがあった。
▲「萬画の国・いしのまきへ!」ロッカー。
そう、ここから少し北に行った石巻は、石ノ森章太郎先生の故郷だ。そのため、先生の代表作である『サイボーグ009』がコインロッカーにラッピングされていた。仙台駅周辺ではこれぐらいしか見つからなかったけれど、石巻まで行けば、他にもたくさん石ノ森キャラの珍ポータルが見つかったのかもしれないな。
このロッカーを見ているうちに、ぼくは先ほどの中古レコード市で買ったレコードのことを思い出した。
▲「好き! すき!! 魔女先生」の主題歌。
揺り籠から墓場までというか、魔女からサイボーグまでというか、なんだか最初から最後まで石ノ森先生に見守られていたような、そんな仙台の旅だった。