ぼくの友達にお笑い芸人をやっているのがいる。まだ売れっ子……とまではいかないが、たまにテレビに出ることはあるし、相方がかなり変わった素性の人物なので「あっ、見たことある!」という人もいることだろう。多国籍漫才コンビ、デスペラードのツッコミ担当・武井志門くんだ。彼がうまいもつ焼き屋を案内してくれるというので、東京は立石までやってきた。
残念ながら、相方であるイラン人のエマミ・シュン・サラミくんは来られなかったが、そのかわりというか、ジュクジュク熟女のピン芸人・鈴木奈都さんと、構成作家の森口啓一さんもご一緒で、昼からいっぱいお酒を飲んじゃおうという企みだ。ちなみにサラミが来なかったのは、別にムスリムだから豚肉が食えないとかそういう理由ではなくて、単に都合があわなかっただけのこと。だって、彼もつ焼き屋でバイトしてたりするからね。
◆バス移動は珍ポータル探しにちょうどいい
大人の遊びは現地集合。それが基本。なので、約束は12時15分に京成線立石駅の改札に集合。ぼくは常磐線各駅停車で松戸から亀有まで出て、そこからバスで立石に向かうことにした。バスって到着の時間が読みにくいけど、今回のルートだと乗り換えなしで済むのでありがたい。
午前中の空いてる車内で座席に腰をおろし、車体の揺れにまかせてボーッと外の景色を眺めていると、うっかり任務を忘れそうになる。そう、ぼくは珍ポータル担当の秘密エージェントなのだった。あわててスマホを取り出し、スキャナーを起動させる。
▲なんかいた。「ダックスベンチ」だ。
このベンチは、どうやら青戸の団地の敷地内にあるようだ。ダンチのベンチである。なんつってシャレている場合じゃない。引き続き周囲をチェックしてみると、次にこんなものがいた。
▲見たまんまの「赤い龍」だ。
背景から察するに、これも団地の敷地内にあるもののようだ。ダンチのドラゴンである。別にシャレにも何にもなっていない。
どんどん行こう。バスは少しずつ立石に近づいていく。
ちょっと変わったポータルを見つけた。普通、ポータルというのは対象物が1点だけ写真に収まっているものだが、これは2点を同時に画面内にとらえている。そんなのアリか。
▲「防災井戸とキャプテン翼 若林源三」である。
どちかにしろよって気もするが、これを申請したエージェント氏は両方を入れたかったのだろうし、それで申請が通ってしまったのだから仕方ない。こうして見ると、井戸もなんだか銅像のように見えてくるから不思議なものだ。この水は飲めないけどな。
さらに周囲をくるくるチェックしていると、こんなものが顔を出していた。
▲地面から飛び出た「ピンクの鮫」。
ピンク色に塗られているので一見可愛らしく見えるが、よく見ると造形的にはなかなかリアル。どういった施設に置かれているものかわからなかったが、いまこうして写真をよく見ると、左端に写っている看板にちらっと「酒屋」の文字が見える。アメリカでは泥酔するとピンクの象の幻覚を見るというが、立石ではピンクの鮫が見えるのかもしれない。
◆少年ジャンプに飲み込まれそうな町
バスはようやく立石に着いた。待ち合わせまではまだ全然余裕がある。バスが早く着き過ぎたのではない。ぼくが集合時間を間違っていたのだ。おかげで、予定よりも1時間早く着いちゃった。仕方ないから、駅の周りを散歩する。スマホ片手にウロウロ……。
▲またいたキャプテン翼。「大空翼像」だ。
このときまでぼくは知らなかったが、京成線の四つ木から立石にかけて『キャプテン翼』の銅像がいくつも立っているそうだ。それは作者の高橋陽一先生がここいらのご出身だからだそうで、そういえば『キャプテン翼』もこの辺が舞台になってたね。
▲せっかくなので銅像本体の現物を見に行ってみた。猫かわいい。
立石周辺は『キャプテン翼』像だらけだし、亀有駅周辺は『こち亀』像だらけで、たいへんなことになっている。少年ジャンプで町興しなのである。
さて、珍ポータルを見物しているくらいでは時間がつぶれないので、古本屋にも行ってみることにした。立石には、ぼくの知るかぎり2軒の古本屋がある。
▲1軒目は駅からもほど近い「BOOKS-U」。
ひさしに「遊戯王フレンドリーショップ」と書いてあることからもわかるように、ここは遊戯王カードに力を入れた店なので、ぼくのような古本オヤジにはあんまり関係のない店だった。ちらっと中を覗くだけで、早々に退散する。……遊戯王。はっ、この町はどんだけ少年ジャンプのお世話になってるのか!
もう1軒、ド渋い古本屋があったはずなので、そちらも訪ねてみることにする。やや距離はあるが、踏切を渡ってずんずん歩く。途中、公園の中にあるいい感じのジャングルジムがポータルになっていた。
▲ブックオフマニアにはうれしい3色で塗られた「ロケットジャングルジム」。
立石駅の南側に出て、奥戸街道を西方向へ歩いて行くと、やがて「古書誠実買入」という看板が見えてくる。いかにも昭和な古本屋然とした「岡島書店」である。やった、まだ残っていてくれた!
▲ここでは『東京酒場漂流記/なぎら健壱』(ちくま文庫)を購入。
とくに狙ったわけではないのだが、このあとの展開にふさわしい本を買ってしまった。ここからまた駅まで引き返す、ちょうどいい時間になっている。駅ではほとんど待つことなく、冒頭に書いた3人が到着し、さっそく目的の店に向かう。
▲立石でもっとも有名なもつ焼きの名店「宇ち多゛」である。
ここは過去にひとりでも何度か来てるけど、近年人気が高まりすぎてものすごい行列店になっちゃったんだな。店内での注文もいろいろルールがあって、慣れないとわかりにくい。味は最高なのでもっと頻繁に来たいけど、そのへんのあれこれが億劫で足が遠のいてしまっていたのだ。
で、ちょいちょいこの店に来ている武井くん(写真にも写ってるえびす顔のアニキ)に誘ってもらって、再訪したというわけ。結局、ここから2時間半並んでようやく入店し、激ウマのもつ焼き食べて、他にもうまいもの屋を2軒ハシゴしたけど、それはまた別の話ということで。