【Ingress情報局・TAPPLI支部】とみさわ昭仁の珍ポータル紀行・第13回 江古田の珍シャッターはどこだ?

 ある日、TAPPLI編集部からタレコミをいただいた。なんでも「江古田のシャッターが珍」なのだそうだ。江古田には年に2回ぐらいは行く。ということは180日に1回しか行ってないわけで、決して多くない。そりゃしょうがないよ。ぼくは東京の東側出身の人間だから、あんまり西側に用事はない。それでも、年に2回は行ってるのだから、まったく知らない土地ではない。

 そんなに江古田のシャッターって変だったっけ? と過去の記憶を回想してみるが、シャッターを見た覚えがない。そりゃそうだよ、江古田へ遊びに行くのはたいてい昼間。ま、酒飲んで帰るにしたってせいぜい終電までだ。つまり、シャッターが降りているのを見てないんだよね。

 だからといって、じゃあその珍なるシャッターを確認するために、江古田の住人が眠りについた時間を見計らって訪ねて行けばいいのかというと、何もそんなことをする必要はない。もし、珍なるシャッターがいくつも存在するのなら、江古田を根城にしているエージェントが写真を撮って、ポータルにしておいてくれるだろうから──。

◆江古田がシャッターアートの町だった頃

 細かいルートは省略するが、自宅を出発したぼくは、とりあえず池袋まで来た。ここから西武池袋線に乗り換えて、3駅目が江古田である。この江古田(えこだ)は豊島区だが、中野区にも江古田(えごた)という地名がある。昔は一緒だったらしいが、明治維新以降のアレコレで別の土地になったようだ。

 江古田にはブックオフがあるし、中古盤のココナッツディスクもある。ここいらを地盤にしている友達もいるので、飲みに来ることもある。だから駅を中心にした地理はだいたい把握している。駅の南口に降り立ったぼくは、さっそくiPhoneを取り出してIngressを立ち上げてみた。すると、いきなりあった。

モアナ
▲美容室「モアナ」のシャッターアート。

 珍、というほどではないが、右側のシャッターに何やら可愛らしいキャラが描かれている。コケシのような、はたまた魚肉さん(http://gyoniku3.jimdo.com/)のような……。TAPPLI編集部が言っていたのはこういうことだったのか。江古田へ行って、いろいろなシャッターアートを見てこい、と。

 ちなみに、この「モアナ」さんは南口ではなくて、江古田の北口と新桜台を結ぶ道路の途中にある。エージェントの皆さんならおわかりのとおり、ポータルを探すために我々はスキャナーをくるくる回して周辺をサーチする。だから、それほど大きな駅でないかぎり、北口も南口もおかまいなしにポータルを見つけてしまうのだ。

 次に見つけたのはこれ。

キャロット
▲八百屋「キャロット」のシャッターアート。

 あとで調べても場所が特定できなかったが、八百屋さんというよりも健康食品寄りの店のようだ。ウサギといえばニンジンが付き物だが、数年前まで我が家で飼っていたウサギはニンジンを食べなかった。動物にも好き嫌いはあるのだろうか。

 そして次はこのお店。

ベストミート・ハヤシ
▲肉の専門店「ベストミート・ハヤシ」のシャッターアート。

 これもまた北口にある商店だ。このあたりまで来て、ようやく事情がわかってきた。江古田では、北口に江古田市場通りと呼ばれるエリアがあり、数多くの商店が密集している。2004年の秋、それらのシャッターをキャンバスに見立てて、やはり江古田にある日本大学藝術学部の学生たちが、シャッターアートを描いたのだという。

 ただし、この市場は2014年に閉場してしまい、多くのシャッターアートが失われた。いまこうしてポータルになっているのはその名残りか、あるいはかろうじて生き延びている商店のものなのだろう。Ingressは奇妙な関わりをもって、このように消え行くアートの保存に寄与しているのだ。

Beans1
▲コーヒー豆専門店「Beans1」のシャッターアート。

 うまい豆の産地が表示されたアートが楽しい。しかし「NO COFFEE NO LIFE.」と来たか。こりゃまた大きく出たね。ぼくもコーヒーは好きだが、そこまでは言い切れない。

 江古田という町は、西武池袋線は斜めに通っているし、駅周辺の道路も斜め斜めで複雑に入り組んでいるので、慣れないと迷いやすい。そんなとき、ぼくはブックオフを中心にして地理を考える。ブックオフを出て北へ向かえば駅、南へ向かえば千川通り。千川通りにはココナッツディスクがある。完全にコレクター脳の発想である。

 千川通りに向かってゆるゆる歩いている途中、もうひとつシャッターアートを見つけた。

生鮮館まるたか
▲食品スーパー「生鮮館まるたか」のシャッターアート。

 ここは江古田市場とは無関係で、駅から南東のはずれにある。豚と牛が仲良く手をつないで歩く微笑ましい絵が描かれている。こうしたタイプの絵は共食いキャラクターhttp://tomogui.jp/)として、ライターの大山顕さんが研究している。仲良しさんのこの2匹はどこへ向かっているのだろう。品川方面かな。

◆異国の香りで江古田の夜は更けて

 町内のゴミ集積所に大きな楽器ケースが捨てられている。ゴミ回収作業員が不意に持ち上げようとすると、施錠されていなかった楽器ケースの蓋が不意にひらき、中から何かが転がり出てくる。ひぃーっ! 美女の胴体! なんで胴体しかないのに美女だとわかるのか不思議だが、このポータルを見つけたときはそんな気持ちになった。

女性の下半身像
▲本当はなんて作品名なのか知らないが「女性の下半身像」。

 珍ポータル探しも楽しいものだが、ブックオフ巡りも楽しい。あいにく今回のブックオフ江古田店では特筆すべき収穫は得られなかったが、そのあとに訪問した中古レコードのココナッツディスクでは、ちょっといいレコードを見つけた。

ロックン・アラビア体操
▲児童向け体操レコードの「ロックン・アラビア体操」だ。

 子供レコードには意外にクラブのプレイで使える曲が多いというのは、和モノDJのあいだでの常識だが、これもそんな1枚。「ロック」で「アラビア調」で「ダンス教材」でもある。こういうタグがいっぱい付いたレコードは使い勝手がいいのだ。

 いろいろ愉快なポータルを見つけ、いいレコードも手に入れたら、あとは軽く一杯やって帰ろう。まずは江古田の人気店「お志ど里」で酎ハイを2杯、ブリカマ焼きをいただく。いい気持ちになってきたところで、次は練馬の人気店「ひょうたん」が江古田にも支店を出したというので、そちらにも顔を出す(ちっとも「軽く一杯」で済んでいない)。

「ひょうたん」は店名からは想像つかないが、タイ料理の立ち飲み店なので、シンハービールにラープヌア(牛肉とミントのサラダ)をいただく。

ラープヌア
▲赤唐辛子4本印でとても辛い。ハヒーハヒー。

 でも、辛いおかげで目が覚めた。これなら帰りの電車で酔って寝過ごしたりしないで済むだろう。ふらふらと駅に向かうぼくを、珍ポータルが見送ってくれた。

こっちみんな!
▲「こっちみんな!」