【たっぷり開発者インタビュー】あの、スタイリッシュなサウンドはどのように生まれたのか――『消滅都市』サウンドチームの場合【前編】

 2014年5月にグリー内のスタジオ、Wright Flyer Studiosからリリースされ、現在も人気の“ドラマアクションRPG”『消滅都市』。いささか旧聞となるが、そのサウンドトラック2作品が2014年11月12日(水)、11月26日(水)に発売された。

消滅都市オリジナルサウンドトラック特設サイト

http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/home.html

 スマートフォンゲームのサウンドトラックの存在も今でこそ多少は発売されるようになったが、まだまだゲームの総数に比べると珍しいもの。『消滅都市』では、なぜそれが成立したのか。同作品のサウンドを制作したノイジークロークの加藤浩義さん、川越康弘さん、蛭子一郎さんに話を伺った。


▲加藤浩義さん
作曲家。投資会社、CDショップ勤務を経て、株式会社ノイジークロークに入社、シニア・プロデューサーを務める。以後『Dance Dance Revolution』シリーズ、『龍が如く』シリーズなどで楽曲制作を担当。ダンス、クラブ系やデジタルロックなどアッパーな楽曲を得意とする。また、レコード会社での楽曲制作も多く浜崎あゆみのリミックスや小柳ゆきのアルバムでも作曲、編曲で参加。「沖縄ゲームタクト2014」にはバンド「TEKARU」でのシンセサイザー演奏の他、DJとしても参加。


▲川越康弘さん
株式会社ノイジークローク所属のサウンドプロデューサー/コンポーザー。代表作に『ポケモン不思議のダンジョン ~マグナゲートと∞迷宮~』、『Beat Sketch !』など。『消滅都市』のゲーム内アカウントは「消滅都市の作曲者B」。


▲蛭子一郎さん
株式会社ノイジークローク 制作部 チーフサウンドデザイナー。元々はゲームプログラマーだったが独学でサウンド制作を学びノイジークロークへ入社。 好きな食べ物はカレー、最近の趣味はunityでゲーム作り。

◆『消滅都市』最初の印象は「ぶっ飛んでるなぁ」

――ゲームについて伺う前に、まずノイジークロークについて教えてください。

川越 
ゲームを中心に、インタラクティブなメディアに特化してサウンドを制作している会社です。一口にサウンドと言ってもBGMだけでなく、効果音も作りますし、声優さんを集めてボイスの収録もしますし、レーベルとしてCDを出したりイベントの企画もしたり……ゲームサウンドの総合プロダクションという感じでやってきて、今年で11年目です。

――なるほど。では、それぞれ『消滅都市』でのご担当を教えてください。

蛭子 僕はずっと効果音ばかり作っていて、今回も効果音を担当しました。9割ぐらいは自分が作っています。

加藤 僕はBGMの6、7割くらいを作りました。

川越
 僕は加藤の補助で3割5分くらいの作曲をしました。あとはボイス周りの手配やサウンド関係のディレクション、先方とのご連絡……と、何でも屋という感じです。

――『消滅都市』の声優と言うと、タクヤ役の杉田智和さんとユキ役の花澤香菜さんが印象的ですが、おふたりのキャスティングも川越さんがされたのですか?

川越
 その2役については「明確なイメージがある」と、グリーさんからのご指定がありました。そのほかのキャラクターについては、音響監督を務められた株式会社オブジェクトの吉村尚紀さんに人選をお願いし、グリーさんへご提案しつつ決めていきました。

――サウンド面ではどのような指示がありましたか?

川越 まず最初にゲームの内容を聞いたとき、「かなりぶっ飛んだ世界観だな」と思いました。バイクに乗ったキャラクターを操作してステージ内に配置されたアイテム(ゲーム内では「スフィア」)を取ると、その背景で展開しているバトルに影響する。そこまでは理解できましたが、後ろでサラリーマンが名刺を出していて、「これはどんな音楽にすればいいかさっぱりわからないな」と(笑)。ただグリーのディレクターの下田翔大さんにはしっかりしたビジョンがあったようで、「ゲームに今まで興味がなかった人でも入り込めるような、カッコよくてオシャレな音楽」、「ダンスミュージックを中心にしたい」という方向性を頂けました。そこでそういった音楽が得意な加藤の作品集をお送りして、担当することが決まりました。


――加藤さん、蛭子さんがゲームを初めて見たときの印象は?

加藤 川越と同じように「えっ?」となりました(笑)。でも曲のオーダーやイメージ自体は頂いたので、まずはそれに沿って作ってみました。

蛭子 僕はアクションゲームが好きなので、グリーさんでは珍しいアクションゲームを手がけられてうれしかったですね。「スクロールアクションか、これは楽しみだ!」と、期待して打ち合わせから帰ったのを覚えています。

――効果音はどれくらい作られたのでしょうか?

蛭子 120個くらいでしょうか。スマートフォンゲームもサウンドの量がどんどん増えていますが、最近の作品のなかでも多いほうでしょう。

川越 アクションゲームは効果音が多くなりがちですね。

◆元々は、都市が消滅する場面でも効果音があった!?

――それぞれ、お気に入りの楽曲と効果音、その理由を教えてください。

川越 自分の曲、と言いたいところなのですが、加藤の『You and Me』がすさまじく好きです。僕もかなり熱心にゲームをプレイしているのですが、とりあえずひと区切りの3章までクリアして、それからしばらく喪失感に浸っていました。そうしたら4章のPVでこの曲が流れたとき、うるうるっと来てしまって。それからは、この曲を聴くとテンションがダダ上がりしてしまいます。

※4章以降の通常バトルで使われるBGM『You and Me』の試聴は以下のサイトから。
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/second_album_talk01.html

――それまで『I miss you baby』というボーカル曲の名曲があったのに、それを踏襲しつつ、さらなる名曲ですもんね。

川越 『I miss you baby』のハードルは結構高かったと思います。『You and Me』がどんな曲になっているのか僕はゲームで初めて聴きたかったので、隣の席で作っているにも関わらず一切聴いていませんでした(笑)。でもその期待も軽々と越えていって……本当にすごいですよ。

蛭子 僕も加藤からこの曲のデータを預かったときに、「この人は天才だ!」と思いました。『I miss you baby』から段階が上がった感じがしっくりきて、『消滅都市』らしさもきちんとあって。

――加藤さんは制作時に手応えはありましたか?

加藤 そうですね。僕もゲームをやり込んでいたので、「こういう曲を聴きたい」と思って、あまり迷わずパッと作りました。

――その加藤さんのお気に入りは?

加藤 今まで自分が作ってきてないタイプの曲で思い入れもあるので、『Avalon』です。結構ノリノリな『You and Me』などと違って、これはバトル曲だけどそうではない。『消滅都市』の儚い感じやバトルに上手く寄り添えたと思っています。

※重要なステージで使われるBGM『Avalon』の試聴は以下のサイトから。
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/first_album_talk02.html

蛭子 実は僕も今日選んできた曲は『Avalon』でした。わかりやすくドーンとくるというより、心の奥底から燃え上がってくるようで……普通は重要なシーンの曲のほうに歌ものを使うと思うのですが、『Avalon』のようなふつふつとする感じもいいですね。

――効果音でのお気に入りは?

加藤 僕はタイトル画面をタップすると流れる「ガシャーン」です。

蛭子 初プレイ時はそのあとに都市が消滅する場面がありますよね。本当はあの音も提出したんです。こう、「ヌワァァァアアア!」って感じのを(笑)。でも結局、グリーさんのご判断で今のように効果音が鳴らない演出になりました。ほかにも同じように使われなかった音はいくつかありましたが、その分どの場面でも本当に印象的に効果音を鳴らしていただいていると思います。

川越 効果音に関しては、サウンドディレクターでいらっしゃるグリーの竹内雅樹さんとプログラマーさんがすごく綿密に調整されています。たとえばスフィアを連続して取ってるときの音も、プログラムで制御してるんですよね。

蛭子 僕のほうでは元々の取得音と、そこから1オクターブ上げた音、2オクターブ上げた音の3種類を提出しました。それを、グリーさん側で元の音から1個ずつ音程を上げていって、1オクターブ上がったタイミングで次のデータになるようにしてくださって。本当にきれいに鳴っていて、グリーのスタッフのみなさんがこだわってくださったことに感謝しています。


――蛭子さんのお気に入りの効果音は?

蛭子 キャンセルとか決定とか、システム系の音はわりと上手く雰囲気に合ったかなと思います。

川越 触っていて気持ちいいですよね、効果音。僕は戻るボタンの音が好きです。ちょっと石っぽい音というか。

蛭子 あれは奇跡的に雰囲気に合いました(笑)。あとで「これ、本当に自分で作ったっけ」と思ったくらいです。

◆サウンド面に格段の注意を払っている『消滅都市』

――効果音だけでなく、BGMもゲーム開発側で色々と調整されているそうですが、それによって印象は変わりましたか?

加藤 ゲームではそれなりにレート(編注:音質に関わる設定のこと)を下げているのに、あまり変わらなかったですね。

川越 レートを下げていない元の状態はサントラで聴いて頂くとして(笑)。レートを下げているだけでなく、サウンドディレクターの竹内さんから話を伺うと、低音や高音もバッサリとカットされているそうです。このようにBGMと効果音の音域をしっかり分けて聴きやすくしたり、プレイ中は前と後ろで別の世界が展開しているので、後ろの音には少しリバーブを深くかけて、距離感を演出したりと、かなり細かく調整されていますね。

――奥が深いですね。スマートフォンのゲームだと屋外でプレイする場合、音楽を聴かない人も多いのでもったいないですが……。

川越 4年前くらいに僕らがスマートフォン用ゲームのサウンドを作り始めたころから、本当にそれとの戦いでした。でも『消滅都市』の場合、グリーさんがすごくサウンドを大切にしてくださいました。たとえばゲーム開始時に音を聴いてプレイするよう促されますよね。あれはグリーの澤智明プロデューサーがディレクターの下田さんに入れるよう指示されたそうです。「このゲームは音を聴いてプレイするかどうかで、プレイし続けてもらえるかが絶対に変わるはずだ」という直感からのご指示だそうで、うれしかったですね。

 サウンド制作側のこだわりはもちろんのことながら、ゲーム開発側も相当の愛着を持っていることが伺える『消滅都市』。後編となる次回は、いよいよサントラについて、発売の経緯、そしてその成果について迫る。