【映画プロデューサー千葉善紀の“コレやってます!”】何でみんな『バットマン:アーカム・ナイト』やってないんだ!?

日活千葉P

映画『冷たい熱帯魚』『ヤッターマン』『片腕マシンガール』『凶悪』『極道大戦争』など、プロデューサーとして数々の話題作を手がけた鬼才・千葉善紀は、実は日本映画界有数のゲームファンだった!
家庭用ゲームを中心にプレイする千葉Pと、ゲーム雑談をしてみよう、というこのコーナー。あくまでもひとりのゲームファンとして、千葉Pが言いたい放題!

日活千葉P

千葉善紀
 日活株式会社 プロデューサー

(敬称略)

◆「サラリーマンも、ゲームをやるべき!」

千葉 この話、本当に僕で大丈夫なのかなあ……騙されてるんじゃないの?(笑)

――いやいや(笑)。今回は、映画界でも無類のゲーム好きだとお聞きしたので、千葉さんとのゲーム雑談を記事にしてみよう、というのをコンセプトとして、連載の形でお願いした次第です。

千葉 それはハードルが低くて、非常にいいですね(笑)。僕以上にゲームばっかりやってる映画人は、あまり聞いたことがないですね。いたら教えて欲しい。一緒にやりたいから(笑)。

――フレンドになりたいと(笑)。

千葉 本当に、ぜひ教えて欲しいくらいです。どこに行っても、『バットマン:アーカム・ナイト』(PS4用、ワーナー・エンターテインメント・ジャパン)の話とか、ぜんぜんできないんだもん(笑)。だから、この機会を通じて、洋ゲーをやってる友だちを増やしたいです。
 サラリーマンの人にも、ゲームをもっとやって欲しいんですよ。これが、僕のこの連載のコンセプトです。

――千葉さんがプレイするのは、洋ゲーが多いんですか?

千葉 洋ゲーばっかりですね。ずっとXboxでやっていたので、必然的にほぼ洋ゲーに偏ることになりました。
 やっぱり、映画の仕事をしているので、映画からゲームに入っているんです。いまでこそ映画のゲームも結構日本で出してもらえるようになりましたけれど、昔はほとんど日本にはローカライズされなくて、Xboxの輸入盤を買うしかなかったんですよ。そうやって、例えば『キャプテン・アメリカ』のゲーム(『Captain America Super Soldier』 2012年、Xbox 360用ほか、Sega Of America、日本未発売)とかやってました。あれは、日本でやってたのは50人くらいなんじゃないかと思いましたよ(笑)。

――確かに、プレイした人の話は滅多に聞かないですね(笑)。

千葉 何しろ、映画のゲーム、イコール売れない、だから出さない。そういう時期が長かったんです。

――ちょっと古いものだと、出来がイマイチだったりすることも多かったですしね。

千葉 そうなんです。昔の映画のゲームって、キャラクター頼みになっていて、内容はイマイチだから買わない。でも、その考えはダメなんじゃないかと。

――と言いますと?

千葉 あれは、キャラクターグッズのひとつなんです。最近のゲーム、例えば『アーカム・ナイト』はそういうところを飛び越えた出来で革命的なんですけど、以前の映画ゲームはそうではなかったですから。
 僕はもともとは、どっちかというと『バットマン』のDCよりマーベルコミックのほうが好きで、『スパイダーマン』マニアなんです。だから『スパイダーマン』のゲームならとりあえず買うんですけど、昔の『スパイダーマン』のゲームは、正直言ってあまりにもイマイチすぎて。だから、キャラクターグッズとして買ってるんで、内容はどうでもいいんですよ(笑)。

――ぶっちゃけ、パッケージを並べたい、くらいの勢いで(笑)。

千葉 そう(笑)。キャラクターグッズなんだから、いいじゃん別に、と思ってたんです。いまの『スパイダーマン』のゲームともなるとすごいですけどね。でも、ゲームに関しては、いまはワーナーのほうがすごいと思っています。

日活千葉P

◆千葉Pが語る、米コミコンの思い出

――何しろ、最近の『バットマン』シリーズは、メチャクチャ出来がいいですものね。

千葉 ちょっと狂ってるくらいですよ(笑)。でも、実はこのシリーズは二作くらい買ってやってはいたものの、どこに行っていいのか分からなくなって、途中で放っちゃったんですよ(笑)。さんざんグルグル行かされて、道を見失っちゃうんですよね。
 あと、どちらかというとマーベルオタクだから、そんなにバットマンに思い入れがなくて。好きなのは『スパイダーマン』と『パニッシャー』。

――『パニッシャー』ですか!(編注:悪人相手なら殺しもいとわない、マーベルでも異色のダークヒーロー。1993年にカプコン制作のアーケードゲームもある)

千葉 僕、『パニッシャー』マニアなんですよ。だから、雑誌の『映画秘宝』の田野辺さん(編注:田野辺尚人。『映画秘宝』二代目編集長)が僕の事を雑誌に書く時は、「パニッシャー千葉」って書かれるんですよ(笑)。いつも『パニッシャー』のTシャツ着てたから。
 ……これ、話がズレてる気がするけど、大丈夫ですか?

――面白いから大丈夫です(笑)。

千葉 じゃあ続けると、コミコンってあるじゃないですか(編注:Comic-Con International。米サンディエゴで開催される、コミックやSF、映画を中心とした世界最大のコンベンション)。いまやもうすごくて、ホールHのプレゼンテーションなんて、誰でも知ってるし、ちょっと入れないくらい人が来るイベントです。

――『アベンジャーズ』シリーズなど、アメコミ映画のプレゼンテーションが行なわれるホールですね。コミコンでも一番人気で、常に満員になるホールだと聞いています。

千葉 でも、僕が一番最初に行ったのは『スポーン』(1997年)のときで、まだフィギュアバブルのはしりの頃。僕が当時いたギャガが『スポーン』の映画を買っていたので、初めて行ったんです。その頃は、コミコンも、まだコミックに特化した場所で、フィギュアがちょこっとあった程度。トッド・マクファーレン(編注:『スポーン』原作者。アメリカンコミック界のカリスマのひとり)が来ても、ホールHも大して埋まってませんでした。しかも、映画のプレゼンテーションをコミコンでやったのは、たぶん『スポーン』が初めてくらいだったんです。

――その前のコミック映画だと、ティム・バートン監督の『バットマン』シリーズ(1989年~)くらいですかね。

千葉 だから、コミコンでプレゼンテーションなんて本当になかった。でも面白かったので、コミコンにはその後も行くようになったんですよ。
 で、『スパイダーマン』のプレゼンテーションがあったときに、スルーっと一番前に座って、サム・ライミにサインもらってやろうと思ったんですよ(笑)。終わったときに「サインくれ!」と突撃したら、明かりが消えて真っ暗なところで適当に書いてくれたんだけど、あとで見たらグチャグチャで何書いてあるか分からない(笑)。

――いまコミコンのホールHで最前列に座ろうと思ったら、二日は徹夜で並ばないといけないですから、いい時代ですね(笑)。

千葉 本当にいい時代にいろんな所に行かせてもらいました。でもその頃は全くゲームには興味なかったんですよね。コミコンでは、コミック、映画、フィギュアに並んで、ゲームのブースもすごいんですよ。僕が行っていた頃も、もう半分くらいはゲームのブースになっていました。その頃からゲームの熱量は半端なかったですね。

日活千葉P

◆「いまの洋ゲーは親切なんです!」

――アメリカだと、コミックマニアとゲームマニアとジャンル映画のマニアはかなり近い層ですよね。

千葉 ほとんど同じですね。だから、ホラー映画の話もゲームの話も普通に通じる。でも、日本だと、あまりリンクしてない感じがするんですよ。向こうなら誰でも『コール オブ デューティ』(編注:世界で最もヒットしているFPSゲームシリーズ)をやっているけど、日本ではそんな映画ファンになかなか出会えないし(笑)。

――FPSに比べると、『アーカム・ナイト』は日本のゲーマーにも相当やりやすいゲームだと言えそうですね。

千葉 そうなんですよ。FPSが苦手な人が多くて。やっぱり、洋ゲーというものを、みんなまだまだ勘違いしていると思うんです。
 実は、すごく簡単にできるように作られてるじゃないですか。

――『バットマン』シリーズあたりは、本当にやりやすいと思います。

千葉 他もキャンペーンはマジでやりやすいんです。『コール オブ デューティ』のようなオンライン専用みたいなのは秒殺されるので、初めての人にはオンラインは全くオススメしませんけれど(笑)。

――巧い人と当たると、まったく見えない距離から狙撃されますからね(笑)。

千葉 一瞬で秒殺されて何が起きたかも分からない(笑)。ああいう体験で洋ゲーを嫌いになってしまう人が多いですし、僕も、オンラインを覗いてみたら即死、というのを何度もやってますけど。それでもキャンペーンモードはアメリカ人の中学生でもできるくらいの作りにしてくれてますから(笑)、やりやすくしてくれているんですよ。行くべき道もちゃんと示してくれるし、最新ゲームであるほど、クリアできるように、すごく親切に作られているんです。しかも『コール オブ デューティ』なんて本当に戦場にいるかのような感覚が味わえます。
 だから、やったことがない人の「洋ゲーって難しいんでしょ?」という印象は、もったいないなあと。

――確かに、馴染みがない人は、惜しいことをしているな、と思います。

千葉 ちょっとバタ臭いし、イカツい男ばっかり出てくるし。

――そこは否定できないです(笑)。ただ、『バットマン』シリーズは、美女のキャラクターも多いですね。

千葉 そうなんですよ。そういう面はあって、『ゴッド・オブ・ウォー』(PS2用、2005年、SCE 日本版カプコン)とか、エロい姉ちゃんしか出てこないし(笑)。見どころもたくさんあるので、洋ゲーは面白いんです。
 なのに、なぜこんなに日本ではプレイ人口が少ないのかと、すごく不満なんですよ。

――では、千葉さんが、いま洋ゲーを全然プレイしていない人にオススメしやすいタイトルは、やはり『アーカム・ナイト』ですか?

千葉 『アーカム・ナイト』はいいと思います。ただ、これをやるためにシリーズ作を前からやろうと思うのは、やめたほうがいいです(笑)。

――映画的鑑賞的な発想ですけれど、やめたほうがいいんですか(笑)。

千葉 いまのゲーム、特に洋ゲーは、続編だからといって、前のを知らないと楽しめない作りにはなってないんですよ。『トゥームレイダー』(PS3/Xbox 360用、スクウェア・エニックス)にしても、僕は前のは全然やってませんけど、新しいヤツだけやっても素晴らしいゲームだと思いました。リブート(編注:シリーズ作品の仕切り直し)になっているし、前のことを全然知らなくても楽しめる。
 いまはシリーズもののゲームでも、3からでも4からでも始められます。それが面白かったら、前のもやってみればいいだけの話で。そういう意味では、『アーカム・ナイト』はオススメできますよ。

日活千葉P

◆映画がゲームにかなわない!?

――では、ちょっと『アーカム・ナイト』をオープニングから見てみましょうか。

千葉 『アーカム・ナイト』は、もうオープニングから絵がすごいんです。とんでもないクオリティ。ただオープニングでちょっと見せるだけなのに、力の入り方が半端じゃないですからね。

――オープニングからオールディーズを聴かせる、音楽の使い方もいいですね。

千葉 日本映画を作っていて思うのは、洋ゲーでもハリウッド映画でも、音楽が使い放題なのがすごくうらやましいんですよ。勢いがあるシーンになったら、とりあえずAC/DCとかかけておけば何とかなるし(笑)。でも、日本映画ではそれはできないですから。

――それは、日本映画だとできないことなんですか?

千葉 絶対にできないです。まず、予算が合わない。ハリウッドだと制作費が日本の何百倍なので、仮に総予算に対する音楽費の割合が同じだとしても、クリアできちゃうんですよ。だから、音楽は本当にうらやましいです。

――ゲームのほうは、オープニングシーンから、いきなりジョーカー登場ですね。

千葉 最初の部分だからネタバレしますけど、いきなりジョーカーをプレイヤーの手で燃やして焼却処分にしちゃうんです。ジョーカーは今回、亡霊のようにバットマンにつきまとうんですよ。ストーリーに絡んでいない状態なんだけど、バットマンの耳元でずっと嫌味を言い続ける(笑)。

――ジョーカー自身がバットマンのトラウマになっているわけですね。

千葉 そうです。そういう感じで、ストーリーの作り込みも半端ないですね。

――街中のシーンでも、全員のモーションをキャプチャーしてそうですね。

千葉 映画なら一方的に観るわけですけど、これだけすごい世界の物語の中に自分も入っていって体験できるんですから、もう新しいエンターテイメントだと思うんですよ。

――映画のプロの千葉さんがそれを言うのは、ちょっとすごいことだなと思いますね。

千葉 もう、衝撃ですよ。こういうゲームを作られちゃうと、どんな映画を作っても、かなわないなと(笑)。

――いいのかなぁ……(笑)。

千葉 『The Last of Us』(PS3用、2013年、SCE)あたりも、本当に新しい、体感するゲームじゃないですか。あんなことやられたら、かなわないですよ。映画は、主人公が左に行ったら左しか見えないけれど、どっちを見るかまで選べるわけですから。そんな体験できるなんて、ちょっともうあり得ないですね。

――千葉さんは、映画を作る側の人だからこそ、余計にそう思うのかもしれないですね。

千葉 ゲームを作る人には「映画を作りたい」と仰る人も多いですけど、こんなものを作られたら、どうして映画に行きたいのか分からないですよ(笑)。だって映画なんて一方的で、自由度なんかないんだから。映画だったら、この絵を作るのだっていくらかかるか。

――『アーカム・ナイト』の場合、オープニングシーンからまったくシームレスに、いきなり動かせるわけですからね。

千葉 何の説明もなくても始まってるんです。昔だったら、やっぱりCG画面からゲームに移行する切り替えがあったけれど、ムービーシーンからそのままスーッとゲームに入れるのがいまの洋ゲーですね。そうなると、本当に体感としてゲームの中に溶け込める。そんなものがあるのに、何でみんなやらないんだ!?って言いたいんですよ(笑)。

日活千葉P

◆「バットモービルに乗れる、夢のよう!」

――オープニングから、有名ヴィラン(悪役)のトゥーフェイスやペンギンも出てくるじゃないですか! ずいぶん出し惜しみなく来ますね。

千葉 出し惜しみは全然ないです。それに、ムービーシーンで見えている街中は全部行けます。そして今回は何がすごいって、バットモービルに乗れるんです! もう夢のよう(笑)。

――実際に千葉さんにプレイしてもらってるわけですけど、シリーズを重ねてきてるだけあって、操作性も良くてこなれてますね。

千葉 操作性と作り込みは本当にすごいんですよ。バットサインの場所に行けばいいようになっているし、やりやすさは本当に半端ない。
 次の映画(『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』、2016年公開)では、ベン・アフレックがバットマンを演じるんですけれど、最初は「何でベン・アフレックなの?」って思ってたんです。でも、あれってゲーム版のバットマンのイカツい身体から来てるんじゃないかと気づいたんですよ。ベン・アフレックの、厚みがある、太り気味のボリューム感が、ゲーム版のイメージに近いんでしょうね。

――確かに、このゲーム版シリーズのバットマンは、プロレスラーみたいな身体をしてますからね。

千葉 最近のヒーローはスマートな感じが多いんですけど、ゲームに慣れている人からすると、バットマンにはこのイカツさが必要なんですよ。

――映画ではややマーベルに押されていますけれど、ゲームではこの『バットマン』シリーズが評価も高いですね。

千葉 いやもう、アツいですよ。こんなゲームを作られたら、かなわない。街に常に雨が降ってるんですけど、CGでこんな表現をやるのもとんでもない。
 攻撃も、実は□ボタンを押してるだけでカッコ良く敵をやっつけてくれたりするんですよ。ただ連打してれば決め技まで出してくれる。だから、いままで全然やっていなかった人が何となくプレイしてみても、すぐにできるようになっているんです。

――プレイしていて困ることは少なそうですね。

千葉 さらに、いまはYoutubeという強い味方がいますから(笑)。昔は攻略本を読んでも場所が分からないなんてこともありましたけど、いまは世界中からYoutubeに攻略をアップしてる連中がいますから、ゲーム素人でも困ったらYoutubeで探せば何とかなる(笑)。

――えーっと、コメント難しいですが、全然いいです(笑)。

千葉 ただ、唯一残念なのは、Co-opプレイ(協力プレイ)モードがないことですね。ひとりでやるだけ。

――フレンドがロビンになって来てくれない(笑)。

千葉 来てくれないんですよ。ロビンは出るんだけど、切り替えで自分が動かすんです。これがCo-opプレイでやれたらいいのにな、と残念です。
 あと、キャットウーマンがエロい(笑)。これは大事です。

――『バットマン』ファンならずとも、というところですね。

千葉 本当に、なぜみんなこれをやらないのか、と思っているんですよ。たくさんの人がやっているんでしょうけど、僕の周りではなかなかいないので。映画を作っている人は、これをやってみんなガッカリしろ、と言いたいです(笑)。

――ガッカリさせちゃダメじゃないですか(笑)。というところで、今回はこんなところにしましょうか。次回もよろしくお願いします!

日活千葉P

(2015年8月収録)