進化を続ける『Ingress』 株式会社ナイアンティックの新たな挑戦! 代表取締役社長 村井説人氏インタビュー 【開発者インタビュー】

  2015年末頃より、Google、任天堂、ポケモングループからの出資、日本の現地法人株式会社ナイアンティックの設立、そして本日(2月26日)フジテレビからの出資発表と話題の尽きないNiantic, Inc。同社が現在サービス中のリアル・ワールド・ゲーム『Ingress』でも沖縄#Abaddon、#Obsidianと大規模なリアルイベントを開催して、会場に数千人のプレイヤーを集めるなど話題にのぼることが多い。『Pokémon GO』の開発など、これからますます目が離せなくなる株式会社ナイアンティックの代表取締役社長、村井説人氏にお話を伺ってきた。

◆個々の有益な情報が集まり、ゆくゆくはより大きな集合体を作る仕組みを作れたら、それが『Ingress』の醍醐味です。

Nianticインタビュー

――まずは株式会社ナイアンティックの社長に就任した経緯を教えていただけますか。

村井説人氏(以下、村井※敬称略) 僕はGoogle マップ等の地図製品全般の日本のパートナーシップの責任者をやっていました。 Niantic, Inc(以下、Niantic)のCEOであるジョン・ハンケ(以下、ジョン)が、Google Earth の生みの親なのはよく知られていることだと思いますが、このような繋がりもあり、Google マップを担当していた僕は、ジョンと仕事を一緒にする機会があり、お互いに知っている仲だったのです。
 ちょうどNiantic がGoogle 社内のベンチャーとして立ち上がった頃に、ジョンとたまたま会う機会があり、日本で『Ingress』で新しいチャレンジをしていきたいので、少し手伝ってくれないか? と声をかけられました。
 Google には20%ルールと言う制度があり、その範囲内で上長と相談の上、『Ingress』の仕事の一部に携わり始めたとのが『Ingress』と僕のきっかけです。ちなみにその時の日本側の担当者は私一人でした。
 1年くらい『Ingress』の仕事をサポートしてきた結果、複数社企業とのパートナーシップを締結できました。ジョンは、以前から個人的にとても日本が好きなのですが、このようなパートナーシップができたのは、ジョンが日本のマーケットを大切にしてきた結果だろうと思います。このような企業パートナー様との関係も含め、今後も更に日本を大切にしたいと言う強い思いが、株式会社ナイアンティックの設立につながったものだと思います。
 ジョンは私のあこがれの人でもありますし、彼と仕事ができるチャンスは本当に貴重だと思い、私もNianticに参加することを決めました。

――社長として就任するのは決まっていたんですか。

村井 いや、もちろん、はじめは決まっていませんでした。ただ、彼なりに僕の次のステップを考えてくれたのだと思います。この話を聞いた時、彼の思い描く世界を実現するために全身全霊をかけて彼をサポートしようと心に決めたことを覚えています。もちろん、今もその気持はまったく変わっていません。

――現在の『Ingress』のパートナーシップに関してはすべて村井さんがお決めになったと伺いましたが。

村井  そうですね、すべてやらせて頂きました。
 ローソン様から始まったのですが、幸運にも多くのすばらしいパートナー様と巡りあうことができ、ソフトバンク様、三菱東京UFJ銀行様、伊藤園様と、今の関係を築くことができました。
 ジョンから期待されていた事は、『Ingress』の世界観を理解してくれる企業様を探すことだったので、それに注力してきました。

『Ingress』の難しさは、ビジネスモデルから何からすべて新規に作り上げて行かないと行けないと言う所でした。改めて、なにもない所からサービスをつくり、そこにビジネスとしての価値を見出すことはとても大変なことです。そこをチャレンジしているのが『Ingress』で、よって、パートナーシップも今までとは違った視点で行わないといけませんでした。
 僕は、人が興味を持つ地理情報を地図上で増やしていくというのが、地図の使いやすさをよりよくしていくひとつの方法だと思っています。できる限り正確な情報を正確に表現すること、それが地図が表現する一つの価値だと思っています。
 一方で地図をベースにした『Ingress』が表現する世界は、その地理情報をほとんど表示していないのが特徴です。実際に道を歩いてみても、『Ingress』の画面上では、ビルの名前や、お店の名前を知ることは難しく、便利な地図としては、ほとんど使いみちが無いんです。でも、実は、逆にそこがビジネスとしては、価値があるのではないかと我々は考えたのです。つまり、スキャナーを通して限定的ではるけど、ユーザーの生活を少しでも良くできる有益な情報が表現できれば、みんなは『Ingress』を楽しくもあり、便利なツールとして、利用し続けてくれるのではないか?と考えました。

Abaddon

◆沖縄の会場にあれだけ人が集まったのははじめてらしいですよ(笑)

――『Ingress』やプレイヤーであるエージェントに対してはどんな印象を持っていますか。

村井 一番初めに『Ingress』に携わったときに衝撃を受けたのは、エージェントたちの世界観に没入する深さに対してでした。海外のエージェントの例になりますが、『Ingress』のタトゥーを彫っているエージェントが何人もいて、自分がタトゥーを入れるほどゲームをやりこんだ経験がなかったので、このゲームはなんなんだろう? と思っていたんです。
 そして、日本でも『Ingress』が知られはじめてiOS版のリリースとともにユーザーが一気に増えて、現在日本は世界でも2番目(1位はアメリカ)のユーザー数になっています。
 それが海外のエージェントと同じかはわかりませんが、『Ingress』の世界観にこんなに共感してくれるエージェントが日本にもこんなにいたのかというのには驚きました。
 日本のエージェントたちからは『Ingress』というゲームが好きで期待してくれているのを感じます。

――日本のXMアノマリーイベントの際には、海外にまで飛んでいって巨大CFを構築する大規模な作戦行動を行なうことがありますが海外でもそういう作戦は見られますか。

村井 海外でもないことはないんですが、日本の場合はイベントに集まるエージェントが他の国に比べて圧倒的に多いという特徴があります。
 ジョンもいっていたんですが、それほど大きくない国土に密集した都市がたくさんあって、そこに人が動ける交通手段もある。
『Ingress』に対するモチベーションの高いエージェントの方々がイベントに参加しやすい環境があるということだと思います。これがアメリカだとサンフランシスコにはニューヨーク(距離:4100キロ程)からはさすがにいきづらいので、集まる人の数には限界がありますね。

――沖縄で開催された#Abaddonには3000人以上のエージェントが集まっていて私も驚きました。

村井 そうなんですよ。沖縄の会場(那覇新都心公園)あったじゃないですか? あの場所にあそこまで人が集まったのは初めてだそうです(笑)。
 実はあのときは、なるべく人を分散させるためにあえて詳しい時間を決めないで朝から受付をはじめて、といった工夫はしていたんですが、それでも多くの人が集まってくれたというのは驚きました。

Abaddon
▲Abaddonの登録受付の会場。朝早くから列に並ぶエージェントの姿がみられた。

――静岡県浜松で開催される#Obsidianでは前日から受付がはじまりますね。

村井 実は日本はこれまでプライマリー(主会場)しか開催されていないと言う極めて特殊な地域でした。今回の#Obsidianはサテライト(副会場)での展開で、僕たちも初めての体験となるんです。
他の国でのサテライト展開だと、オープニングセレモニーやアフターパーティといった現地でのイベントがなく、集まったエージェントの方々たちで楽しんでもらうという、私たちは何もしなくていい(笑)という感覚でしたが、やはり日本のエージェントの方々はモチベーションが高くて、現時点で沖縄(3000人)を上回る参加者のご登録をいただいます(笑)。

――#Obsidianの会場に浜松が選ばれた理由はなんでしょう。

村井 そうですね。イベント会場を選ぶ理由はいくつかあるんですが、まず浜松が選ばれた理由として大きかったのはFS(ファーストサタデー)の結果が、世界でも圧倒的にすばらしいスコアだったことが大きい理由になりますね。

村井 今回の場合は、サテライト会場を選ぶという段階で浜松が選ばれました。沖縄にいけなかった方々から、「次はいきたい」という強い要望もいただいていたので、日本の真ん中で関東からでも関西からでも日帰りでもいける場所というのもポイントでした。日帰りなら家族に迷惑もかけないし(笑)。
 確かにもう少し離島にしてもよかったかな? と、サテライト開催に向いた場所が他にあったかとも考えますが、今は初のサテライト開催でエージェントの方々がどれくらい集まるのかも未知数ななかで発表して、想像をはるかに超える反響をいただき、急遽チェックインの場所の手配などに追われるという、うれしい悲鳴をあげてます。
 それだけのエージェントが集まる場なので、みなさんで盛り上げて楽しんでいただけたらと思います。

――浜松の会場には、ナイアンティックのメンバーは行かれるんでしょうか。

村井 現在のところ、須賀(須賀健人氏)が行く予定です。もしかしたら僕も行くことになるかもしれません。ご登録いただいた方々がチェックインする場所で、みなさんにお会いできると思います。

――#Abaddonでは村井さんを捕まえて一緒に写真を撮るとMod Cardがもらえましたが、今回もそのような催しは行なう予定ですか。

村井 そうですね。できれば、そういった遊びも企画したいと思っています。

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▲沖縄での一コマ。エージェントとの触れ合いを楽しんでいた。

――12月に#Abbadonが開かれて、2ヶ月で#Obsidian開催となりましたが、今後もこのペースでイベントが開催されるんでしょうか。

村井 これまでの3ヶ月に1回くらいのペースで開催していきたいという思いはあるんですが、基本的にはストーリー展開次第の不定期イベントとなるので、次がいつ開催されるかというのはわかりません。ただ、他にも色々と考えるべきものもあるので、期待していただければまた(XMアノマリーが)起こる可能性は充分にあります(笑)。

――ストーリーといえば、以前、川島氏(Niantic アジア統括本部長)から、2016年くらいに『Ingress』のストーリーは一旦終わるというようなお話がありましたね。

村井 以前はジョンも『Ingress』のエピソード1が終わるといった発言があったと思いますが、現在の『Ingress』は若干変わってきていて、今のところ『Ingress』のストーリーがすぐに終わるということはないと思います。ただ、これもストーリー次第なので、なんともいえません。

◆SNSで流れてくるたくさんのファングッズはいつも楽しみにしてます

―― 『Ingress』で新しいコラボレーションの予定などありますか?

村井 そうですね。今(2016年2月上旬現在)はまだ具体的にはお話できませんが、日本にナイアンティックを作った理由として『Ingress』のパートナーシップを広げたいというひとつの目標があります。そのパートナーシップに関しても良いお話をいただいておりますので、引き続き、みなさまには安定したサービスを提供していける土台はできてきていると感じています。

――現在、絶賛取り組み中ということですね。ちなみに各地の地方自治体からも、興味が寄せられていると思いますが、実現しそうな地域はありますか?

村井 そうですね。先日発表されましたが、埼玉県のさいたま市でイベント開催が予定されています( 参照サイト: Saitamarch*Ingress )。

――地方自治体の方が『Ingress』を活用した取り組みはどういう形になるんでしょう。

村井 そうですね。地方自治体や、その地域に利する活動をしている団体の方々には、ブランドをはじめとする『Ingress』に関する取り決めをかなりゆるく利用できるようにしております。
 どういうことかといいますと、『Ingress』が持つ楽しさとして、ゲーム部分以外に、色々な場所を訪ねて、その場所を知るということがあります。そこに人を集めるということに関しては、我々がやるよりも地方自治体をはじめとした団体の方々に企画、実施していただいたほうが、よりその魅力を伝えられると思います。実際、その地域の魅力を一番知っているのは地域の方ですからね。
 なので、手を上げていただければ『Ingress』を自由に活用していただけるように調整を尽くしますので、地域の魅力を発信するのに役立てていただければと思います。

――『Ingress』は個人店からの問い合わせやファングッズの製作に関する問い合わせもあると思うんですが

村井 グッズ化に関しては個人間で楽しまれる分には自由にやって頂きたいです。我々もSNSでたくさんのグッズを見るのを楽しみにしています。しかしながら、大規模に販売したいといった場合には相談してください。なかなか対応が追いついていませんが努力いたします。

Nianticインタビュー
▲社内にはたくさんの『Ingress』グッズが展示されていた。これだけそろうと壮観!

――最近はエージェントのみなさんも高レベルになってきていますが、今後『Ingress』のサービスをよくするためのアップデートの予定や施策で教えていただけるものはありますか

村井 そうですね。今の『Ingress』がハイレベルなユーザーを満足させ続けられるものなのかという議題があがることは多々あって、次の『Ingress』というものへの検討も同時平行してはじまっています。ただ、僕たちは現在の『Ingress』にもまだまだ楽しみ方があると思っているので、今後もそういった提案を続けていきます。
 ジョンもいつも話していますが、ハイレベルな方たち、特にレベル16のエージェントたちはプロフェッショナルというか神だと。その神の域にいるエージェントがやるべきことというのは、その神の域にいるエージェントたち自身にもぜひ考えていただきたくて、ぜひ私たちと一緒に前に進めるような、ある意味運営目線で『Ingress』に携わっていただけると、我々としてもすごくうれしいです。

――細かいところですが、個人的にはUPV(Unique Portal Visited)やUPC(Unique Portal Captured)が見えたら楽しくなると考えているんですが

村井 それは私も思っていました(笑)。『Ingress』の楽しさのひとつに新しいポータルを発見したり、そこに行くということがありますが、過去1回行ったけど、ここにポータルがあったかどうかというのは忘れてしまいますよね。それがみえれば、昔ハックしたんだっていう発見だったり、逆にハックを忘れてたんだというのがわかっておもしろいですね。
 そういった機能に関しても検討を繰り返していて、ゲームを楽しみながらポータルキーを集めたり、行ったことがないところに行くおもしろさに関連するような開発を今後行なっていってもおもしろいですね。

――今後のナイアンティックの目標を教えていただいてもいいですか。

村井 2016年は『Ingress』をより多くの人に使ってもらうという目的があります。そのためには多くの方に『Ingress』という言葉を知っていただくことと、『Ingress』の楽しさを伝えるということ、そして『Ingress』をもっと楽しんでもらえるようにバックストーリーを知っていただけるようにしたいと考えています。

――今月販売される『Ingress』のライトノベルもその一環でしょうか。

村井 そうですね。2月26日に星海社からライトノベルが発売されます。内容は『Ingress』のバックストーリーというよりはスピンオフのサイドストーリーで、『Ingress』のエージェント目線からのストーリーがSFチックに描かれています。読み物としておもしろいものになっていますので、これを通じて『Ingress』に触れていただいて、ゲームをプレイするきっかけになっていただければと思います。

――公式小説の「イングレス ザ・ナイアンティック・プロジェクト」も読ませていただきましたが、バックストーリーの入口の部分で終わりですよね。

村井 もう、入口の入口ですね。それこそ門に入ってないくらいところじゃないですか(笑)。

――続きが発売される予定はありますか。

村井 アメリカではその後に3部作があるので、翻訳すれば出てくるといったところですね。我々にそのパワーがあるかどうかですが(笑)。

――最近はラジオもはじまりましたし、メディア露出は増えていますね。

村井 はい。露出機会は確実に増えています。そういうきっかけを大事にしながら、まずは『Ingress』を広めることと、以前プレイしていた方たちに思い出して触っていただくことに、力を入れたいです。

番組名:INGRESS SPECIAL:HACK WITH SORAXNIWA
放送日・局:毎週金曜日・銀座、梅田同時放送
毎週金曜日 18時~19時
MC:山本紗江
公式サイト:http://www.soraxniwa.com/radio/2fed289d4297

――最後にエージェントのみなさんに一言お願いします。

村井 『Ingress』はエージェントのみなさまに自然と歩くきっかけを提供できていると思います。楽しんでプレイしていただくだけで結果として健康になっているというのが、我々としてはうれしいところです。
 ぜひ『Ingress』に触れる機会を更に増やしていただき、その世界観を楽しんでいただければと思っております。今後も引き続き、より良いサービスの提供に努めてまいりますので、応援の程よろしくお願いいたします。

――これからあったかくなりますからね(笑)。

村井 そうですね! 歩いていると色んなものに気づいたり、触れられたりする季節になっていくと思いますので、ご家族や友人たちとともにどんどん外に出ていただいて、エージェント活動を楽しんでいただければと思います。よろしくお願いします!

――ありがとうございました。

 村井氏へのインタビューを終えて『Ingress』は、パートナー企業や各地方自治体などと連携した横の広がりだけでなく、その世界観の深さを掘り下げていくという新しいステージに入っていることがわかった。イベントなどでは陣取りゲームというゲーム性から、ついついプレイ内容とその場の勝敗に目がいってしまいがちだが、その勝利が『Ingress』の世界にどう影響しているのか、これを機会にバックストーリーを読んでみると新たな楽しみがみつかるはずだ。
 今回のインタビューでは、2016年中にサービス開始が予定されている『Pokémon GO』に関してもきいてみた。開発は順調、時期がきたらβテストに関しても発表をしたいとのことだった。これについても詳細が発表されたら紹介しよう。

株式会社ナイアンティック 代表取締役社長
村井 説人氏(Murai Setsuto) プロフィール

村井氏

 1997年に成城大学を卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)にてキャリアをスタート、NTT-Xを経たのちNTT レゾナントでブログサービスの立ち上げやRSS検索エンジンの開発に努める。
 2006年にはGMOアドネットワークスに入社し、取締役として会社運営に従事。元 Twitter CEO の Dick Costolo 氏の立ち上げた FeedBurner Inc.とのパートナーシップに基づき、日本市場での RSS 広告ネットワークの構築、およびその市場の活性化に貢献。
 Google入社後は、Google マップのパートナーシップ日本統括部長として、2008 年から 2015 年にかけて提供されたGoogle マップで提供されたすべての新しい機能に従事し、Google マップデータの戦略的パートナーシップを構築するとともに、航空写真、インドアマップ、経路検索、Google Ocean、Google Moon など数多くの新しいサービスを日本市場に送り出す。
 2015年12月に株式会社ナイアンティック 代表取締役社長に就任。Niantic初の現地法人の代表取締役として、日本市場における事業開発ならびにリアル・ワールド・ゲームの普及に努めている。