【市場比較コラム】2019年の映画市場世界トップ3 日本・アメリカ・中国の市場動向

映画 興行収入 推移

日本映画市場は「天気の子」や「アナ雪2」などのヒット作の貢献で前年比17.3%の伸長。中国映画市場は成長速度にかげりがみえず、日本市場の4倍規模に。

前回の記事では、2012~2018年の映画市場について考察し、2019年以降の日本映画市場は成長が難しいとしたが、2019年は大きなヒット作に恵まれたことで、数十年の間、2000億円前後で推移していた長い横ばい状態から一歩抜け出すことに成功した。

これは、一般社団法人日本映画製作者連盟やBox Office Mojoなどが公開されている2019年映画市場に関する資料でわかったことだ。

今回はそれらの最新資料から、前回記事で扱った中国やアメリカなどについても2019年の映画市場がどう推移したのかをみていきたい。

資料によると、2019年の世界映画市場は4兆6611億円となり、2018年の4兆5853億円と比べると1.6%増加した。市場シェアが最も大きいのがアメリカの1兆2221億円、次いで中国の9961億円、3番目が日本の2611億円だった。この上位3か国の順位は2018年とかわっていない。

ここからは上位3か国の映画市場を興行収入、スクリーン数、公開作品数からみていこう。

日本・アメリカ・中国の興行収入推移とチケット価格

映画 興行収入 推移

まず、日本、アメリカ、中国の興行収入をみてみよう。

2019年の日本の年間興行収入は2611億円で、2018年の2225億円と比較すると17.3%伸長し、ここ数十年の間2000億円前後で横ばい推移をしていた国とは思えない年となった。

この興行収入の大きな伸びの要因は「天気の子」「アナと雪の女王2」「アラジン」など、複数の大ヒット作が上映されたことにあるようだ。

「天気の子」は興行収入140億円を記録し、2018年の1位だった「ボヘミアン・ラプソディ」の131億円と比較すると9.2億円の差があり、2位と3位の作品に関しても、前年の同順位の作品に比べて、それぞれ約30億円と増収となっている(興行収入順位の詳細は後述)。

映画館への入場者数は、2019年は1億9491万人(日本映画製作者連盟発表)と2018年の1億6921万人から15.2%増加。日本の人口を1.2億人とすると、ひとりあたり1.5回ほど映画をみている計算だ。

2019年は、大手映画館の一部で映画鑑賞料金が値上げされたにも関わらず、入場者数が増えていることも増収の要因のひとつかもしれない。また、この値上げが関連しているかは不明だが、2019年の日本の平均映画観賞料金は1340円(前年比1.9%増、日本映画製作者連盟調べ)と、2018年の1315円から25円上昇していた。

アメリカの2019年興行収入は1兆2221億円。2018年の1兆2840億円から4.8%減少したが、現在の世界映画市場では最も大きい市場となっている。しかしながら、ここ10年ほどは市場に大きな動きがなく、ほぼ横ばいに推移している状況だ。

アメリカの平均映画観賞料金は9.16ドル(日本円:1026円 前年比2.0%増)と、日本の平均価格と比べて289円ほど安価だ。これはもともとのチケット代が日本よりも安いこともあるが、アメリカでは映画公開日から日数が経つとチケット代が安くなったり、午前と午後で観賞料金が異なったりと、複数の割引システムがあるからだ。

この平均鑑賞料金から映画館の入場者数を推計(興行収入÷平均映画観賞料金)すると2019年は11億9113万人(前年比で6.7%減)となったが、アメリカの人口が3.2億人であることを考えると、この数字はひとりあたり3~4回映画をみていることになり、アメリカでは映画が非常に人気が高い娯楽だということが想像できる。

もちろん、国民全員が映画をみにいくとは考えにくいため、映画好きな人が多く、何度も映画館に足を運んでいると思われるが、その映画好きたちに鑑賞回数を増やしてもらうのも難しそうなことから、アメリカ映画市場が長年停滞しているのは、市場が成熟しているからとも考えられる。

次に中国をみてみると、年間興行収入は2019年に9961億円となり、2018年の9300億円から7.1%増加して、数年以内に1兆円を超えそうな勢いで成長を続けている。

中国は映画鑑賞料金も日本やアメリカと比べると圧倒的に安価で、2019年の平均映画観賞料金は37元(日本円:592円 前年比14.7%増)だった。

中国のチケットがここまで安い理由は、時間帯や座席位置による割引など、映画館独自のサービスが充実しているほか、中国大手企業アリババが運営する映画チケットプラットフォーム「淘宝电影票(英語名:Taopiaopiao)」などでチケットが安く購入できることもある。

この平均映画鑑賞料金と興行収入から、映画館の入場者数を推計すると、2019年は16億8260万人となり、数字をみると他の国を圧倒しているが、中国の人口が約13.9億人であることを考えると、国民ひとりあたりの鑑賞回数は1.2回と日本よりも少ない数だ。アメリカのひとりあたりの鑑賞回数3~4回までは望めないにしても、映画館の入場者数やリピーターを増やすというのが中国の課題といえるだろう。

中国のスクリーン数が前年比1万増の7万幕弱に 日本と比べると約20倍

映画館 スクリーン 推移

続いて3か国のスクリーン数の推移について紹介しよう。

2019年のスクリーン数をみると、日本は3583幕(前年比22増)、アメリカは40613幕(同300増)、中国は69787幕(同9708増)と、どの国も前年より増加しているが、中でも圧倒的にスクリーン数を伸ばしたのは中国だった。

日本 スクリーン 2019

日本の22幕増加に関しては、東京・池袋の「グランドシネマサンシャイン」をはじめとする大型シネコンの開業や、小規模なミニシアター「CINE QUINTO」が渋谷で開業するなど、2019年は大小様々な映画館がオープンしている印象があったが、思ったよりも伸びていないような印象を受けた。これは、建物の老朽化などから、閉館となった映画館があったのが理由で、日本映画の成長を支えてきた有楽町スバル座など、老舗映画館も2019年に閉館している。

国内のスクリーンの地域分布は、東京が最も多くて392幕、続いて愛知の281幕、千葉の220幕の順だった。東京に映画館が集中しているようなイメージを受けるが、10万人あたりのスクリーン数を出すと、日本の総スクリーン数(3583幕)と総人口(1.2億人)で2.8幕、東京のスクリーン数(392幕)と人口(1394万人)で同様の数字を出しても2.8幕となることから、地域の映画館事情に関しては思ったほど偏っていないようだ。

2020年は、大手映画館チェーンの競争激化などから、すでに複数の大型シネコンのオープンが発表されているほか、独自企画の作品を上映する小劇場の開業も予定されている。しかし、近年は家庭用VODサービスの普及が進んでいるなど、映画館は厳しい時代といわれていることから、スクリーン数の増減予想は難しくなっている。

アメリカ スクリーン 2019

アメリカの2019年のスクリーン数は、2018年から300幕増の40613幕だった。

国内の総スクリーン数のシェアは、大手チェーンであるRegal EntertainmentとAMC Entertainment Inc.、Cinemark USA, Inc、Cineplex Entertainmentが運営する映画館が、総スクリーン数の約60%を占めていて、各社の提携施設内に複数のスクリーンを設置するシネコンスタイルの映画館が主流だ。シネコンのなかには20幕以上のスクリーンを設置している巨大映画館も複数あり、それらはメガプレックスといわれている。

アメリカの10万人あたりのスクリーン数をみてみると日本の約4倍弱の12.3幕。このことから日本よりも映画館が身近にあることが想像でき、入場者数(推定12億人)も多いことから、映画が娯楽として人気があり定着していると考えられる。

中国 スクリーン 2019

次に中国のスクリーン数をみると、2019年は、前年から9700幕増えて69787幕となった。この数字は日本の約20倍、アメリカと比べても1.7倍と、他の国と比較しても圧倒的に大きな数となっている。

中国のスクリーン数が増え続けているのは、中国各地で盛んに行なわれている中小都市の開発にある。中国政府は2016年~2020年にかけて都市や文化産業を発展させる「第十三次国民経済・社会発展五ヵ年計画(以下、第十三次五ヵ年計画)」を発表しており、現在も都市開発をはじめ、映像制作や出版、アニメなどの文化産業の強化が行なわれている。その一環として映画館も建設されていることから、映画館の数が急激に増え続けているようだ。

中国(人口13.9億人)の10万人あたりのスクリーン数をみると5幕となり、日本の2倍弱となった。映画をみやすい環境として、充実してきているようだ。

国策の「第十三次五ヵ年計画」もあるため、2020年も中国では都市開発計画が続くが、それで映画館の建設が続くなら、まだまだスクリーン数は増えることになるだろう。

3か国の中で日本が最も多く作品を公開

映画 公開 本数 2019

最後に、日本、アメリカ、中国の2019年に公開された映画の本数と、各国の興行収入の上位作品をみてみよう。

2019年の映画公開本数は、日本は1278本(前年比86増)、アメリカは873本(同133増)、中国は1271本(同369増)と、3か国とも前年より増えていた。3か国の中では、日本が最も公開本数が多く、前年からの増加数は中国が最も多いという結果になった。

日本

日本の2019年興行収入第1位は、7月に公開されたアニメ映画「天気の子」だった。全国359館で公開された同作は、2016年に興行収入1位となった映画「君の名は。」を手掛けた新海誠監督の最新作で、公開から半年以上も続くロングラン上映となった。

2位には「アナと雪の女王2」、3位には実写映画「アラジン」が入り、「アナと雪の女王2」は前作の「アナと雪の女王」が日本で大ヒットしたことから、公開前から話題となり、11月公開だったにも関わらず興行収入2位となっている。

日本の2019年の上位10作品は、邦画(国産映画)が4作品、アニメ映画が6作品だった。

1位 2位 3位
天気の子 天気の子
(興行収入:140.2億円)
アナ雪2 アナと雪の女王2
(興行収入:127.9億円)
アラジン アラジン
(興行収入:121.6億円)

(C)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

4位:トイ・ストーリー4(興行収入:100.9億円)
5位:名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)(興行収入:93.7億円)
6位:ライオン・キング(興行収入:66.7億円)
7位:ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生(興行収入:65.7億円)
8位:アベンジャーズ/エンドゲーム(興行収入:61.3億円)
9位:キングダム(興行収入:57.3億円)
10位:劇場版「ONE PIECE STAMPEDE」(興行収入:55.5億円)

アメリカ

1位には「アベンジャーズ」シリーズ完結作となる「アベンジャーズ エンドゲーム」が大きな反響を呼び、興行収入927億円を記録した。次いで、2位は「ライオン・キング」の587.1億円、3位の「トイ・ストーリー4」は468.7億円だった。

アメリカのランキングは、上位10作品のうち、7作品が実写映画で、7作品がディズニー作品だった。ディズニー作品以外では、7位のソニーピクチャーズの「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」が最上位で、アメリカでのディズニー人気の高さがうかがえる結果となった。

1位 2位 3位
アベンジャーズ/エンドゲーム アベンジャーズ/エンドゲーム
 (興行収入:927億円)
ライオン・キング 実写 2019 ライオン・キング
 (興行収入:587.1億円)
トイ・ストーリー4 ピクサー トイ・ストーリー4
 (興行収入:468.7億円)
 
(C)2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

4位:アナと雪の女王2(興行収入:464.5億円)
5位:キャプテン・マーベル(興行収入:460.9億円)
6位:スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(興行収入:421.9億円)
7位:スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(興行収入:427.7億円)
8位:アラジン(興行収入:384億円)
9位:ジョーカー(興行収入:360.4億円)
10位:IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。(興行収入:228.5億円)

中国

中国では上位10作品中、8作品が国産映画、9作品が実写映画だった。

1位を獲得した「哪吒之魔童降世」は、少年神ナタクを主人公にしたファンタジーアニメーション映画で、中国国内の歴代アニメ映画で興行収入1位だった「ズートピア(2016年公開)」の240億円を大きく上回り、764億円超の新記録となった。

2位の「流浪地球」はSF作家の劉慈欣氏による同名小説を映画化したもので、公開から1月足らずで興行収入736億円を記録した。3位の「アベンジャーズ エンドゲーム」は国産映画が強い中国で、興行収入651億円の大ヒットとなった。

中国では、海外映画に年間公開本数の制限や検閲があることから、国産映画の上映が圧倒的に多く、宣伝にも力を入れることから話題にもなりやすいようだ。

1位 2位 3位
哪吒之魔童降世哪吒之魔童降世
(興行収入:764.7億円)
流浪地球 流浪地球
(興行収入:715.7億円)
アベンジャーズ/エンドゲームアベンジャーズ/エンドゲーム(興行収入:651.7億円)

4位:我和我的祖国(英題:My People, My Country)(興行収入:487.6億円)
5位:中国机长(英題:The Captain)(興行収入:447億円)
6位:疯狂的外星人(英題:Crazy Alien)(興行収入:338.3億円)
7位:ペガサス/飛馳人生(興行収入:263.9億円)
8位:烈火英雄(英題:The Bravest)(興行収入:259.7億円)
9位:少年的你(英題:Better Days)(興行収入:237.4億円)
10位:ワイルド・スピード/スーパーコンボ(興行収入:219.7億円)

まとめ

日本の映画市場は2018年までほぼ横ばいに推移していたが、2019年は複数の大ヒット作に恵まれ、跳ねるように増加した年となった。

この勢いで2020年も伸び続けたいところだが、2019年と同等かそれ以上のヒット作がなければ、市場をキープすることも難しいだろう。

世界で最も大きいアメリカ市場は、国内での映画人気が高いことから好調に推移すると思われるが、映画館の年間入場者数がすでに高いことから、ユーザーを劇的に増やす材料が乏しく、このまま横ばいで推移すると思われる。

中国映画市場は、都市開発にともなった映画館の増加でスクリーン数が大きく伸び、作品の公開本数も増加している。2020年も映画館が増設され、さらに映画をみる環境は整っていくが、国民ひとりあたりの映画鑑賞数が1.2回と低く、映画文化を浸透させて来場者を増加させることが課題のようだ。

そのためには、公開制限が厳しい海外映画ではなく、話題にもなりやすい国産映画でヒット作がうまれれば、興行収入が急伸するのは間違いない。それで、映画が娯楽として定着していけば、近い将来アメリカを追い抜き、世界で最も大きい映画市場になる可能性もあるはずだ。

関連サイト

以下のサイト及び資料、発表を参考に制作しました。
(アメリカ:1ドル112円、中国:1元16円で計算)

一般社団法人日本映画製作者連盟
Box Office Mojo(海外サイト:英語)
National Association of Theatre Owners(海外サイト:英語)
中華人民共和国国家新聞出版広電総局(海外サイト:中国語)
China Movie Data Information Network(海外サイト:中国語)
中国电影网(海外サイト:中国語)
中国电影发行放映协会(海外サイト:中国語)

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