【開発者インタビュー】最新『パズルボブル』シリーズを生み出す男の脳内を覗く!【タイトー西脇剛志氏 前編】

 1994年の登場以来、長くゲームファンに愛され続けてきたパズルゲーム『パズルボブル』。スマートフォン向けにリファインされてヒットした『LINE パズルボブル』に続き、今年リリースされた最新作『バブルンマーチ』も、早々に10万ダウンロードを突破している、息の長いシリーズだ。
 このスマートフォン向け『パズルボブル』シリーズを生み出した、タイトーのパズルボブル統括プロデューサー西脇剛志氏にインタビュー。長くシリーズに関わってきた視点から、シリーズとパズルゲームの現在について聞いた。

 前編となる今回は、『バブルンマーチ』と、前作『LINE パズルボブル』の制作の実際について聞いた。
 タイトーパズルの匠は、こんな狙いで『パズルボブル』シリーズをヒットさせていた!

<インタビュー後編はこちら>

タイトー西脇氏

西脇剛志
 株式会社タイトー
 ON!AIR事業部
 『パズルボブル』シリーズ 統括プロデューサー
 (敬称略)

 

◆「パズルは生き物」

――まずは『バブルンマーチ』10万ダウンロード達成、おめでとうございます。ここまでの成果としては、思う通りに来ていますか。

西脇 10万はひとつの区切りかな、とは思っています。今回はサイバーエージェントさんと組んでAmebaのプラットフォーム上で出させていただいていますが、かなりご尽力をいただいていますので、10万達成もサイバーエージェントさんのご協力が大きいです。出だしはまずまずいいスタートが切れたかな、と思っています。
 とは言ってもまだ10万。目標は当然もっと高いところにありますので、これからさらにアップデートして、ひとりでも多くのお客さまに楽しんでいただきたいと思っています。

――パズルゲームは、最初に大きく広まるよりは、長く楽しまれるものだと思いますので、『バブルンマーチ』もそういう滑り出しになりそうですね。

西脇 おっしゃる通り、カードゲームなどは最初の集客を一気にやると思いますが、パズルゲームの場合は、商品のライフサイクルも長いですし、少しずつ集めていきます。パズルは生き物なので、お客さまに遊んでいただいて、プレイ状況を見ていろいろ調整して良くしていく、という運営が一番向いていると思っています。息の長いタイトル、ブランドにしていきたいですね。

――パズルゲームは生き物、というのはちょっと意外です。最初にルールを策定したら、むしろ運用で変わっていくことが少ないのではないかと思っていたんですが、生き物というのはどういう意味合いなんでしょうか。

西脇 リリースをする前は、こちらが設計した難易度、想定するお客さまのクリア速度などがあるんですが、実際にやってみると、なかなかそうはならないんです。パズルは抑揚が必要で、ただ単に難しくしていくと、絶対に諦められて、離脱されてしまう。難易度や気持ちの抑揚の波をしっかりと作っていくのを、リリースしてお客さまの動きを見ながら、常に調整をしながら続けていくんです。『バブルンマーチ』も、一昨年リリースさせていただいた『LINE パズルボブル』も、常にバランスの調整をしながら運営しています。

バブルンマーチ
▲シリーズに新たな風を吹き込み、10万DLを突破した『バブルンマーチ』

――だんだん難しくなってピークが来て、その後にはちょっと易しめになる、という感じですね。

西脇 そうです。パズルなので、当然難しい面をクリアしたときの気持ちよさ、達成感はあるんですけれど、気持ちの波が必要なので、次は簡単な面で気持よく遊んでいただいて、だんだんまた難しくなって、という波の作りかたが、パズルゲームを長く遊んでいただくための肝かな、と思っています。

――それは、ある程度パズルゲームを数作ってみないと分からないノウハウですね。

西脇 数を作って、ある程度の期間、運用しないと分かりませんね。僕らもそれが本当に大事だと思ったのは『LINE パズルボブル』をやってからです。

――とはいえ、西脇さんは『パズルボブル』シリーズには、フィーチャーフォン時代から関わっておられるそうですから、歴としては長いですよね。

西脇 ただ、フリートゥプレイ(基本プレイ無料)で作ったのは『LINE パズルボブル』が初めてですので。

――フリートゥプレイで変わる部分はかなりあるわけですか。

西脇 大きいですね。売り切りタイプですと、リリース以降はお客さまの動向も分からないですし、言葉は悪いですが、手を離れてしまいます。でもフリートゥプレイの場合は、実際のお客さまの動きも数字で分かりますし、そこを見て運営で変えていかないと、すぐにお客さまは離脱してしまいます。僕も一昨年に始めてから、パズルゲームもしっかり調整していかないとダメなんだな、と勉強になりました。

タイトー西脇氏

◆『バブルンマーチ』はゼロから考えた

――長く『パズルボブル』シリーズに関わられてきた中で、『バブルンマーチ』はこれまでとルールが大きく違いますね。これは冒険だったと思いますが。

西脇 僕も何作かを作ってきて思うのが、『パズルボブル』はカジュアルではあるものの、意外と難しいゲームなんですよ。バブルを撃って、同じ色を3つくっつけて消していくんですけれど、例えばミスショットをすると、取り返すのにまた2つ撃つ必要があるので、リスクが大きい。それが面白かったりもするんですけれど、お客さまのスキルに頼る部分が結構大きいんです。そうすると、楽しいけれど、誰でも手軽で気軽、と言い切れない面もあった。
 なので、シリーズ20周年で新しい『パズルボブル』シリーズを作るのであれば、バブルというモチーフは踏襲しつつ、もう一度イチから考えて、さらに誰でも手軽に楽しめる、本当にカジュアルなパズルゲームを作りたいと思ったんです。それで『バブルンマーチ』は、あえてルールを変えました。決めていたのは「バブルを使ったマッチ3」ということだけ。操作にはこだわらずに、ゼロから考えました。

――まず『パズルボブル』シリーズなのに撃たない、というのはビックリしましたね。

西脇 社内でも「これで本当に『パズルボブル』シリーズと言っちゃっていいの?」というのは結構あったんですけれど(笑)。同じものを作ってもしょうがないですし、それなら『パズルボブル2』『3』でもいいわけです。今回はシリーズだけれど、違う名前で、もうひとつブランドを立ち上げたいと思っていたので、決めてからは特に悩みや葛藤はなかったですね。

――実は『バブルンマーチ』には、ひとつのゲーム内にいろいろなルールが入っていますよね。ステージによって、ゲーム性も相当違う。その辺りも、実験的に狙った部分でしょうか。

西脇 そうですね。手軽に楽しめつつも、ステージを進める中で、お客さまに新しい遊び、新しい体験をご提供したいなと考えました。結構難しいギミックがあったりもしますけれど、今回の『バブルンマーチ』はすべて社内チームでいろいろアイデアを出し合って作っています。まず社内プログラマーが作ってみて、採用したものもありますし、ダメだったものもある、といった感じです。

バブルンマーチ
▲トロッコやパネルなど、クリア条件もさまざま。

――『バブルンマーチ』のユーザー層については、どういった層の人たちと捉えていますか。

西脇 このプロジェクトを立ち上げるときに、30代後半から40代の女性を狙いたいな、と思っていたんですね。この層はもともとカジュアルゲームやパズルゲームのメインターゲットだと思うので、コンセプト、グラフィックのテイストや世界観、ストーリーもそこを狙って作っています。実際に遊んでいただいているお客さまも、ズレていないと思います。
 サイバーエージェントさんと組ませていただいたのも、そのターゲットのお客さまに『バブルンマーチ』を提供したいという狙いからです。お声がけして、サイバーエージェントさんから『バブルンマーチ』に非常に高い評価をいただけたのが大きかったですね。プラットフォームと組むということは、僕らだけではできないことができるわけですから、ターゲットとしているお客さまを集める集客力があって、かつゲームに対する高い評価をいただけたことで、一緒にやれることになりました。

――前作『LINE パズルボブル』ではLINEと組まれて、今回はAmebaと組まれたわけですが、両者それぞれの違いはありましたか。

西脇 大きなプラットフォームというところでは変わらないんですが、一番の違いはソーシャルグラフの違いです。LINEはリアルなお友達同士がつながるSNSで、Amebaはどちらかというとバーチャルグラフ、つまりSNSの中だけのつながりが多いので、その点はGREEさんやMobageさんに近いところがあります。基本的なパズルは変わらないんですが、ソーシャルグラフが違うならお友達との絡ませかたを変えなければ、ということで『LINE パズルボブル』と『バブルンマーチ』で変えています。

――ゲームの競争性なりソーシャル性なりも、それで変わるわけですね。

西脇 リアルなお友達であれば、『LINE パズルボブル』をはじめ、LINEゲームの多くがそうであるように、ランキングがメインになることが多いと思います。あの人に負けない、という遊びかたですね。一方、バーチャルグラフであれば、ランキングはあってもそこまで濃くなく、競い合いよりは一緒に戦う協力や共闘のほうが合っていると思います。なので、ゲーム性としてはそっちに振っていこうと考えました。基本ルールは変えませんが、それを使ってどういう楽しみかたをさせるか、という点では、ソーシャルグラフが変わってくると、どう振るかは変わってきます。

LINEパズルボブル
▲シリーズ初のF2Pゲーム『LINE パズルボブル』

◆「コンティニューしてもらえるのが一番嬉しい」

――『バブルンマーチ』では、『LINE パズルボブル』にはなかった、「きぐるみ」などの収集要素が追加されました。この狙いはどんなところでしょうか。

西脇 『バブルンマーチ』は、まずどなたにでも楽しんでいただきたい、というのがあります。そのために、お客さまのプレイのサポート役を入れるのはアリだろうな、ということで「きぐるみ」の要素を入れました。それと、ターゲット層が女性ですので、かわいいものや気に入ったものを集めたいというニーズもあるな、と考えたのもあります。その両方を満たすために入れた要素ですね。スキルがメインになる『LINE パズルボブル』には入れなかった要素です。

――これによって、幅が広がったな、という印象があります。『LINE パズルボブル』が、ゲームとしてはとてもソリッドでワンルールだったことを考えると、『バブルンマーチ』のほうが今風で遊びの幅があるんだな、と思いました。

西脇 幅は『バブルンマーチ』のほうが持たせやすいかな、とは思っています。いまリリースさせていただいているのは、まだ基本的な楽しませかたの部分だけですので、今後はいろいろなイベントや、協力・共闘といったことも含めて、幅を広げていきたいな、と考えています。

――きぐるみをセットするためのミニルン(編注:増やすと、きぐるみのスキルが多数持てるようになる)は、ステージを進めていくと、最初は課金部分でもあるバブルビーでしか買えなかったものが、ゲーム内通貨のメダルでも買えるようになりますよね。あれは、ずいぶんプレイヤーに優しいな、と思ったんですが。

タイトー西脇氏

西脇 マネタイズについては、バランスかな、と思いますね。ターゲット層の問題もあるので、あまりガチガチにせず、ある程度長くプレイしていただければ、枠も広げられてきぐるみも買えるようにしたいな、と考えました。

――パズルゲームは、マネタイズ面では、ものすごく強いタイプのゲームではないと思います。『バブルンマーチ』の場合、『LINE パズルボブル』よりは強そうではありますが、どのようにお考えですか。

西脇 要素を多くしてはいます。ただ、課金しなければ難しくて遊べなくなる、というバランスにはしていません。

――確かに、課金アイテムで解決するよりは、努力やテクニックで解決する方が気持ち良いバランスになっている気がしますね。

西脇 本来、パズルゲームのあり方は、そうだと思います。そもそもパズルゲームでハイARPU(編注:一人あたりの平均売上金額が高い状態)を狙うべきではないと思っているので。気持よく遊んでいただいて、その中で、たまたまクリアできなかったステージが課金することでクリアできた、というさらなる気持ちよさが出していければいいかな、と。何千円使って何かを集めないとクリアできない、というのは、パズルゲームのマネタイズとしては、そもそも違うと思います。僕が一番嬉しいのは、コンティニューでお金を使っていただけることです。

――『バブルンマーチ』の場合も、そういったプレイヤーが多いんでしょうか。

西脇 多いですね。そこは『LINE パズルボブル』から変わっていません。設計する上で、お金を使っていただけるポイントとしては、コンティニューが一番いいのではないかな、と思っています。

――もっと遊びたい、というストレートな欲求ですね。

西脇 僕らがゲームセンターで100円を入れて、ゲームオーバーで悔しいからもう一回入れていたような、ゲームとして一番自然なマネタイズの仕方かな、と思いますね。『LINE パズルボブル』はおかげさまでそれを確立できましたし、それを進化させたのが今回の『バブルンマーチ』です。きぐるみは、あくまでもサポートとして置いているものですので。

――『バブルンマーチ』『LINE パズルボブル』の今後について、すでに見えているところをお聞きできればと思うんですが。

西脇 『バブルンマーチ』では、先ほどお話しした通り、まずはイベントを盛り込んでいこうと思っています。このイベントの中で、協力や共闘を打ち出していくことになりますね。別のゲームですが、もともとGREEさんで『ポップタワーforGREE』というパズルを使ったソーシャルゲームをやらせていただいていて、こちらで打ち出した協力・共闘のイベントが成功事例となっています。パズルを使ってお友達同士でひとつの目標に向かう遊びかたはすごく面白いので、『バブルンマーチ』でも早めに投入していきたいなと思っています。
 『LINE パズルボブル』は、リリースからだいぶ時間も立ってはいますが、年末にボスバトルの要素を入れさせていただきました。おかげさまで息の長いタイトルになっていますので、いまは次の企画を練っているところです。

 


 前編はここまで。後編では、タイトーパズルの匠である西脇さんが考える“ヒットするパズル”の秘密について聞いた。
 第一線にいるからこそ見える、本当のパズルゲームの魅力とは!? どうぞお楽しみに!

(2015年3月収録)

<インタビュー後編はこちら>