1994年の登場以来、長くゲームファンに愛され続けてきたパズルゲーム『パズルボブル』。スマートフォン向けにリファインされてヒットした『LINE パズルボブル』に続き、今年リリースされた最新作『バブルンマーチ』も、早々に10万ダウンロードを突破している、息の長いシリーズだ。
このスマートフォン向け『パズルボブル』シリーズを生み出した、タイトーのパズルボブル統括プロデューサー西脇剛志氏にインタビュー。長くシリーズに関わってきた視点から、シリーズとパズルゲームの現在について聞いた。
後編となる今回は、タイトーパズルの匠・西脇氏が考える“ヒットするパズル”と、最新『パズルボブル』シリーズの強みについて聞いた。プロの目から見た“ヒットするパズル”の条件とは?
西脇剛志
株式会社タイトー
ON!AIR事業部
『パズルボブル』シリーズ 統括プロデューサー
(敬称略)
◆「パズルは生き物」
――『パズルボブル』シリーズのように、大きな変化なく、ひとつのタイトルが20年続くのは、珍しいことではないかと思います。この『パズルボブル』シリーズについて、堅調なのか、変革期か、あるいは上昇期か、どのように捉えられていますか。
西脇 『パズルボブル』は僕が入社した次の年の20年以上前のタイトルですから、おっしゃる通り、これほど息が長く、大きく形を変えなくても存在できるパズルゲームはなかなかないですね。ただ、これまではそれで良かったのかと思いますが、いまフリートゥプレイで遊びかたのスタイルが変わってきている中で、常に変革していかなければいけない時期かな、と思っています。そのひとつの形が『LINE パズルボブル』ですし、さらに発展させたのが『バブルンマーチ』です。遊ぶデバイスも変わってくるし、課金の仕方も変わってくるし、来年再来年にはまた変わってくると思うので、常に変革は意識しなければいけないと思いますね。
――実際、大きく見た目は変わっていないとはいえ、『LINE パズルボブル』の“タッチした方向にそのままバブルを投げる”という操作は、ゲーム性としては結構違うものがありますね。
西脇 手数制にしている点や、ステージクリア型にしている点など、『LINE パズルボブル』は設計としてはオリジナルからかなり変えています。おっしゃった点についても、いままでの『パズルボブル』では必ず撃つところは砲台だったんですが、『LINE パズルボブル』ではやめて、バブルンがそのまま投げるというルールを取り入れています。『パズルボブル』の良いところは当然踏襲しつつ、時代やお客さまのニーズに合わせて常に変革させていくべきだと思います。
――その先に、さらに大きく変えたのが『バブルンマーチ』ですね。あれは、西脇さんにとっては、実験と言っていいタイトルなんでしょうか。
西脇 実験というよりは、『パズルボブル』の可能性のひとつという捉えかたです。
▲実は細部にルール変更が加えられている『LINE パズルボブル』。
――ちなみに、西脇さんは他社のパズルゲームを研究としてプレイされることはありますか?
西脇 ひと通りはしていますね。
――他社で気になるゲームなどはありますか?。
西脇 やはり、Kingさんのゲームは上手いですよ。『キャンディークラッシュ』シリーズは飛び抜けていると思います。Kingさんは『キャンディークラッシュ(Candy Crush Saga)』が出る前、最初の『バブルウィッチ』(編注:現在リリースされているものの前身)は「これ、難しいなあ」と思うところがありましたが、『キャンディークラッシュ』以降は、難しい中にもすごくいいバランスを取っているパズルゲームですね。あと、タイトルを出していくスピード感が早いメーカーさんも、一歩先を行かれているなあ、という気がします。
――パズルゲームの匠の目から見て、他社タイトルのパズルゲームで優れていると思う点はどんなところでしょうか。タッチ感なのか、難易度調整なのか、あるいは別の何かなのか。
西脇 全部、でしょうね。パズルゲームはシンプルなので、何かが飛び抜けているよりは、全体のバランスが大事ではないかと思います。特にスマートフォンになってからは、手触り感、タッチの反応も含めて、全体のバランスが取れているタイトルが売れています。逆に、シンプルだからこそ、ダメなところが目につきやすい。当然、ゲームによっていろいろですが。
▲Kingの最新作『キャンディークラッシュソーダ』。
◆目指したのは“思考型のステージクリア”
――『パズルボブル』が他のパズルゲームとは違う点は、何でしょうか。
西脇 最近のゲームはステージの追加スピードも早いですし、ギミックもいろいろバリエーションがあります。ただ、そういうバランスと、僕が『パズルボブル』でやっていることは、ちょっと違うかな、という気がしています。
細かい話なんですが、他のパズルゲームでは、レイアウトの形は決まっているものの、たぶん色はかなりランダムに出てきているものが多いと思います。『パズルボブル』の場合は、配置も色もすべて決めているパズルなんです。なので、どこからどう攻めるかで、パズルとしての戦略を組み立てることができます。そういう理論的なところからキッチリと作る楽しませかた、ものづくりの仕方が『パズルボブル』の作り方だと思っています。
――知恵の輪に近い作りですね。
西脇 より頭を使う遊びですね。今回『LINE パズルボブル』で目指したのは“思考型のステージクリア”なんです。ということは、僕らの中では、ランダム配置はあり得なかった。実際はステージを作る上ではランダム配置のほうが楽なこともあるんですけれど(笑)。
――もともとの『パズルボブル』はランダム寄りでしたからね。
西脇 もともとはそうですね。ランダムはランダムで、運要素が強くなることならではの面白さがあります。運とスキルで、どこでバランスを取るかの違いだと思います。なので、ランダム型と思考型で、目指すところは違ってきますね。
――そこが最近の『パズルボブル』、特に『LINE パズルボブル』以降のシリーズ作の面白みになっていくのかもしれませんね。
西脇 僕らが目指していくのは、そういう面白みになっていくと思います。ただそれで難しいだけではなくて、これも細かい話ですが、手球に出てくるバブルもちゃんとコントロールして、当てられないところにあるバブルは出てきません。そういう点もロジックとして設定しています。
――加えて『LINE パズルボブル』では、手球を次のものと交換できる仕組みもありますね。
西脇 単に知恵の輪でガッチリ組んだ難しさだけではなくて、優しくサポートする仕組みも同時に入れている感じですね。その丁寧さ、作り込みにおいては、他社のパズルゲームには決して負けないつもりでいます。
――現状の『パズルボブル』シリーズには、“丁寧”という言葉は、とてもぴったり来る気がしますね。
西脇 そういう意味では、ゲームを作る上で、職人気質というのは、必要な部分ではあると思います。もちろんそれだけではない時代にはなったんですけれど、こだわらなければいけない部分、手を抜いてはいけない部分は、絶対にあると思っていますね。
――これも意地悪な質問ですが、一方で、パズルにカード収集やRPGのスタイルを取り入れてヒットしているタイトルもあります。ああいう指向は、西脇さんの中にはあまりないんでしょうか。
西脇 いまのところ作りたいと思ったことはないですね。パズルRPGのジャンルも確立されていますし、ゲームデザインとしてもアリですし、それを否定するところもまったくないんですけれど、僕自身は、もっとしっかりとパズルをフィーチャーしたものを作りたいです。そういう意味で『バブルンマーチ』のきぐるみはあくまでサポートで、決してメインになるものではないんです。
▲遊び手のスキルで解決できる喜びを目指す『パズルボブル』シリーズ。
◆タイトーにいるからこそ、できることを
――西脇さんから見て、ヒットするパズルゲームと、それが難しいパズルゲームを分けるポイントは、どこにあると思いますか。
西脇 同じ答えになってしまいますが、やはりパズルはシンプルなので、ダメなところが本当に見えてしまうところです。売れているパズルゲームは、遊んでいて、すべてにおいて高いレベルでバランスが取れています。そのうえで、何かオリジナリティの高さ、初めての体験をさせてくれると、強いですよね。
グラフィックはシンプルで演出なんてほぼなくても「これは面白い、やられた」と思わされたゲームもありますね。
――やっぱり「やられた」とも思うんですね(笑)。
西脇 やられたと感じることもあります(笑)。
――技術的なことよりは、遊ばせ方に、という感じでしょうか。
西脇 タッチデバイスに合っていて、空き時間にサッとできて、でもやりごたえがある、頭も使った感がある、いい点まで行くと達成感がある。パズルゲームのツボを抑えつつ、エッジが立っているものは売れるだろうな、と思いますし、実際結構売れていましたね。
――タッチデバイスという話では、スマートフォンでゲームをするというのは、体験としていままでのゲーム機と若干違うところがあると思いますが、西脇さんはスマートフォンのパズルゲームの長所はどんなところだと思いますか。
西脇 やはり、常に手元にあることです。逆に、いつでも遊べるから、起動させる回数は多くても、一回のプレイ時間は意外に短くなると思います。それに合ったプレイスタイルを提供することが、スマートフォンで遊ぶパズルゲームの作りかたになると思いますね。そういう意味で、ステージクリア型や、LINEゲームに多くある1分間スコアアタックは、いまのスマートフォンのパズルユーザーの皆さんに向いているのかな、という気がします。
それと、常にプレイできるからこそ、パズルゲームにも、レベルゲームの要素が戻ってくるのかな、という気もしています。家庭用のゲームだと、パズルでレベル上げをしてもらうのはなかなか難しい。でもスマートフォンで、いつでもどこでもパッとできる遊ばせかたであれば、パズルゲームにもレベルアップの要素をうまく持たせやすくなっていると思いますね。
――では最後に、西脇さんが次に作りたい、ひょっとしたらもう作っているゲームについて、どんなものかお聞きできますか。
西脇 可能性はいろいろなジャンル、いろいろなカテゴリーに感じていますし、作ってみたいものもいろいろあります。僕はタイトーに新人で入って22年目になりますが、タイトーにはいいIP(知的財産)がいっぱいあるんです。そのひとつの『パズルボブル』をやらせていただいたわけですが、タイトーのIPを今の時代、今のスマートフォン、今のお客さまの遊びかた、あるいはニーズに合わせると、どういうものが作れるかを、もっとやっていきたいな、と思っています。いまの時代の『インベーダー』はどうなるか、『エレベーターアクション』はどうなるかというのは、僕がいまタイトーにいるからこそできるので、これからはそこをもっと考えていきたいです。それをできる数少ない立場にいさせていただいている人間として、目指してみたいですね。懐古趣味やレトロ趣味ではないですよ(笑)。
――面白いですね。パズルにこだわる職人気質、というのとは少し違うんですね。
西脇 個人的に好きですし、パズルも当然まだまだ作っていきたいですけれどね。でも別にパズルしか作らないつもりではないです。パズルへの思いやプライドはありますが、そこだけに固執していきたいくはないと思いますね。
(2015年3月収録)
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