【開発者インタビュー】映画のワーナーがなぜゲームを作るのか? 『グレムリンうぉーず』に見る映画とゲームの関係(読者プレゼントあり)

ワーナーエンターテイメントといえば、映画の世界ではハリウッドの大メジャーとしておなじみの存在。そんなワーナーエンターテイメントの日本ブランチが、オリジナルのゲームを制作、展開し始めたのをご存知だろうか。
ワーナーエンターテイメントジャパンはいま、豊富な映画の財産をもとに、完全新作のゲームを国内オリジナルで制作する事業をスタートしている。その一例が、スピルバーグ製作の大ヒット映画『グレムリン』をゲーム化したスマートフォンゲーム『はちゃめちゃ!グレムリンうぉーず』(以下『グレムリンうぉーず』)だ。

今回は、ワーナーエンターテイメントジャパンの宇野晃司氏に、ワーナージャパンがゲームに進出したいきさつと、新作『グレムリンうぉーず』の内幕について伺った。同作を開発したマトリックスの竹内氏にもご同席いただき、ゲーム内容にも突っ込んでインタビュー。
ワーナージャパンならではのゲームの形とは?

グレムリンうぉーず

グレムリンうぉーず

宇野晃司(写真右)
ワーナー エンターテイメント ジャパン株式会社
『グレムリンうぉーず』プロデューサー

竹内渉(写真左)
株式会社マトリックス
コンテンツ事業部 ディレクター

 (敬称略)

◆ワーナージャパンがゲームを作る理由

――ワーナーエンターテイメントジャパン(以下、ワーナージャパン)がオリジナルのゲーム制作をするということで、あのワーナーがなぜ、という疑問を持つ人もいると思いますので、そんなお話からお聞きします。まずワーナージャパンのモバイルゲームとしては、昨年9月の東京ゲームショウ会期中に発表があったのが印象的でした。

宇野 事業自体は東京ゲームショウより少し前に発表して、『グレムリンうぉーず』は東京ゲームショウのときが初出でしたね。事業が立ち上がったのは、だいたい2014年の3月頃だったと思います。最初は僕ひとりから初めて、ひとり増えふたり増え、春から本格始動という感じです。

――これまでもワーナー名義では海外製タイトルのローカライズ作はありましたが、なぜ改めて、国内でオリジナル作品を制作することになったんでしょうか。

宇野 そこにビジネスがあったから、というのが最初です。2013年に米サンフランシスコの本社がモバイルゲーム事業を立ち上げて、日本でもやろう、という流れになりました。国内ではもともとライセンス事業として展開していましたが、自社制作はどうかとアイデアが出ていて、それとサンフランシスコのモバイルゲーム事業立ち上げがほぼ同時にあった形になりますね。

――各アプリストアでは、ワーナージャパン制作タイトルも海外のものも同じ「Warner Bros.」名義で並んでいますが、ワーナージャパン制作は海外制作とは別の方向性ということになりますか?

宇野 おっしゃる通りです。なるべく被らないように、と心がけていますし、アメリカの本社とも調整しています。

――ワーナージャパンで制作する場合の、コンセプトはありますか。

宇野 まず、ラインナップのバランスを考えています。コアなゲームからライトユーザー向けまでまんべんなく、というのがコンセプトです。新作の『グレムリンうぉーず』はその中でもミドルに位置するタイトルで、コア層もライト層も遊んでほしいという位置づけですね。セレクションもストア動向も、当初とは変わってきている部分もありますが、当初の考えとしてはこんな感じでした。

グレムリンうぉーず

◆ゲームかどうかも決まらずにスタート

――では、改めて、ワーナージャパンで制作したタイトル、これからリリースされるタイトルについて、ご紹介いただけますか。

宇野 まず国内制作の一作目が、去年の12月にリリースした『境界の黒翼 アサルトレイヴン』。これは、アニメ『白銀の意思 アルジェヴォルン』を原作としたゲームです。二作目が、今回の『グレムリンうぉーず』。三作目が、年内リリース予定の『トムとジェリー ざくざくトレジャー』です。

――リリース順で言うと、ワーナーらしい映画IPの第一作が『グレムリンうぉーず』ということになりますね。本作を制作されたマトリックスの竹内さんにお聞きしたいのですが、『グレムリンうぉーず』に関して、ワーナーからは最初はどんなオーダーでスタートしたんでしょうか。

竹内 最初にいただいたときは、ジャンルも決まっていない段階で、例えば『たまごっち』のようなコンパニオンアプリなのか、それともゲームらしいゲームなのかも分かりませんでした。なので「これは面白い話が来たぞ、どう料理してやろう」という感じでしたね。
 お話を伺っていく間に、基本無料でアイテム課金のゲームにしていきたいという形になって、最終的に『グレムリン』でタワーディフェンスをする、というゲームに落ち着きました。

宇野 最初はいくつかの会社にざっくりとした相談をさせていただいていたんですが、その中でマトリックスの企画が一番しっくり来たのでご一緒させていただいています。

――その中で、ゲームで行こう、というのは、どの段階で決まったんですか?

宇野 マトリックスからは、比較的最初の段階から、しっかりとした企画をいただたんですよ。キャッチに「ヤツらが帰ってきた!」と書かれていたのを見て、つかまれた、という感じがしました。

竹内 ただ、初期の打ち合わせでは、かなりバトルに近い感じでお話させてえいただいて、動き始めたのはそれからですね。

――それはどんなバトルだったんですか?

竹内 『グレムリン』でタワーディフェンスというのがぼんやり決まり始めた頃ですね。当時はまだあまりこのジャンルのアプリが出ていない中での選択だったんですけれど、可愛いビジュアルでライトなユーザーも取り込みたい、という意向があったんですが、そのままのタワーディフェンスだとヘビーになってしまう。そのあたりで、どうやってライトユーザーを取り込むか、どうやってシンプルかつ深みがあるゲームにするかで、かなり協議しました。

グレムリンうぉーず
▲大挙してかかってくるグレムリンをギズモが迎え撃つのが本作のスタイル。

◆いま見て分かる『グレムリン』の凄さ

――リアルタイム配置のタワーディフェンスは、もともとマトリックス側のアイデアだったんですか?

竹内 そうです。企画していた時点で『にゃんこ大戦争』や『LINEレンジャー』といった横スクロール系は数が出ていたので、タワーディフェンスとして新しい遊びを提供できるかな、という狙いです。本来タワーディフェンスでは『グレムリンうぉーず』のほうが旧来からある形なんですが、市場ではこちらのほうが逆に新しい形になっていましたね。
 もうひとつのポイントは、ゴチャゴチャ感です。画面にたくさん配置できる、ビジュアルのキャッチーさが面白さになると思いました。

――それは、やはり『グレムリン』という元ネタがあってのことですね。

竹内 好き勝手に暴れてメチャクチャにしてしまう、というのがグレムリンのイメージですから、横スクロール系などのシンプルな形にルールを狭めてしまうと、単に行列を作るだけになってしまうと思ったんです。メチャクチャさを出すには、もう少しフリーな空間で遊ばせたい、という狙いです。

――ちなみに、竹内さん自身は映画の『グレムリン』はご覧になっていましたか?

竹内 小さい頃には観ていましたけれど、あまり完全には記憶していなかったので、この案件に携わらせていただいてから、改めて何度も見返しました。プロジェクトメンバーみんなで何度も何度も観ていますね(笑)。

宇野 ウチの社内の試写室でも、マトリックスのメンバー20名くらいをお招きして観たりもしました。大きなスクリーンで観るとどうか、ということで。

竹内 クリエイターとして思ったのは、この時期の映画(編注:1984年の作品)で、CGもないのに、よくこれだけモノに命を吹き込めるなと。そこはゲームにも通ずるところがあります。
 なので、なるべく映画のイメージを残して、かついまどきのポップな感じに、というのは常に意識して作りました。

――ポップさは狙いのうちにあったんですね。

竹内 いまどきの若者層にはグレムリンもギズモもちょっと怖すぎるかも、という印象もあったので、もう少し可愛くしたいな、ということでデフォルメしています。映画だと、リアルなんですよね。

グレムリンうぉーず

◆ブラックユーモアギリギリを狙う!?

――実際にリリースされて少し時間が経ちましたが、ユーザーからの評判はいかがですか。

竹内 あまりユーザーと直接触れる機会がないんですが、社内ユーザーは結構ヘビーに遊んでいる人もいて、上位に食い込んでいたりします(笑)。

宇野 プロモーションはこれからですので、ユーザー数自体はまだこれからという感じですね。

竹内 それでも、掲示板などの書き込みを見ると、好意的なご意見をいただいています。もちろん改善のご意見もありますけれど(笑)、声をいただけるのは嬉しいですね。

宇野 いまは最初なので、おそらく『グレムリン』の名前で気がついてプレイしてくださっている方が多いと思います。今後プロモーションをかけていくうえでは、おそらく映画本編を観たことがない人も多くプレイしていただけるようになるかな、とは思っています。
 ただ、映画を観た人ならニヤリとできるような仕掛けは、常に考えていきたいですね。

――『グレムリン』ならではの面白さ、というのもありそうですね。

宇野 マトリックス側からは結構チャレンジングなモグワイのデザインを出していただいているんですけれど、監修でも95%くらいは通っているんですよ。

――確かに、『グレムリンうぉーず』には映画にとらわれないモグワイもかなり出てきますね。

宇野 僕たちも、どこまで行けるのか、ハードルを試しているところです(笑)。

――あのモグワイのデザインは、竹内さんとしても「やってやろう!」というところでしょうか。

竹内 もちろんですね(笑)。開発のときから、ブラックユーモアを入れて欲しいというお話はいただいていましたし、原作にもそういうニュアンスがありますので、ちょっとトリッキーなデザインや、ギリギリのところを狙っています。開発スタッフがノリで描いているものもありますね(笑)。

――これは攻めたな、というのはどんなものですか?

竹内 没になったものもありますからね……(笑)。

宇野 武装が多くなりすぎて、もはやモグワイと分からなくなったようなのもあります(笑)。耳くらいしか出ていない。あとは没になったヤツで、某ホラー映画っぽいモグワイとか。

竹内 たまたまマスクをしていて、たまたまチェーンソーを持っていただけなんですけどねぇ。

――それは偶然でしたね(笑)。

竹内 NGが出たものでも変えようはありますので、あとはオーケーをいただければ、それを後ろ盾にしてやってしまおうと(笑)。

宇野 いやいや、きちんと監修のオーケーも取っていますから(笑)。

グレムリンうぉーず
▲道具や武器を駆使する本作のギズモ。映画にとらわれず、タイプもいろいろ。

――『グレムリンうぉーず』の今後について、考えていることはありますか。

竹内 もちろん奇抜なのもやりたいんですけれど、まずはユーザーのためにイベントを面白くしていきたいですね。まだ発展途上なので、遊びの基本の部分をしっかり組んでいきたいと思っています。

宇野 その他にも、ユーザーインターフェースなどの細かい部分はどんどんアップデートしています。

――ユーザーインターフェースは、スマートフォンゲームでは重要ですね。

竹内 スマホゲームのユーザーからは、コンシューマよりもより直感的でストレスのない操作系を求められると思います。敷居を低くして、基本無料でたくさんの方に遊んでいただこうと考えると、ロード時間なども含めて、気を使うべきことは多いですね。

――では最後に、ワーナージャパンで次に予定している、あるいは宇野さんが今後ゲーム化していきたいタイトルはありますか。

宇野 現段階では、すでに発表しているタイトルまでですね。その他ですと、あくまでも個人的には、『マトリックス』のゲームをやってみたいんですよ。僕はハリウッド全盛期の映画を見てきたのもあって、『マトリックス』には思い入れがあります。

――そのときには、また竹内さんの会社に相談するのかもしれませんね。

宇野 なにせ社名がマトリックスですからね(笑)。

竹内 いろいろなアイデアを出しますよ。派手なアクションから、リンボーダンスのゲームまで(笑)。

グレムリンうぉーず

(2015年4月収録)

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