『パックマン』『ゼビウス』を堂々と二次創作できる! 2年目を迎えた「カタログIPオープン化プロジェクト」のホントのところを聞く(後編)

 2015年4月、バンダイナムコエンターテインメントが突如発表した新プロジェクト、『カタログIPオープン化プロジェクト』。前編に引き続き、その運用の実際のところを取材してみた。

前編はこちら

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株式会社バンダイナムコエンターテインメント
NE事業部 マーケティングディビジョン NE事業推進部
大森 大将(だいすけ)
武井 由香
吉井 祐二
菊池 真
(敬称略)

◆『メトロクロス』がなくて『源平』がある! なぜこの21タイトルなのか!?

――21タイトルの選定基準は、権利がクリアなものからでしょうか? たとえば『メトロクロス』なんかは含まれていないですが、この差は。

大森:まずは権利面の問題がありますが、最初はなんであの17個(初期公開時)になったかというと、あまり理由はないです。我々の本気度を示すためにも、あんなものやこんなものもやっていいの、ということで、『パックマン』や『ゼビウス』を入れています。もちろん、『パックマン』なんかは今でも弊社としてアプリを出したりしていますし、ふつうに考えたら、外しておこうってなりますよね。でも、あえてそれを入れたということで、このプロジェクトにまじめに取り組んでいきたいというメッセージでもあります。一方で、なぜ17タイトルか、というお話ですが、ジャンルの偏りすぎもよくない。シューティングしかないとか。だったら、全部やればよかったじゃん、という意見も聞きますが、いまある17タイトルであまり盛り上がらなかったら、それは数の問題じゃない。『パックマン』、『ゼビウス』を開放してダメだったからといって、じゃあ『メトロクロス』があればいいというわけではない。まずは覚悟を決めて選んだものでやりましょうと。

――それで、1年経過して、2016年3月16日に4タイトルが追加されました。

武井:はい。このプロジェクトは、当初1年間限定で受け付ける予定だったんですが、年末あたりからクリエイターの方から、「本当に締め切っちゃうんですか?」との問い合わせが増えたこともあり、企画受付期間の延長を検討しました。ただ、「期間延長します」だけだとちょっとね、ということで。対象タイトルも追加できたらいいのではないかということで、検討しました。17タイトルと同じかちょっと後ぐらいの80年代のタイトルも追加候補として検討したんですが、いっそちょっと新しめ、2000年前後のタイトルを追加したら面白いんじゃないかということで、『塊魂』、『子育てクイズ マイエンジェル』、『ことばのパズル もじぴったん』、『ミスタードリラー』の4タイトルになりました。

――新規のものって、もうエントリーとか来たんでしょうか。

大森:『塊魂』はファンの人も多いので、プレスリリースを出した瞬間に届きました。

――『子育てクイズ マイエンジェル』は応募あったんですか? これ「クイズじゃん!」って思ってしまいました。料理できたらスゴイなあ、って。

大森:それはですね……同じ気持ちです(笑)
菊池:挑戦状に近いです(笑)

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大森:まあ、そういうのを含めて、我々の発想では出てこないものを期待しています、という感じです。
武井:応募はまだないですね。タイトル一覧を見て「あ、マイエンジェル……」とつぶやく方はいました。

――この4タイトルって、ゲームが強烈なものが多くて、ジャンル決まっちゃいますよね(笑)。

菊池:その4タイトルに関しては、ゲームに付随する特許がまだ生きておりまして。そこを含めて使っていい、とするケースでもあったりします。
吉井:最初……「それ特許生きてるからダメだよ」って言われたんですけど、「じゃあなんとかしてください」と(笑)

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――参加条件に「スマートフォンアプリなどデジタルコンテンツの領域で」「日本国内の法人、個人のクリエイターが対象」とありますが、これはみなさんの所属がNE事業部だから、でしょうか。

大森:というのもありますが、オープン化するにあたって、一番参加しやすいのってやっぱりそこだよね、ということでして。例えば家庭用ゲームでこれをやっても、何社が手をあげてくれるかわからない。それに、家庭用ゲームは個人で開発ができるものじゃない。手軽に始められて、開発期間も短くて、みんなも遊べて、結果も見えやすいんです。

◆そうはいっても……不許可の例はあるんでしょ!?

――後ろ向きな話ですが、不許可の例があれば教えてください。

大森:まったくの不許可というのはこれまではありません。企画を見てズバっと切ることはせず、直接お話しして、許諾できる形を一緒に検討させていただくようにしています。ただ、リアルグッズ作りたいです、という提案がたまに紛れ込んできまして、こちらはそもそも対象外なので、不許可といえば不許可です。

――こっそり、カタログIPじゃないキャラを混ぜてきちゃったりとか。

大森:当社のものに関しては、21タイトルの中でなら使えますし、他社さんのものが混在しても、別途権利処理をされていれば、それはそれで問題ないという考え方です。
武井:先方がOKなら大丈夫です。
大森:悪役にしていただいてもかまわない。

――……ぶっちゃけ……売り上げ的にはどうなんでしょう?

大森:ずるい答えになるかもしれないんですが……。

――ずるいので結構です!

大森:期間延長の発表をしたわけですけど、イケてないなと思ったら延長していないですよね。どうかな? ということで始めてみたら、まあまあの手ごたえがあったからこそ、4タイトル追加して延長と……いうところからお察しください。もちろん、みなさんビジネスでご参加いただいていて、単純な宣伝手法としてのものも含めて、キャンペーンの案件は混ざっていないんです。すべてのコンテンツが少なからず売り上げを上げています。

――意外な成果などありましたら。

大森:たっぷりありますよ(笑)。まず、この取り組み自体がすごい評価されています。「こんなことやってる会社はない」というお話なんですけど、去年、特許庁が主催した「TOKYO IP COLLECTION 2015」でパネルディスカッションをしたりですとか、中部知財フォーラムというところにも呼んでいただいたりして、いろんなところから「IPの活用」というテーマでお問合せをいただいてます。
武井:特許庁の方や知財関係の方などから「ヒアリングさせてください」というのは多いです。
大森:同業他社さんでもどういう仕組みになってるんですか、と問い合わせが来ます。業界内外を問わず、ご注目をいただいています。

TOKYO IP COLLECTION 2015
https://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/photo_gallery2015061502.htm
中部知財フォーラム2015
http://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/ivent/fy27/0224forum/forum.html

◆教育機関での使用例は?

――おじさん世代からすると、若い世代に響くといいな、と思うのですが、学校での採用例など、若い世代への浸透例がありましたら教えてください。

武井:実は学校法人が始まったのは去年の5月なんですが、学校って4月からカリキュラムが始まりますので、エントリーいただいた学校でも、早くて下期からやりますとか、実際には今年の4月から、というところがほとんどです。なので、アウトプットとして我々の手元にはまだ届いてないです。
大森:年次や学校形態によって、使われ方も変わってきます。年次が低ければ、まずは『パックマン』そのものを作ってみようとなりますし、ゴーストの動きを変えてAIについて学んでみたりですとか。それから、もうちょっと現代的なゲームを作らせたいとか、いろいろなご提案をいただいていて、どうぞ、というお話を差し上げているので、何か(成果が)来るんじゃないかな、とは思っています。

――いま、「『パックマン』そのものを作る」というお話がありましたけど、一般企業がまったく同じ仕様の移植版を作りたい、という事例はないんですか?

大森:それだけはNGですね。教育機関の場合は例外です。
――教育機関においても、作ったアプリを公開したり販売したりするのもOKなんですか?

大森:教育機関においては「売上は立てないでね」とお願いしています。こういう言い方が適切かどうかわからないですけど、我々としても美しい話にしたいですよね(笑)。昔がんばったパックマンたちが、次の世代のクリエイターのためにもうひと肌脱ぎますので、ここでは商売目的にはしないでくださいね、と。我々もそれに対してロイヤリティはいただかないですし。
武井:なので、公開も、学校内に留めてください、とお願いしています。

――文化祭や卒業展示とかでは他人の目に触れますが。

大森:それはOKです。
武井:配信がNGですね。無料であっても。動画をアップロードするのは大丈夫です。

◆今後の展望、来たれ、21世紀のクリエイターたち!

――今後の展望は。

大森:ひとまずはこの21タイトルで……引き続きやっていければいいかな、と。あとはこの枠組みの中で、他社さんと新しいことができればいいな、と思っています。新しいゲームをリリースしていくことも使命ですが、『パックマン』をはじめ、過去のIPを若い世代に伝えていければいいかな、と思っています。
武井:去年、即席のチームで集まって3日間とかでゲームを作る、『カタログIP×GameJam』というイベントを行ったんですけど、参加いただいたクリエイターの方に喜んでいただけまして、今年も何かそういった取り組みをしたいなということで、『SPAJAM2016』(モバイルコンテンツフォーラム)と提携しまして、カタログIPを使っていいですよ、という取り組みをしています。これに限らず、ご相談いただけたら前向きに検討していこうと思っています。

SPAJAM2016
http://spajam.jp/2016/wp/wp-content/themes/spajam2016/dl/catalog_open.pdf

大森:学校向けの取り組みやGameJamの実施もわりと思いつきというか、聞かれたから「じゃあやってみよう!」と始めたものですし。
吉井:我々が主役のプロジェクトじゃなくて、枠組みとして活用していただいて、それを後押しできればいいな、と思っています。そうなると、実際の使われ方や、ご要望に合わせて随時検討しながら対応させていただくことになります。

――ありがとうございました! これまでにないゲームの登場を期待しています!

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