
映画『冷たい熱帯魚』『ヤッターマン』『片腕マシンガール』『凶悪』『極道大戦争』など、プロデューサーとして数々の話題作を手がけた鬼才・千葉善紀は、実は日本映画界有数のゲームファンだった!
家庭用ゲームを中心にプレイする千葉Pと、ゲーム雑談をしてみよう、というこのコーナー。あくまでもひとりのゲームファンとして、千葉Pが言いたい放題!
今回は千葉Pが2015年にプレイしたゲームを振り返り、年間のベストゲームを発表……というか、まさにいまプレイしている作品の最高さを語ります!

千葉善紀
日活株式会社 プロデューサー
(敬称略)
◆ドMゲーム『Bloodborne(ブラッドボーン)』の衝撃!
――今回は、2015年最後の回になります! 連載もこれまで8回やってきましたが、いろいろな話をしていただきましたね。
千葉 年末でいろいろな人に会うんですけど、最近は「この連載、面白いですね」と言ってもらえたりします。千葉さん、えらく嬉しそうですね、って(笑)。
――なにせ好きなゲームの話をしてますからね。
千葉 好きなだけゲームの話が出来るなんて、こんな楽しい事はありません!(笑)。
――今年は映画ゲームも当たり年ですし。
千葉 もともと僕は日本で発売されないような映画のゲームを好んでやっていたわけですけど、確かに当たり年でした。
――千葉さんはいろいろなゲームをプレイしていると思いますが、今年を振り返ってみて、どのタイトルが最高でしたか?
千葉 いろいろやりました、もう覚えてないのもいっぱいありますけど(笑)。ただ、たまたま人に勧められて、いまやっているゲーム、これが最高だったんですよ! 『Bloodborne(ブラッドボーン)』(PS4用、SCE)です!
――年の最後に最高が来ましたか!
千葉 12月に『Bloodborne The Old Hunters Edition』が出て、値段も安くなったのでやってみようかな、と思ったんですよ。そうしたら、もう……!
僕はゲーム好きだけど腕に自信は無いので、「死にゲー」とも呼ばれる激ムズのこのジャンルはどうなんだろう、クリア出来る自信ないなぁとずっと思ってたんです。でも、やってみたら……すごいですよ。こんなドMなゲームがあるのかと、衝撃ですよ!
――『Demon’s Souls』(2009年、PS3用、フロム・ソフトウェア)に始まる、ドMなゲーム(笑)。
千葉 僕は洋ゲーをプレイすることが多いんですけど、最近の洋ゲーって、実は簡単にクリアできるように作られてるんですよ。行く道も親切に教えてくれるし、何となくやっていれば簡単にクリアできるんです。
それに比べて『Bloodborne』は、最初から何の説明もしてくれないし、どれも抽象的な説明で、このアイテム何に使うの?というのも全然教えてくれない。『The Old Hunters Edition』にはガイドブックがあるけど、最初にのバージョンはそれすらないわけですからね。
――最近のPS4ソフトは、マニュアルも入っていないことがほとんどですからね。
千葉 にしてもこのゲームの不親切さはハンパないですよ!武器の装備の仕方も理解してなかったから、最初は素手で戦ってたくらいですよ(笑)。いくら殴っても倒せないから「こんなに恐ろしいゲームなのか!」と思ったら、ただ武器を装備してなかっただけ(笑)。でも、そこから知識を得て、共闘プレイもできるようになって、経験値も上がっていくと、倒せるようになってくるんです。最初のステージからいきなりものすごい量の敵がいるけど(笑)。
――通常のゲームだと、ハードモードよりさらに上くらいの。
千葉 最初からデカいおっさんたちがワラワラいますからね。ビビリますよ。しかも、頑張ってそのおっさんたちを倒しても、その先でやられたら、また最初に戻される!
――昭和のゲームくらいの戻され方で(笑)。
千葉 稼いだ経験値も一瞬で取られるし、その辺はファミコン並みの厳しさです!

◆ぶっつけ本番「死にゲー」の魅力
――では、『Bloodborne』の序盤を実際にプレイしてみましょうか。
千葉 これ、最初のムービーからもう抽象的で(笑)。詩のようで、何のことか全然解らないんですよ。他にも、オンラインで共闘プレイをするのに必要な「啓蒙」というアイテムがあったりしますけど、外人にこの意味伝わるのかと?(笑)。
オンラインで共闘するにもこの「啓蒙」が必要なので、そんなにしょっちゅう助けを呼べないわけです。ここぞ、というときのために、かなり大事にしないといけない。
――おお、プレイのほうでは最初からいきなり強そうなモンスターが出てますね。
千葉 普通、最初は弱そうな敵が出てきてチュートリアルが始まるものなのに、いきなりやられる(笑)。で、一度やられた後、武器が手に入るんですけど、これの装備の仕方が分からなくて素手で戦ってました。何度戦っても倒せないなーと。
――装備しなかったら、最初にやられたのと条件変わってないですよ(笑)。
千葉 武器の説明も大して出てこないですからね。最初は3種類から選べるんですけど、どの武器がどう効果あるのか、たいして分からないまま始めるんです。
――いわゆるチュートリアルがほぼないんですね。
千葉 最近のゲームはチュートリアルで全部説明してくれることが多いですけど、『Bloodborne』は説明ないですから(笑)。
その辺の難しさは、最初の『ゴッド・オブ・ウォー』(2005年、PS2用、SCE PS3用HDリマスター版あり)に近いですね。あれも、ものすごく難しかった。動いている歯車をピョンピョン飛んで行くのに、時間が8秒くらいしかないシーンがあったり。
この『Bloodborne』もそういうところがあって、いきなり死にますからね。
――何でもないところでも、落ちると死ぬ(笑)。
千葉 そう、一所懸命頑張ってひと息ついたら何でもないところで落下死に。絶望感がハンパない(笑)。
いまプレイしているのは序盤なんで、僕も慣れてるからスイスイやってますけど、ここまでさんざん死にましたからね(笑)。ほら、始めて数秒で、こんなに敵のおっさんがいるんですよ!
――イベントかなと思ったら、単に全員倒さないと前に進めない(笑)。
千葉 試しに突っ込んでみましょうか……ほら、タコ殴りにされるんですよ! ひどい! でも、序盤なんでまだ可愛いもんなんです。先に行ったらとんでもないのが山ほどいますからね。
このゲーム、なぜ「死にゲー」と呼ばれるかというと、死んで覚えるゲームだからなんです。とにかく、死なないと分からない。このジャンル、一回やると超ハマりますよ。ゲーマーは皆ドMですからね。
こんなにハマったゲームは最近なくて、この間も一日12時間くらいやってました。完全に闇のオンラインにどんどん引きずり込まれている(笑)。

◆『Bloodborne』こそ真のクールジャパン!?
――こんなに難しいのに、評判は非常に高いんですよね。
千葉 マップも広いし、難しさはとんでもないんですけど、『Bloodborne』には同じステージを周回する意味がちゃんとあるんですよ。これを構築したゲームクリエイターは本当にすごいと思います。
――プレイヤーがこれをやってくれる、と信じられるのは、すごい自信でもありますよね。
千葉 これだとハードル高すぎるから無理じゃない?売れませんよ!って普通の会社は思うはずなんですけど、それを乗り越えて発売してるわけですからね。
PS4って、特に最初の頃はゲームのタイトル数が極端に少なくて、ちょっとダマされた気分になったものもあったんですけど(笑)、もっと早くこれに出会えば良かった。
――発売のタイミングで出会えなかったのは、もったいなかったですね。
千葉 でも『The Old Hunters Edition』で、完全版なうえに安く買えたので、超ラッキー(笑)。既にプレイした人がいろいろ教えてくれるし。
2015年はいろいろなゲームをやってきて、『グランド・セフト・オートV』(PS4用ほか、ロックスター・ゲームス)を別格とすると、『Bloodborne』は最後の最後に現れた、とんでもない巨人ですよ!
しかもこれを日本のクリエイターが作って、世界でも認められているのは、すごく嬉しいです。僕も日本で映画を作っている身として、日本から世界に通用する面白いものを作ってくれたことが非常に誇らしいですね。この面白さに取り憑かれた以上、次の『DARK SOULS III(ダークソウルIII)』も絶対に買いますよ!
――実際、日本のゲーム大賞でも優秀賞を受賞していますから、非常に評価されている作品ですね。
千葉 こういうものこそ、国がバックアップしていくべきですよ。クールジャパンとか言って国が変なものに沢山出資していますが、これを応援しなくてどうするんだ、税金は正しく使えでしょ! これだけ世界に誇れる日本のものってないですよ!
――映画を作っている人が、ひたすら別のエンターテイメントを褒めるという(笑)。
千葉 映画はなかなかこうはいかないんですよ。僕も「SUSHI TYPHOON」(編注:千葉Pが手がけた映画プロジェクト。『冷たい熱帯魚』『エイリアンVSニンジャ』などを世界に送り出した)で、ちょっと違うアプローチをしたりしたんですけどね。
日本人が出てる映画っていうだけで限界があるんです……。

◆ゲームの「やればできる」良さの究極
――では、もうちょっと先のシーンも見てみましょうか。
千葉 じゃあ、レベル30くらいのセーブデータで。ほら、ちょっとカッコ良い装備になってるでしょ? ここまで来るのにどれだけ苦労したか。それでもねえ……出てきた出てきた!
――なんかエラいの出てきましたよ!
千葉 とんでもないんですよ! しかもこれ、ザコですからね。この先にすんごいのがいて、アイツにどれだけ苦労させられたか……いや、アイツって言っても僕にしか分かんないと思いますけど(笑)。
――ああ、そのとんでもないザコに、なんかタカられてる!(笑)
千葉 こいつらを頑張って倒しても、この先の強いのにやられたら、またこいつらからです(笑)。何度もやっているうちに、だんだん覚えて楽に進めるようになるんですけどね。
なので、前にも言ったように、やっぱりゲームは「やればできる」という忍耐を教えてくれるんですよ。こんなにハードルが高いゲームでも、何十時間もやっていれば、いつかは倒せるようになるんです。
――まさにこのゲームこそ、頑張って続ければ必ず解決方法がありますからね。
千葉 そう。僕が常に力説しているゲームの良さの、「やれば出来る精神」の究極がこの『Bloodborne』です。そして、このゲームのシステムを作り上げた人たちの努力こそがすごいと思う。たぶん、シリーズを通して、たくさんの「難しすぎる! クソシネ!」というクレームと、マゾのみなさんの「もっともっとイジめて!」との、声を生かしつつ、ちょうどいいバランスで作られたのが、最新作の『Bloodborne』。で、僕はその一番いい最新型マニュアルカーに乗ってもらっているんです(笑)。
――しかもその最新型も、メチャクチャなスピードが出て簡単に事故る(笑)。
千葉 オートマ限定免許の人は降りてください(笑)。エコの概念も無いです。でもこれ、ゲーマーが求めている究極のゲームなんじゃないかと思いますね。一年の最後に、本当にエラいのに当たりましたよ。このゲームに出会えて良かった!
――年末になって。
千葉 そう、僕の今年のGOTY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)、ベストゲームはこれ。シロウトのゲーマーとして、あるいはエンターテイメントで世界を目指す人間として、これが日本で作られたのは本当に嬉しいです。この細やかさはアメリカからは出てこないと思います。
みなさんもぜひ、お正月に『Bloodborne』でドMの闇の世界に浸ってください(笑)。

◆年末に観て欲しい、ゾンビ映画2作品をご紹介
千葉 あと、最後にちょっと本業のお知らせしていい?
――今日は何を持ってきたんですか? ……って、なんかまた特殊な感じのパッケージを出してきましたね(笑)。
千葉 今月、なぜかゾンビ映画を2作品、発売したんですよ。
――なぜこの時期に?(笑)。
千葉 まず、ゲーム『デッドライジング』(2006年、Xbox 360用、カプコン)のテレビシリーズのパイロット版として制作された、『デッドライジング ウォッチタワー』です。これは、ハリウッド映画の新作『GODZILLA ゴジラ』(2014年の映画)を大ヒットさせたあのレジェンダリー・ピクチャーズが作った作品なんですよ。
――おお、『パシフィック・リム』や『ダークナイト』シリーズも作っている、好きものにはたまらない映画会社ですね。
千葉 最近のハリウッド大作は殆どこの会社が作っています。この作品はいいですよ。武器を改造したり、主人公がゲームに準拠したことをちゃんとやるんです。これはゲーム好きにはぜひ見て欲しいですね。
――もうひとつは?
千葉 『ウォーキング・ゾンビランド』という、僕が勝手に邦題をつけた映画です(笑)。
――出た! ビデオストレートっぽさ全開のタイトル!(笑)
千葉 これは、ダリル・ディクソンもどきがいたり、ウディ・ハレルソンもどきがいたりする、非常に由緒正しい、くだらないゾンビ映画です(笑)。全編パロディですが、面白いですよ。ダリルもどきは、オモチャのようなボウガンでちゃんとゾンビと戦います(笑)。ビデオストレートの王道らしい作品ですね。
――原題も『WALKING DECEASED』だから、邦題とそんなに違わないじゃないですか(笑)。味わい深いなあ。
そんなこんなで、今年はありがとうございました!
(2015年12月収録)

『デッドライジング ウォッチタワー』
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『ウォーキング・ゾンビランド』
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