映画『冷たい熱帯魚』『ヤッターマン』『片腕マシンガール』『凶悪』『極道大戦争』など、プロデューサーとして数々の話題作を手がけた鬼才・千葉善紀は、実は日本映画界有数のゲームファンだった!
家庭用ゲームを中心にプレイする千葉Pと、ゲーム雑談をしてみよう、というこのコーナー。あくまでもひとりのゲームファンとして、千葉Pが言いたい放題!
今回は趣向を変えて、千葉Pが注目しているPlayStationVRについて。VRが来ると、映像もゲームもこんなに変わっちゃうかもしれない!?
千葉善紀
日活株式会社 プロデューサー
(敬称略)
◆千葉Pはいま、VRに注目!
――先日、PlayStationVR(以下、PSVR)の価格と発売時期も発表されましたけど、千葉さんも、最近はかなりVRにハマってるらしいじゃないですか(編注:2016年10月発売予定、税抜価格44,980円)。
千葉 今回、直接ゲームと関係ない話になっちゃうけど、いい? いつ出るかと思ってたら、ついに発表されました、PSVR!! いまのところ発表されているのは、まだほんの少し、触り程度だと思います。僕が先日ちょっと小耳に挟んだところでは、日本の某メジャータイトルがVR版で作られているそうですよ。すでに体験できるレベルまで動いているようです。
PSVRは、値段も4万5000円くらいとお値ごろだし、これは買うしかないでしょ!
――千葉さん、前々からPSVRには注目してましたものね。
千葉 いま、Oculusなども見たりして、VRがどういうものかを本気で勉強しているんですよ。時代に取り残されちゃいけないから。
現状、ゲームの世界と映像の世界は近いようで遠い存在だったりするんですけど、VRが出ることによって、これがグッと近づく可能性があるんです。特に、PSVRにはシアターモードというのがあって、応接間のようなところに大型スクリーンがある状況を体感できるんです。PSVRがあれば映画館に行かなくても大スクリーンが体験できる、というシステムなんですよ。これが出たら、たぶんもうテレビは要らなくなります。
――ゲームでもなんでも、映画館クラスのスクリーンをひとりで専有できる状態になっちゃうわけですか。
千葉 そう。もちろん3DのVR空間に入っていく体感式ゲームがメインになると思うんですけど、普通のゲームを大スクリーンでプレイすることもできるわけです。その辺りは、まだあまり伝わっていない感がありますね。
◆VRが出ると映画館に行く人が減る!?
――千葉さん、なかなか熱が入ってますね。
千葉 僕も最初は、ちょっとバカにしてたんですよ。しょせんはヘッドマウントディスプレイなので、それをレンズで拡大してるだけでしょう?って。
でも「じゃあ観てください」と言われてつけてみたら、まあすごいことすごいこと(笑)。そのときはサムスンのGearVRだったんですけど、これでそこまで行くなら、PSVRはもっと、とんでもないことになると思ったんですよ。
――いまVRに及び腰な人は、昔少しだけ流行ったヘッドマウントディスプレイの記憶があるのかもしれないですね。
千葉 あの延長だと思ってたら大間違いですよ。あの頃は「目の前に何インチのテレビがある」という触れ込みだったけど、VRのシアターモードはあれとはまるっきり別物なんです。僕がこれを言うのは非常にマズいんだけど、あれを体感しちゃうと、映画館に行く人は確実に減ります(笑)。
――それを千葉さんが言うのは、本当にどうかと思うんですけど(笑)。
千葉 でも、僕はもうそれを体感しちゃったから。体感した人でないと分からないから、いまはみんな「ふーん」という感じですけど、PSVRが本当に世界で何千万台と普及したら、変わっちゃうと思います。
それに、いまの若い人は、もともとテレビを買わないですよね。僕らが学生の頃は、先ずテレビと電話を最初に買ったんですけど、いまは両方買わずにスマートフォンだけで良くなっちゃった。そうした人たちにしてみると、PSVRが大画面テレビとして使えることは、ひょっとしたら普通のことに感じるかもしれないですね。映画もニュースもゲームも全部PSVRひとつあればいいや、となる。恐ろしい時代が来るのをヒシヒシと感じてますよ。
――確かに、同じ値段のテレビよりPSVRのほうが大画面として使えることにもなりそうですね。
千葉 まあPS4とセットで買えば10万円くらいになっちゃいますけど、PSVRのシアターモード並みのスクリーンが欲しかったらテレビどころか家を買わないといけないですから(笑)。多分このモードで自分好みの空間も作れるでしょうから、VRでは画面だけでなく、体験として驚きの展開も待っているんです。
――DVDだと副音声で聴くだけだったコメンタリーひとつとっても、違う楽しみかたになるかもしれない。
千葉 そういうこともあるでしょうね。いろんなことができますよ。シアターって、画面の大きさのことじゃなくて、あの空間そのものを指しますからね。VRは空間を作れるので、それを貴方好みにできますよ、という恐ろしい仕組みになり得るんです。
◆千葉P「僕もVRで何かやれるかな?」
――演劇や音楽ライブの体感性も、テレビで観るのとは違うかもしれませんね。
千葉 そう、何ならアーチストと一緒にステージにだって立てますよ。
――千葉さんが大好きな『GUITER HERO LIVE』をVRにしたら、まさにステージのギターヒーローそのものになれちゃうわけですね(笑)。
千葉 そうなんですよ。あれは周りにバンドメンバーがいる、バンドのギタリスト視点のモードがありますからね(笑)。
いままで、僕ら映像業界の人間とゲーム会社の人が一緒に物をを作ろうと思っても、接点がありそうで無かったんですよ。でもVRで面白いのは、この二者がお互いのノウハウ出し合って一緒にやれることなんですよ。そのくらい、VRは新しい可能性があるし、いろいろなものが変わると思います。
――VRというとゲームのイメージがありますけど、映像エンターテイメントも変わっていくんですね。
千葉 ただ、実はこのあたりは、まだあまり気づかれてないような気がしますね。先に、アメリカはもうザワザワしてて、研究や巨額な投資が始まっていますけど、日本の映像業界ではまだまだ気づいている人が少ない。
――その辺りは、ゲームの作り手のほうが対応は早いかもしれませんね。
千葉 ですね。だから、僕も何かやれるんじゃないかと(笑)
――そりゃ千葉さん次第ですよ(笑)。楽しみにしてます。
千葉 やるときは突然発表しますよ、「え、もうこんな事仕込んでいたの??」って。まあ、今は僕なりに勉強しているところです。いろいろな人にリサーチしてみたり、実際にモノを見たり。
ただ、VRは体験そのものなので、実際に見た人でないとなかなかピンとこないかもしれませんね。
――メディアとしては、それをどう伝えるかは難しいところです。
千葉 そう、メディアがこれを伝えるのが一番難しいです。だって実際に体験してもらわないと何も始まらないんだから(笑)。僕はいろんな人に実際に見せたりもしてますけど、見せるとみんなガラッと態度が変わります。それが面白くてしょうがない(笑)。
それと、VRの面白い可能性として、映像を作るぶんには、それほど予算が必要ないかもしれない、というのもあります。だって、基本的にはGoProで撮れちゃうから。
◆VR世界で人と目が合ったときの衝撃
――千葉さんがVR映像で印象的だったのは、どんなものでした?
千葉 何が衝撃かって、映像の中の人と目が合ったときの衝撃はすごかったですよ。「あっ、こっち見てる!」って思いましたから。
――カメラ目線の人じゃなくて、自分を見てる人に感じちゃうわけですね。
千葉 あれで『時計じかけのオレンジ』(1971年の映画)をやられたら、とんでもないことになりますよ(笑)。
――ルドヴィコ療法ですね(笑)。目を無理やり開いて映像を見せ続けて人格矯正しちゃうアレ。
千葉 下手すると、そういうことにすら使えますよ(笑)。
――ちゃんとしたソフトで言うと、去年、PSVRのデモとして発表された『サマーレッスン』(編注:バンダイナムコエンターテインメントによるVR技術デモコンテンツ)は、完全に自分とVRの中の女性の一対一の関係を体験させるものでした。つまり、去年の東京ゲームショウであれを体験した人は、もう半年ぶん先にそこに行っているわけですよね。
千葉 だから、今年の東京ゲームショウはVRで相当盛り上がるんじゃないかと思いますよ。もうゲームショウもE3もVR祭りですよ。
――6月にロサンゼルスで開催されるE3なんて、ハリウッド直結ですものね。
千葉 僕もE3行こうかなぁ。行きたいわー。東京ゲームショウも、行ったらレポートしたい(笑)。例年だとゲームショウはトロント映画祭と被ってるんですけど、今年はゲームショウのほうに行こうと思います(笑)。
――今年の東京ゲームショウは、9月15日(木)~18日(日)です。
千葉 あっ、それ夏休みの日取りかもしれないな……ハワイに行けないとカミさんに殺されちゃうかも……。
――それはこっちでは調整できないです!(笑)
(2016年3月収録)