話題のNBA公認ゲーム最新作『NBA CLUTCH TIME』。パブリッシャーとなるマーベラスの谷田統括プロデューサーと、開発会社であるたゆたうの坂本開発・運営プロデューサーへのインタビュー、後編をお送りする。
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後編は、このタイトル『NBA CLUTCH TIME』の具体的な内容について。ふたりの言葉を聞けば、NBAの魅力に本気で迫ろうとしているのが分かるはず。リリース前の今こそ語れる、本作に賭ける思いを聞いた。
株式会社マーベラス
谷田優也(統括プロデューサー)(写真左)
株式会社たゆたう
坂本慎一(開発・運営プロデューサー)(写真右)
『NBA CLUTCH TIME』公式ホームページ
◆開発現場の熱が動かすゲーム作り
――スポーツゲームはいろいろなタイプがありますが、『NBA CLUTCH TIME』は、どういうタイプのゲームですか?
谷田 基本的には、自分がマネージャーになってチームをマネジメントし、選手を揃えて上位のリーグを目指していく、シミュレーション型のゲームです。
坂本 その辺を取るといかにもマネジメントのゲームという印象かもしれませんけれど、バスケットボールに流れる空気感を表現したくて、3Dでの表現をきめ細かくやろう、と考えました。それと、NBAの雰囲気を大事にしたかったので、放送にあるようなハイライトシーンをきちんと表現しているのが売りですね。勝敗も当然重要なんですけれど、そこでちゃんと選手同士が戦っていることを表現するのは、スマホのゲームでは珍しいと思います。
谷田 3Dで表現することで、好きな選手を集めて選手を組むことひとつとっても、カードとはちょっと違うものになるんです。現役とレジェンドが入り混じって、パスをしたりアリウープを投げてダンクを決めたり、というのをきちんと視覚化できました。実際のスポーツでは実現できず、カードだけでは表現できないことを叶えられるフィールドが作れたかな、と思います。そこにはかなりこだわっていますね。
――ゲーム内に登場する選手は実名で、全員3Dモデル化されているそうですね。
谷田 すべて実名です。NBA側では、写真についての監修はかなり経験があったんですが、選手の3Dモデルについては一部のコンシューマゲームでしか経験がなかったので、どこまで似せるのかはお互い手探りでした。例えば、最初は監修が大変なので刺青はやめようかという話だったんですが、最終的には全選手について、そこまでちゃんと再現しています。
坂本 最初はどうなることかと思いましたけれどね(笑)。
谷田 これは現場からの強い要望でもあったんです。
坂本 現場の熱量は半端じゃないですよね。ちょっとおかしいレベルで(笑)。
谷田 現場のおかげで、僕らが焚き付けられて動いていくことが結構多いですね(笑)。例えば、開発はたゆたうにお願いしつつ、内部にも3Dモデルのデザイナーがいるんですが、彼は作っているうちに愛着が湧いてきたらしくて、本来あるべきものを作らないことに耐えられなくなったみたいで(笑)。そうして「作っちゃってもいいですか?」と言い出して、気づいたらいろいろなものが入っていたんですよ。
――もはや既成事実として(笑)。
谷田 首元まで刺青が入っている“バードマン”ことクリス・アンダーセンという選手がいるんですが、「こんなの対応できないでしょ」と言っても「やります」と返してきて、首元の文字まで再現していますね。
▲クリス・アンダーセンの3Dモデル。ディフォルメながら、驚くべき再現度。
――それは本当に現場の熱量に押されていますね。
坂本 押されています。いろいろな意味で、そこからもゲームが形作られている部分がありますね。
谷田 アリーナのバスケットコートについても、コートサイドや、二階席と三階席の間、あるいは真ん中に吊り下がった電光掲示板があるんですけれど、あれも勝手に再現していましたね(笑)。「研究してみたら、どのコートにもあるので、広告も流せるように作っちゃいました」と結果報告されました(笑)。
――また既成事実(笑)。
谷田 でも確かに、NBAの公式ライセンスゲームである以上、試合を観に行ったときの体験や既視感は大事にしたいんですよ。なので、ここに広告を流すのも表現できないか、とNBAに相談したら、まずNBAが持つロゴや名前はOK、オフィシャルスポンサーについてもNBAから話をする、と言ってくれたんです。実際にすでにOKが出ているところもあります。そういったコミュニケーションが生まれたのは、現場から僕らまで、スポーツそのものを見せたい、という同じ思いがあったからだと思いますね。
――結果的に、そういった熱や愛で、単なるバスケットボールゲームではなく、NBAのバスケットアリーナを再現する方向になったわけですね。
坂本 それで見た目から変わりました。開発する僕らとしては、これはどうやって組み込むんだろう……でも現物を見ちゃったら、やるしかないでしょ! という感じでした(笑)。
谷田 コート自体はNBAのライセンスとはまた別なので、実在のものではないんですけれど、逆にそのぶん自由に作れて、まだ公開前ですが何種類かのコートを用意しています。中には、何十万人も入りそうな、地球に存在していないコートも作ってみていますね。
――選手は、いまのところ何人くらい登場する予定ですか?
谷田 すでに見えているところで、500人は出る予定です。写真で500枚なら何ということはないんですが、今回は全員3Dモデル化して監修を取らなければいけないので、大変でした。現役であればNBAPという選手管理部門でチェックが済むんですけれど、一部の有名選手やレジェンド選手はプロダクションに所属していることがあるので、さらに別の監修を受ける必要があったりするんです。でも、すごく出来が良いということで、良いイメージを持ってもらえたので、スムーズに進んでいます。
――その辺にこだわって作ることは、ゲームとしての魅力にも直結しそうですね。
坂本 そうあって欲しいですね。いろいろな資料をひっくり返しては、似てるの似てないのと議論して作っているわけですから。
谷田 有名な選手は写真もたくさんあるからいいんですけれど、チームに登録されていても、ベンチにいることが多いこれからの選手となると、写真がほとんどないんですよ。そこはかなり苦労しました。でも、そういう選手が好きな人もいますから、有名選手だけ力を入れてあとは適当、ということは一切ないです。
◆本物のNBAをゲームで表現する
――バスケットボールのゲームとしては、システム上、どういった楽しさを目指して作っているんでしょうか。
坂本 先ほど言った、マネジメントの楽しさがひとつ。それと、プレイバイプレイと言って、試合展開がリアルに分かるところで、バスケットにおけるグルーヴのようなものを再現したいな、と思っています。スーパープレイを見せて納得させるのと合わせて、その辺の再現を楽しさに繋げたいですね。アップデートができるゲームなので、見せ場をどんどん増やしていくことも考えていますし、ユーザーさんの反応を取り込んでいければいいな、とも思っています。
――グルーヴというのは、バスケットボールならではのものかもしれませんね。
坂本 他のスポーツと違う点として、バスケには流れのようなものがあるんですよ。
谷田 その表現は苦労したところですね。野球やサッカーだと、1点の重み、入るか入らないかのせめぎ合いが見どころだったりするんですけれど、バスケは点が多く入るスポーツなんです。すごいダンクで決めた2点も、ゴチャゴチャともつれて入った2点も、どっちも同じ点なんですけれど、試合の中で流れを生む瞬間があって、連続した点が入るタイミングがあるので、それが勝敗を分けるものなんです。
坂本 ある種のメンタルスポーツという側面もありますね。チームプレイも大事ですけれど、ときにはスタンドプレイ的に流れを変えられる選手もいるし、ひとつのプレイにこだわる選手がきっかけになることもあります。そういうものが表現できたらいいな、と思うんですよ。「このプレイが効いたんだ!」というのがユーザーに伝われば、この選手を持っていて良かった、という満足に繋がりますからね。
――そうしたことが、選手のキャラクターとしての魅力にも繋がるわけですね。
坂本 そうなりますね。
――おおよその見立てとして、1プレイはどのくらいの時間というイメージですか?
谷田 いまのところ、一試合でだいたい5分くらいですが、いままさに磨き上げ中なので、2~3分にするかもしれません。バランスを取っている最中ですね。
坂本 バスケの玄人はスタッツ(プレイ成績)を見るのが好きなので、それを確認したい人は、長くてもいいからじっくり見たがるものなんです。そういう遊びも担保したいので、最適解をいま考えているところです。
谷田 実は、一試合一試合で、それぞれの選手のパラメータを参照しながら、ここでボールを取った取られたというところまで、裏ですべてシミュレーションをやっているんです。すべてのシーンの再生はしないですけれど、計算と処理はしているので、あとで全部のシーンを再生することは可能です。
坂本 スタッツが見られるということは、そういうことなんです。
谷田 なので、眺めているだけでも楽しいようにはなっています。
――それは、スマートフォン用のスポーツゲームとしてはものすごくリッチな作りですね。
谷田 NBAは掘り下げていくとデータスポーツの側面もあって、マニアックな見かたとしては、スタッツ同士を比較してどちらが勝つかを予想する、という楽しみもありますから。
坂本 僕らは、開発をしながらずっとNBAを観ているんですけれど、最初は試合を観ていたのが、だんだん仕事をしながらパソコンにスタッツだけを表示するようになって、スタッツだけで「いける!」「あー!」と言うようになっていて(笑)。
谷田 いろいろな楽しみがあって、最初のとっかかりは、やはりスーパープレイや格好良いシーンの強い魅力です。でも、好きになればなるほど、数字を始め、楽しめるところがたくさん見えてくるので、そういった点もフォローしたい。だから、全試合、裏でちゃんと行なわれるようにしたんです。実はそこは、作りながらも、悩み、迷いつつ盛り込んだところですね。
坂本 まだまだ悩みどころはあって、それをどう切り取るかで印象が変わってしまうんです。やっていることは、確かにNBAでありバスケットボールである自負はあります。でも、それがどう伝わるかは、切り取りかた次第。そこが問題です。
――そういう意味では、スポーツに対して相当誠実な作りですね。いいところだけ見せればいい、という考えかたもできるわけですから。
坂本 スタッツを出す以上、つまり本物を表現する以上、ここは真面目にやろう、と決めた部分です。なので、産みの苦しみは半端じゃなくて(笑)。普通は描画に時間がかかるものなんですけれど、今回は計算のほうに時間がかかっちゃうんです。そっちを立てればこっちが、という感じで、いろいろ問題もあって。作る醍醐味ではあるんですけれどね(笑)。
――まさにブラッシュアップ中なわけですね。実際のリリース予定は、いつ頃の予定ですか?
谷田 日本国内は、11月中旬を目標にしています。その後、アジア圏でも、年末か年明けにリリースするかと思います。台湾や香港からになりそうです。
――事前登録はもう始まっていますが、反響はいかがですか?
谷田 実際にバスケが好きな人や、NBAのファンには、着実にリーチできているかな、と感じています。NBAの公式TwitterやFacebookにも協力していただいますし、バスケ雑誌にも掲載していただいたことで、スマホのゲームをよく遊んでいる人たちよりも先に、ちょっと違う浸透のしかたをしていますね。
坂本 それだけに、真面目に作らないといけないので、怖いですねぇ(笑)。
――最後に、このゲームは、自信を持って面白いものに仕上がりそうですか?
坂本 もちろんですね。産みの苦しみはありますけれど、僕の経験上、最適解を求めるのに努力が必要なものほど、当たったときのエネルギーが高いんですよ。それがないままスルッと行ってしまうと、結局引っかかりがなかったりする。今回は良い意味でずいぶん悩まされたので、それはつまり新しいもの、答えが世の中にないものを作っているということなんです。まあ逆に出てしまうこともあり得るんですけれど(笑)、それだけのポテンシャルを持っているものを作っている、と考えています。
谷田 今回は新しいものにトライしている部分も多いですし、日本だけでヒットするためのものに終わらず、世界のいろいろな人にリーチできるように設計しています。そういった意味でも、言いたいこと、やりたいことはかなり入れ込めたかなと思っていますので、かなり自信はありますね。期待していただければと思います。
(2014年10月収録)
※画面は開発中のものです