350万ダウンロード達成している、Wright Flyer Studiosの人気ゲーム『消滅都市』。そのサウンドトラックが2014年11月12日(水)、11月26日(水)にiTunes、Amazon MP3などで発売された。今回はそのサウンドトラックについて、『消滅都市』のサウンド制作を担当したノイジークロークの3人に伺った。
▲左からBGMを担当した加藤浩義さん、効果音を担当した蛭子一郎さん、BGMとディレクションなどを担当した川越康弘さん。
消滅都市オリジナルサウンドトラック特設サイト
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/home.html
【たっぷり開発者インタビュー】あの、スタイリッシュなサウンドはどうように生まれたのか――『消滅都市』サウンドチームの場合【前編】
http://otakuindustry.biz/archives/1326
◆サウンド制作側とゲーム制作側、両輪となって作り上げたサウンドトラック
――サントラ発売はどのように決まりましたか?
川越 まず『消滅都市』リリース初日にTwitterなどを見ていたら、サウンド面のよい評価をたくさん見かけました。またグリーさんからもリリース1週間後くらいに「サウンドの評判がすごくいいです」というご連絡を頂けて。それで「ノイジークロークのレーベルから、配信だけでもしてみたいな」と思って、社内に話を通してグリーさんに提案しました。
――グリーさん側の反応はいかがでしたか?
川越 率直なところ、かなり難航しました。そのころ、スマートフォンゲームのサントラは『パズル&ドラゴンズ』くらいでしたし。僕らもスマートフォンゲームのサントラは初の試みで、それを出すことによるグリーさん側のメリットをなかなか提示できませんでした。これがコンシューマゲームであれば「30万本売れてるから、3000枚ぐらいサントラが売れて、これくらいの分配ができるかもしれません」などと言えますが、今回は未知数なことが多くて。そこで色々と協業の仕方を考えて提案し、ようやくお互いに利益がありそうだと理解して頂いて話を進められました。
――その際に2枚に分けて出すことも決まっていましたか。
川越 それはグリーさんからの提案です。最初はもう少し早い時期に1枚目を出して、4章配信のタイミング(2014年9月)に合わせて2枚目を出す、と考えていました。ただ1~3章と4章以降は別の話で、ユーザー層も異なるので、分けるのが自然だろうという判断です。
――サントラをリリースするまでに、どんなご苦労がありましたか?
川越 ゲーム用に作ってあった音源をサントラ用に処理する作業は、それほど時間がかかりませんでした。ただ加藤には、既存曲のリミックスやロングバージョンを作ってもらいましたね。
加藤 新しく作ったのは7曲くらいかな。新しい展開を付け加えたり、歌を入れたり。
川越 あとはゲームでは採用されなかった曲をサントラ用に仕上げ直しました。結局、僕と加藤を合わせて1週間くらいの作業だったでしょうか。
――iTunesで配信するからこそのご苦労などはありましたか?
川越 あまり詳しくは申し上げられませんが、これまでのようにCDを管理したり、発売したりするコストと比べると、苦労は格段に小さいですよ。
――CDを出すという話はなかったのでしょうか?
川越 僕らはCDでもいいかなと思っていましたが、グリーさんから「ゲーム自体が配信タイトルなので、サントラも配信なのが自然じゃないか」という提案がありました。実際、配信のみで僕らもやってみて感じましたが、たとえば告知サイトでiTunesに直接リンクを貼れたり、あとは曲単位で購入されるかたも多かったりして、色々とメリットがあると思います。
――人気曲を教えてください。
川越 『Eternity』、『I miss you baby』の2曲はすごく人気がありますね。両方とも加藤の曲です(笑)
加藤 TVCMが放送された以降、そのBGMだったおかげで『Eternity』のダウンロード数が伸びましたね。
※ゲームではタイトル画面で使用されている『Eternity』の試聴は以下のサイトから。
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/first_album_talk01.html
――アルバムとしてのダウンロード数はいかがでしょうか。どれくらいダウンロードされているのでしょう?
川越 具体的な数字は申し上げませんが、iTunesの全サントラ部門で1位を獲得できた、というのが非常に大きな成果を示してくれていると思います。また、Amazon MP3の方でも、ゲームサントラ部門1位、全サントラ部門1位の二冠を達成しています。待ち望んでくださっていたユーザーのみなさまにお届けできたのかな、と思います。
蛭子 1枚目を聴くと2枚目も聴いてみたくなっちゃいますよね(笑)
川越 サントラ部門1位などの成果はグリーさんにも本当によろこんでいただけました。そして何より、今回のサントラ配信を通じて、グリーさんとの関係がより深くなれたと思います。たとえば僕らからは「サントラ用に作った曲を、ゲームで使って頂いて構わないです」という約束をしましたが、それによってグリーさん側はコストを発生させずに新曲を追加できる。逆に、僕らにとっては想定外だったのですが、グリーさんがサントラ発売に合わせてTwitterやゲーム内で宣伝してくださって。そういった協業体制を築けたことは何事にも代え難いです。
――それはいい話ですね。
川越 おかげさまで、今後『消滅都市』以外にも、どんどんうちのレーベルからリリースしていきたいなと思うようになりました。
◆今年は『消滅都市』の曲がバンドサウンドで聴ける!?
――内容も凝っていますよね。2枚目の最後のクラブミックスで2曲がつながるところとか、聴いていて楽しいです。
加藤 あれもグリーさんからの提案なんですよ。
川越 最初「もう、サントラは自由に作ってください」と言われていました。ところが、いったんマスタリングしたものを提出したら、先方も楽しくなってきちゃったようで「ここをもう少しこうできます?」といった要望をいただいて(笑)。お互いに作っていくなかで思い入れがどんどんと強くなっていって。サントラ発売に際して、グリーディレクターの下田さんが寄せてくださったコメントに、僕ら感動しちゃいました。このコメントは特設サイトで見られます。
消滅都市オリジナルサウンドトラック特設サイト
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/home.html
加藤 内部ディレクターの陣内からも駄目出しがありましたしね。
川越 「この曲間を0.5秒縮めて」とかね。ノイジークロークの社内スタジオでマスタリングをしましたが、加藤たちがスタジオから全然出てこないまま同じところがずっと聞こえてきて……曲間をいじっていたようです(笑)。
加藤 好きな作品ですし、こだわりたかったので、やりたいことをやりました。
――加藤さんが『消滅都市』にハマったかハマっていないかがすごく大きかったと。
川越 この前なんて、「自腹でもいいから歌を録りたい」とか言ってましたしね(笑)。
――最後に今後の展望をお願いします。
加藤 2015年は、もう少し『消滅都市』関連で、色々と何かやりたいなと考えています。
――たとえばバンド「TEKARU」(ノイジークローク社員で構成されたバンド)のライブで聴けるとか?
加藤 バンドでやっている曲との差が激しいので、少し葛藤はありますけどね。そのままバンドでコピーしてもダサくなってしまいそう。
川越 そうですね、何らかのアレンジをした形でお聴かせできるかもしれません。
――蛭子さんがサンプラーを持って現れるのはいかがでしょう。
蛭子 僕は今のところバンドメンバーではなく、効果音担当なので……。
――サントラに入ってるスペシャルミックスに効果音が入ってるのはよかったです。
蛭子 あれは入れて頂けてうれしかったですね。
加藤 あれはもう、絶対に入れるって決めていました。
川越 ああいうこともすごくグリーさんがノリノリで、自由にやらせてくださったことに正直驚きました。「グリーさんて、すごく柔軟だなあ」と。
――たとえば楽曲の追加や、さらなるサントラは……?
川越 楽曲の追加に関しては、ありがたいことに、順次いただいている状態です。ですので、もちろんさらなるサントラ展開も考えていけるかなと思っています。新章となる5章の楽曲も加藤が担当しておりますので、ぜひお聴きいただければと思います。
――ありがとうございました。
今回の話を聞く限り、『消滅都市』においてサントラの制作はさまざまな意味で上々の成果を得たようだ。このようにスマートフォンゲームでもサントラの成功事例はいくつか生まれている。今後も多くのスマートフォンゲームサウンドが発売されることを期待したい。