『NBA CLUTCH TIME』伝説のふたりがNBAゲーム化に挑む!【インタビュー前編】

 NBA公認ゲームとして、ファンの間で話題となっている最新作『NBA CLUTCH TIME』。現役選手からレジェンド選手までが登場し、全員が3Dキャラクターとして動き回るムービーも公開。バスケットボールファンだけでなく、多くのスポーツゲーム好きにも注目されているタイトルだ。
 今回は、このニューカマータイトルについて、パブリッシャーとなるマーベラスの谷田統括プロデューサーと、開発会社であるたゆたうの坂本開発・運営プロデューサーにインタビュー。その様子を前後編でお送りする。

 前編は、このタイトルを指揮するふたりについて。実はこのふたり、それぞれに「ゲーム界の伝説」として名を馳せた人たちなのだ。その驚くべき経歴について、踏み込んで聞いてみた。

NBA CLUTCH TIME

NBACT 谷田プロデューサー・坂本プロデューサー

株式会社マーベラス
 谷田優也(統括プロデューサー)(写真左)

株式会社たゆたう
 坂本慎一(開発・運営プロデューサー)(写真右)

『NBA CLUTCH TIME』公式ホームページ
◆国内トップを土下座させたザンギエフ使い
――では、作り手となるおふたりの人となりから伺ってみたいと思います。まず谷田さんですが、どうやら格闘ゲームのプレイヤーとして、全国でもトップクラスらしいじゃないですか。

谷田 いやいや……トップというほどではないですけれど、昔、雑誌に特集を組んでいただいたことがある程度で。継続的に強いわけではなくて、配信などの試合で、たまにすごく強い、という感じです。大きな大会で、何度かジャイアントキリングをしたことがあるんです。

――知る人ぞ知る、『ストリートファイターIV』(カプコン)シリーズのザンギエフ使いで大変有名なアカホシさんなんですよね?

谷田 あのー、そうです(笑)。この間はクウェートから大会に招待されたり、今回の『NBA CLUTCH TIME』で香港に出張に行ったときに、香港のナンバーワンプレイヤーから「アカホシさん、香港にいらっしゃるなら対戦お願いします」なんてダイレクトメールが来ました。

――世界的に有名なトッププレイヤーなわけですね。

谷田 いやいや、トップではないんです。妙に有名になってしまって。

――一応伺っておきたいんですが、「土下座事件」って何ですか?

谷田 調べてますねぇ(笑)。USTREAMで定期的に配信している格闘ゲームの大きなコミュニティで「GODSGARDEN」という団体があるんですけれど、そことウチの友達ギルドとの5on5(5人同士)対戦がネット生配信される機会があって。向こうは海外の大会でも結果を残しているトッププレイヤーばかりで、普段から3000人以上の視聴者がいる配信なんですが、たまたま直前の大きな大会で相手チームが準優勝していたので、6000人くらいが観ていたんですよ。

――ちょうど注目度の高いタイミングで。

谷田 で、ウチは僕が一番弱かったので先頭で行ったんですが、いきなり5人抜きをしちゃいまして。

――国内トップ相手に5人抜きですか!

谷田 番組的にはとんでもないことになってしまったので、相手から電話がかかってきて「もう一度お願いできませんか」と言われたんですけど、僕らは僕らで『桃太郎電鉄』(ハドソン)をやる準備をしていたので「桃鉄やるからムリ」と答えてガチャ切りしたんです(笑)。それでもお願いされるので、とんねるずのノリを持ち込んで「誠意が見たいなぁ~」と振って、世界中に配信されている前で、全員に土下座をしてもらいました(笑)。

坂本 いやー酷い人ですねぇ!(笑)

谷田 まあ再試合で僕らが負けたので、バラエティ的には絵になるノリになりました(笑)。

――今年の夏には、ザンギエフのイベントも主催したそうですね。

谷田 よくご存知で(笑)。8月に、ザンギエフ使いだけが集まる格闘ゲームの大会をやりたいと思って、阿佐ヶ谷ロフトAでイベントをやりました。集客目標はせいぜい20~30人くらいだったんですけれど、北は秋田から南は福岡熊本までのお客さんが75人くらい来てくれて、お店の8月の売上げベスト3に入ったので、またやってくれとお店から毎月言われてますね。

――そのアカホシさんが、なぜマーベラスにいらっしゃるんですか?

谷田 そう来ますよね(笑)。プレイヤーとしては前職にいた頃からですけれど、それはあくまでもプライベートということで別です。前職からの転職にあたって、これからネイティブアプリの時代だということで、コンシューマの技術力とオンラインのノウハウ、ある程度の資本力を持っている会社に行きたいなということで、マーベラスに入りました。

――会社ではアカホシさんとしての活動は問題ないんですか?

谷田 いまのところ、バレていないので(笑)。ただ、入社した次の日に、社内の新卒男子から「アカホシさん! なんでここに! 握手してください!」と詰め寄られたことはあります(笑)。でもウチの会社には、今年のEVO(編注:世界最大の格闘ゲームの祭典)の『アルカナハート3』(エクサム)部門で優勝したスタッフもいるので、問題ないかなと。

――マーベラス、魑魅魍魎じゃないですか(笑)。

谷田 そうなんです(笑)。

坂本 いい会社ですね(笑)。

――谷田さんは、マーベラスではどんなお仕事を?

谷田 新規のネイティブアプリの立ち上げです。前職ではライセンス物を扱っていたので、ここでも国内外のライセンスの交渉をしつつ、ネイティブの開発をできる開発会社とのお付き合いをしています。
NBACT谷田プロデューサー
◆30年以上ゲームを作り続けた男
――一方の坂本さんも、ゲーム業界では知る人ぞ知る、伝説のビッグネームじゃないですか。

坂本 いや、細々とやってます(笑)。

谷田 何言ってるんですか、ビッグネームですよ!

――最初に関わられたゲームは、どんなタイトルですか?

坂本 最初はテーカン(現コーエーテクモゲームス)のアーケードゲーム『ガズラー』(1983年)で、デバッグからですかね。テーカンに入ったのは1982年で、学校を辞めて入ったんですよ。

谷田 1982年10月8日ですよね。それ、僕の誕生日なんですよ。

――坂本さんがテーカンに入った日と、谷田さんが産まれた日が同じ!

谷田 そういうことある!? って驚きました(笑)。

坂本 ずいぶん前ですね(笑)。テーカンでは、当時はサウンドのプログラムがコンパクトで一番作りやすかったので、プログラマーで入っても最初はサウンドからだったんです。その後は、『SENJO』(1983年)のサウンドと一部ロジック。同時にメダルゲームもあって、その辺を、後のメタルユーキ(作曲家・ゲームデザイナー)たちと一緒に作っていたのが最初ですね。

――以降、一度も離れることなく、ゲームの開発に携わられているんですか。

坂本 気がつけば、離れていないですね。

――キャリアを通じての代表作というと、何が挙げられますか?

坂本 ウエストン在籍時に手がけた『ワンダーボーイ モンスターランド』(1987年、発売セガ)ですね。『ワンダーボーイ』(1986年、発売セガ)は僕じゃないんですけれど、『モンスターランド』のサウンドは僕がやっています。デバッグやチューニングも一緒にやっていますが、形として残っているのはサウンドということになりますね。

谷田 僕が小学校の頃、近所のスーパーのゲームコーナーで一番お金を突っ込んだのが『モンスターランド』ですよ。『ストリートファイターII』(1991年、カプコン)が出てきた後もずっと『モンスターランド』が置いてあって、あまりにやりすぎて管理人のおじさんがクレジットサービスをしてくれるくらいでした(笑)。

――坂本さんがディレクションする側に回ったのはいつ頃ですか?

坂本 当初はそれほどちゃんと住み分けがされていなくて、テーカンに入ったのもサウンドじゃなくてプログラマーだし、その次に行ったNMKでもサウンドとプログラムを両方やっていたしで、あまりハッキリしないですね。覚えているところでは、ウエストンで作って小学館プロダクションで出した、セガサターンの『結婚 ~Marriage~』(1995年)は僕がディレクターをやっています。

――それでも20年近く前からですね。

坂本 そのときに知ったのが、ディレクターは一番ゲーム作りにアプローチしている人間ではあるけれど、反面まとめ上げる調整能力が問われるので、これは四面楚歌な仕事だなと(笑)。

――ちなみに、32年もの間、作り手として一線で活躍している人って、他にいるんでしょうか。

坂本 僕は年齢的にスタートが早かったですからね……。現場はちょっといないかもしれません。自分が一線級なのかどうかは分かりませんけれど(笑)。でも、現場主義なので、一生現役ではいたいですね。ゲーム自体が好きだし、ゲームを作っていたいです。

NBACT坂本プロデューサー
――しかし、業界に入った日と生まれた日が同じだったり、代表作をやり込んでいたりと、やけに運命的なふたりですね。そんなふたりがNBAのゲームを作るというのは意外な感もありますが、どういった経緯でスタートしたタイトルなんですか?

谷田 僕が入社する直前に、マーベラスがNBAとコミュニケーションできる機会があって。僕は前任者から引き継いで、詳細を去年の夏過ぎから詰め始め、条件が見えてきたところで開発会社さんを探しました。その中でたゆたうにご相談をしたんですが、最初は人的リソースの問題や、バスケに強いスタッフがいらっしゃらなかったのもあって、お断りをいただいてしまいまして。

坂本 酷い会社ですね(笑)。でも、あの時点ではちょっと難しかったです。

谷田 その後もいろいろな会社とお話をしたんですが、なかなか決まらず、どうしようかなと思っていたところに、たゆたうの社長さんから「バスケ好きがふたり入社しました」というご連絡をいただいて(笑)。そうして坂本さんともお会いして、具体的なお話になっていきました。

――二社の役割分担としては、どういう形になるんでしょうか。

谷田 NBAとのやりとりや国内プロモーションなどはマーベラスで引き受けて、開発は基本的にたゆたうにお願いする形です。

坂本 たゆたうはスポーツ系ゲームの経験があって、どの辺りが肝になるかをある程度つかめていますし、いま現在も海外のタイトルを運営しているんです。今回の『NBA CLUTCH TIME』も海外での展開が決まっていますから、たゆたうのノウハウもうまく活かせるのではないかな、と思っています。

――最初からNBAのゲームありきで組んだわけですね。

坂本 初めてお会いしたとき、マーベラス側からいろいろな質問があって「試されている!」という感じだったんですが(笑)、まず僕がお答えしたのが「今回はカードゲームはないでしょう」ということでした。NBAの良さを出すのに一番いい形は何かと考えたときに、カードは分かりやすい記号ではありますけれど、スポーツとしてはうまい表現にならないんじゃないかな、と思ったんですよ。

谷田 あれはピンポイントのキーワードでした。僕は前職でライセンス物の野球カードゲームをプロデュースしたこともあるんですが、ライセンス物なのでビジネスとしては売上の見込みが立つものの、スポーツを表現するとは何か、という疑問はぬぐえなくて。ずっと前から、格好良さや動きなどの“スポーツらしさ”をもっと表現できたらいいのに、と思っていたんです。そこで坂本さんがキーワードを出してくれたので、これだ、と。それをできる会社とご一緒したいな、と改めて思いましたね。

NBACT 前編はここまで。次回後編は、いよいよゲームの具体的な内容に迫っていく。「NBAをゲームで表現するとは何か?」など、踏み込んだ情報が満載。お楽しみに!

(2014年10月収録)

※画面は開発中のものです